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救急車が有料に?-救急搬送の現状と課題
基礎研REPORT(冊子版) 2016年9月号

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
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1――はじめに
そこでは、病院から地域へと、医療の現場が、広がっていく。即ち、高齢患者は退院して、在宅医療・介護等でケアを進めることとなる。その結果、在宅の高齢者が、脳卒中や、急性心筋梗塞などで倒れた場合の、救急搬送体制の整備が、従来以上に重要となる。そこで、本稿では、救急車による救急搬送の現状と課題について、紹介することとしたい。
2――救急搬送の現状
1│救急搬送の件数は、年々増加
まず、数量面から見ていこう。2015年4月現在、全国で750の消防本部がある。1,719の市町村のうち、1,689で消防法の救急業務を実施している。30町村は、消防機関が未常備となっている*1。救急隊*2は、全国で、5,069隊配備されている。救急隊員の数は、61,010人で、そのうち、救急救命士の数は、26,015人となっている。これらの数は、近年、徐々に増加している。
次に、救急車の配備と出動の状況を見てみよう。2015年には、全国で、6,184台の救急自動車が配備されている。その数は、年々増加している。救急出動件数は、605万件に上った*3。搬送された人は、547万人となっている。いずれも、7年連続で増加しており、過去最多となっている。
日本の人口は、2008年に減少に転じているが、高齢者(65歳以上)の数は増加している。このことが、救急車の出動件数の増加の背景にあると言える。
3――救急搬送の課題
1│頻回利用と軽症利用の課題がある
救急車の出動回数の増加には、同じ人が何回も救急車を呼ぶ頻回利用や、軽症の人が呼ぶ軽症利用の問題がある。
(1)一部利用者による頻回利用の問題
2014年に、10回以上、救急車を要請した人の実績を、見てみよう。
全国でわずか2,796人の頻回利用者が、年間52,799回もの出動要請をしている。これに対して、各消防本部は個別対策を行っている。例えば、事前に頻回利用者の家族等に説明しておき、本人の要請時には、家族等と協議の上、対応する、などである。
(2)軽症利用が約半数を占める問題
2014年に、救急車で搬送された人のうち、約半数の49%が軽症となっている。急病で49%、交通事故で77%、一般負傷で59%が軽症であった。近年、軽症での救急搬送が、多発している。
軽症での利用について、そもそも救急搬送の必要はなかったのではないか、との指摘がなされることがある。しかし、その中には、骨折等のため緊急に搬送を行い、直ちに治療を行う必要があったが、搬送先の医療機関において適切な治療を行うことで、入院せずに通院で治療することになった事例も含まれている。つまり、軽症の傷病者でも、救急搬送が必要な場合がある。
また、傷病の程度について、素人目には軽症に見えたとしても、医師の精密検査の結果、中等症以上と診断される場合もある。このような場合に、救急搬送をしなければ、症状が悪化する恐れも出てこよう。
2│転院搬送の適正化も必要
より高度な治療等のために、医療機関の入院患者等を、他の病院に搬送することを、「転院搬送」という。通常、病院の救急車等が使われる。緊急度や重症度が高い場合は、消防の救急車が使用される。その占率は低下傾向だが、件数は増えている。
転院搬送にも、課題がある。消防管轄区域外への搬送の許容範囲が不透明。医師・看護師等の同乗要請の協力度が低い。緊急度の低い転院搬送が多発、等である。そこで、要件の明確化や、ガイドラインの作成が行われている。
3│有料化の賛否が渦巻いている
頻回利用や軽症利用を背景に、救急車利用の、有料化の議論が出てきている。行政コスト削減の動きが強まる中で、その賛否が渦巻いている。2015年に、財政制度等審議会は、救急出動の一部有料化を検討すべき、との建議*4を財務大臣に行った。
このうち、頻回利用の問題については、個別対策で、一定の効果が上がっている。また、軽症利用については、医師以外の人が、どのように軽症の線引きをするかという問題がある。これが曖昧だと、救急隊と傷病者の間のトラブルが頻発しかねない。
また、有料化する場合、生活困窮者が救急要請を躊ちゅうちょ躇する懸念がある。有料化によって救急車の要請をためらった結果、救命に支障が生じれば、裕福な者と、生活困窮者の間で、医療格差が生じることにもつながりかねない。その他、実務では、料金徴収の事務負担の検討も必要となろう。
海外では、救急搬送を有料化している事例もある*5。有料化の議論の際は、これらの事例で、どのような効果や、問題が生じているかを、参考にすべきと考えられる。
4――おわりに
(2016年09月07日「基礎研マンスリー」)

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
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