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医療費は各年齢でどれくらいかかるものなの?
保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
1――1人当たり医療費の現状
1 保険診療対象ではない評価療養(先進医療等)、選定療養(差額ベッド代、歯科の金属材料等)、不妊治療における生殖補助医療等に要した費用は含みません。また、傷病の治療費に限定しているため、正常な妊娠・分娩に要する費用、健康の維持・増進を目的とした健康診断・予防接種等の費用、固定した身体障害のために必要とする義眼や義肢等の費用も含みません。
2 この医療費は、患者の一部負担や、医療保険等からの給付などによって賄われます。
4つの年齢層に分けて、1人当たり医療費(図表1)と生涯医療費増加(同2)の特徴を見てみましょう。
(1) 20歳未満
0~4歳の生後5年間で、100万円を超える医療費がかかります。この時期は、病気やケガで医療費がかさみやすいものとみられます。その後、年齢が進むと、医療費は減少していきます。15~19歳は、生涯で医療費が最も少額となります。男女別に見ると、男性のほうが医療費が多くかかります。
(2) 20~49歳
1年間の医療費は20万円未満で、比較的少ない時期です。ただ、年齢とともに、医療費は徐々に増えていきます。この時期は、女性のほうが医療費が多くかかります。女性特有または女性に多い病気により医療費がかさむものとみられます。45~49歳で、医療費は男女ほぼ同額(20万円)となります。
(3) 50~64歳
男女を問わず生活習慣病を発症しやすくなったり、女性を中心に更年期障害が生じたりするため、医療サービスの利用が増加します。1年間の医療費は20万円を超えて、年齢とともに増加していきます。この時期以降は、男性のほうが医療費が高くなっています。
(4) 65歳以上
様々な病気にかかることで、医療サービスの利用が本格化します。年齢が進むとともに、医療費が急増します。生涯医療費の増加の様子を見ると、女性は80~84歳、男性は75~79歳で、増加の勢いがピークを迎えます。国民全体では、平均寿命に至る前の年齢で医療費がかさむ形となっています3。
65~69歳と75~79歳の年齢区分を比べると、男女とも、10歳の違いで医療費が1.6倍程度に膨らんでいます。高齢化の議論では、65歳以上の人を高齢者と一括りにすることがありますが、同じ高齢者でも60歳代、70歳代などの年齢層ごとに、医療費のかかり方は大きく異なることがわかります。
なお、生涯医療費の約6割(男性は56%、女性は60%)は65歳以上。約4割(男性は36%、女性は44%)は75歳以上にかかります。2025年には、1947~49年生まれのいわゆる団塊の世代が75歳以上となります。今後、高齢化の進展とともに、高齢者の医療費負担の問題がさらに高まっていくでしょう。
3 第22 回生命表(完全生命表)(厚生労働省)によると、2015年の平均寿命は、女性86.99歳、男性80.75歳となっています。
2――入院有無別に見た1人当たり医療費
3 図表3と図表4は、図表1を、それぞれ入院医療費、入院外医療費に分解したものです。
次に、入院外医療費です。入院外の診療費に、歯科診療医療費、薬局調剤医療費、訪問看護医療費、および柔道整復師・はり師等による治療費や移送費などからなる療養費等を加えたものを、入院外医療費として見てみます。2015年度の国民1人当たりの入院外医療費は、20.5万円となっています。
年齢ごとに見ると、入院外医療費は、0~4歳には年間10万円を超えていますが、その後、10歳代には減少しています。そして、20、30、40歳代と年齢が進むに連れて、徐々に増加します。女性は30~34歳、男性は40~44歳で、年間10万円を超えています。20~49歳の時期は、通院で病気を治療する費用が増加していくことがうかがえます。そして、50歳代以降、増加のペースは上がっていきます。
ただし、入院医療費と違って、入院外医療費は、年齢とともに増加し続けるわけではありません。80~84歳でピークを迎えるのです。85歳以降は、通院が困難となり、入院を中心とした医療が行われるために、入院外医療費は頭打ちになるものと考えられます。
医療費は、高齢期にかかる割合が高いといえます。特に、入院医療費は、80歳代以降で年齢とともにうなぎ上りに高まっていきます。高齢期には、悪性新生物、急性心筋梗塞、脳卒中などの生活習慣病だけではなく、肺炎に罹患する人や、老衰の状態になる人が増えていくものとみられます。
近年、増大を続ける医療費は、社会的に大きな問題となりつつあります。これまでに見てきた各年齢での医療費のかかり方を踏まえて、医療費削減の方向性を考えてみましょう。
まず、高齢期前までです。この時期には、年齢が進んでも医療費があまり増加しないように抑制することが必要です。そのためには、社会全体で、禁煙、正しい食生活、適切な運動、十分な睡眠などの健康増進のための活動や、予防医療の取組みを進めて、患者の数を減らしていくことが不可欠です。
その上で、高齢期以降には、高齢患者のニーズに応じたケアを進めることが大切です。従来のような病気の完治を追求するだけではなく、寛解を目指す医療を進める。そのために、高度急性期や急性期の病床を、回復期や慢性期の病床に移しかえる。さらに、医療から介護へ、施設から在宅へと地域包括ケアシステムの取組みを推進する、といったことがポイントとなります。
医療費削減のためには、国民1人ひとりが求める医療の中身と、国民全体の医療費の動向を関連づけて議論する必要があります。その議論の動向に、引き続き、注目していくことが求められます。
(2018年04月02日「基礎研レター」)
保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
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