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医療の値段(診療報酬)は、どのように決められているの?
保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
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1――医療の値段の決め方
医療は、公的医療保険制度の中で、公定価格として、全国一律の値段が決められています。これは、「診療報酬」と呼ばれており、値段表にあたるものが「診療報酬点数表」としてまとめられています。診療報酬点数表は書店で販売されたり、インターネット上で公開されたりしており、誰でも内容を読むことができます。診療報酬の本体は医科、歯科、調剤の3つの区分に分けられています。そして、併せて、薬価と材料価格が、薬価等として設定されています。
診療報酬は、問診等の基本的な診察、血圧測定等の簡単な検査、処置、入院、手術、投薬などの具体的な医療行為ごとに、点数として示されています。点数は、1点=10円換算となっています。
診療報酬は、「出来高払い方式」をベースにしています。これは、医師や歯科医師などが、実際に患者に行った医療行為ごとに、診療報酬を設定し、その合計額を医療の値段とするものです。この方式は、実際に行われた診療の内容に応じて値段が決まるという意味で、合理的といえそうです。しかし、医療サービスの提供者側からみると、医療行為を行えば行うほど、報酬が増える仕組みともいえます。このため、不必要な診療や投薬などの、過剰医療を招きかねないという課題があります。
そこで、比較的規模の大きい病院では、「包括払い方式」と呼ばれる値段の決め方が、行われるようになりました。これは、1つ1つの医療行為ではなく、一連の医療サービスを一括りにして、診療報酬を設定するものです。一連の医療サービスの決め方には、いくつかの方法があり、国によって異なります。日本では、疾患ごとに定められた入院1日あたりの医療サービスの費用に基づいて、患者の入院日数に応じて診療報酬を設定する方法が用いられています。この方法では、病気の種類に応じて、あらかじめ医療の値段が決まっていますので、過剰医療が抑制されることが期待できます。
各部会の審議を経て、診療報酬改定に関する基本方針に従って、厚生労働大臣の諮問機関である中央社会保険医療協議会(中医協)が、具体的な診療報酬点数の設定について、審議を行います。
中医協は、全部で20名の委員で構成されています。医療サービスを行う医師、歯科医師、薬剤師を代表して、7名の委員が診療側委員とされています。一方、診療報酬を支払う健康保険や国民健康保険等の保険者と、被保険者や事業主等を代表して、7名の委員が支払側委員とされています。また、診療側委員と支払側委員の調整や、診療報酬改定の結果の検証、国民への説明を担う公益委員として、6名の委員が定められています。中医協の会長は、公益委員の中から選ばれます。公益委員は、非常勤の特別職国家公務員という身分で、その任命には、国会の同意が必要とされています(国会同意人事)。
中医協の審議においては、様々なデータが参照されます。例えば、医業経営指標として、病院経営収支調査、医療経済実態調査、医薬品価格調査、特定保険医療材料・再生医療等製品価格調査などが審議の前提となります。一方、経済指標として、物価指数、賃金指数、国内総生産指数などの動向も参照されます。これらのデータに加えて、診療側委員からの改定要望の表明、支払側委員からの意見の提出が行われ、各項目の審議が進められていきます。
2――医療費を巡る課題
このため、医療費削減に向けた様々な取り組みが進められています。特に、医薬品の公定価格である薬価について制度の見直しが行われています。治療効果の高い高額の抗がん剤について緊急的に薬価を引き下げたり、薬価改定の頻度を2年ごとから毎年に変えることが予定されたりしています。併せて、特許期間切れとなった医薬品について、後発薬(ジェネリック)の処方を推進することで、医療費の引き下げを図る取り組みも進められています。更に、費用対効果を踏まえた薬価の設定方法が、イギリスなどの先進事例を踏まえつつ、検討されています。
一方、入院に関して、病床数の削減や、病床機能の見直しが進められています。日本の主要な死因は、悪性新生物、心疾患、脳血管疾患等のいわゆる生活習慣病が中心となっていますが、近年は、肺炎や老衰が増加しています。これにより医療の目的は、病気を完治させることだけではなく、病状を軽減して寛解させることも含めて、多様化しつつあります。そこで、従来、高度急性期や急性期のためとされてきた医療施設の病床を、回復期や慢性期の病床に移行させて、看護師等の配置密度を下げることで、ケアの内容に見合った医療体制に変更するとともに、医療費の削減を図ろうとしています。
更に、これまでは、患者が病気になってから治療を開始するという医療が中心でしたが、病気になる前から健康管理を行い、病気を予防する、という予防医療の取り組みが始まっています。
これまで、予防医療については、保険医療外として、予防にかかる医療費は全額患者負担とされてきました。このため、なかなか取り組みが進まなかったという側面があります。今後、予防医療に対する診療報酬のあり方を見直すべき状況が迫りつつあるといえるでしょう。
近年の医療費増大は、診療報酬の医科・歯科部分が中心となっています。したがって、医療費を抑制するために、この部分の報酬の切り下げの是非が、重大な審議事項となっています。ただし、診療報酬を切り下げれば、医療サービスが低下する恐れもあります。
人口の高齢化が進む中で、ますます必要とされる医療サービスの量と質を、単純に現在のまま維持しようとすれば、医療費の増大は避けられないでしょう。一方、やみくもに医療費削減を進めれば、患者に必要な医療サービスが提供できない事態が生じてしまいます。診療報酬の見直しは、医療サービスの見直しとセットで議論することが必要です。
医療サービスは、社会で人々が健康的な生活を送るためにに不可欠なものです。このため、診療や、処置、入院、医薬品など、各項目について診療報酬の審議を見守っていくことが望まれます。併せて、医療費と医療サービスのバランスのあり方について、社会全体で議論を深めていくことが必要と考えられます。
(2018年03月01日「基礎研レター」)
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保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
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