コラム
2021年04月15日

国民負担率は過去最高-高齢化を背景に、今後もさらに上昇するか?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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国民負担率は、過去最高となっている。2月に財務省は、2020年度の「国民負担率」を公表した。国民負担率は、個人や企業の所得に占める税金や社会保険料の割合で、公的負担の重さを国際比較する指標に利用する。毎年、昨年度までの実績、今年度の実績見込み、来年度の見通しを示している。この国民負担率について、考えてみよう。

◇ 国民負担率は、国民所得に対する比率とされることが一般的

国民負担率は、国税や地方税の租税負担と、国民年金や健康保険の保険料などの社会保障負担の合計を、所得で割り算して算出する。所得には、国民所得もしくは国内総生産(GDP)を用いる。メディアが主に報じるのは、国民所得を用いた数字だ。

広辞苑(第七版)(岩波書店)では、国民負担率を、「国・地方租税負担と社会保障負担(社会保険料負担)の合計額の、国民所得に対する比率」としている。他の国語辞書も同様だ。国民所得を用いた数字が、国民負担率とされることが一般的といえそうだ。

◇ 2019年度は過去最高をマーク

国民所得をベースとする国民負担率の、2019年度の実績は、44.4%で過去最高だった。10年前の2009年度と比べると、7.2ポイント上昇した。2020年度の実績見込みは、さらに高い46.1%となっている。また2021年度の見通しは、44.3%となっている。

近年の国民負担率の上昇には、2014年4月と2019年10月の2度の消費税率引き上げや、高齢化に伴う医療や介護などの社会保障負担の増大という背景があるだろう。

2022~24年にかけて、1947~49年生まれの、いわゆる団塊の世代が75歳以上となる。高齢者の医療や介護のニーズは、さらに高まるだろう。国民負担率の上昇圧力は、高まっていくといえそうだ。

◇ 日本は諸外国と比べると低水準だが…

それでは、日本の国民負担率は、諸外国と比べて高いのだろうか、それとも低いのだろうか? 国民負担率の国際比較をみてみよう。

比較可能な直近のデータとして、2018年(日本は2018年度)の数字をみてみる。日本44.3%、アメリカ31.8%、イギリス47.8%、ドイツ54.9%、スウェーデン58.8%、フランス68.3%となっている。日本は、社会保障負担が伝統的に低水準のアメリカよりは高いが、高福祉の欧州諸国よりも低い。

しかし、日本の国民負担率の伸びは大きい。リーマン・ショック前の2006年からの増減をみると、日本は他の国よりも大きく上昇している。世界で最も高齢化が進む日本では、急激に、租税や社会保障の負担が高まっている。
図. 国民負担率の国際比較

◇ 海外ではGDP比の指標が一般的

ただ、国民負担率をみるときは注意が必要だ。そもそも“国民負担率”は、世界的に使われている言葉ではない。直接対応する英語やフランス語はなく、日本独特の用語だ。

日本では従来、租税と社会保障の負担を国民所得で割り算した数字を国民負担率としている。これに対して、海外ではGDP比でみた租税や社会保障負担の指標(以下「GDP比の指標」という)を用いることが一般的だ。財務省は、OECD(経済協力開発機構)加盟国のデータから、国民所得とGDPをベースにした2つの数字をそれぞれ計算し、各国の“国民負担率”として国際比較を公表している。

国民所得とGDPには、大きく3つの違いがある。国民所得はGDPをもとに算出するが、 (1) 海外での日本人の所得を加える一方で、国内の日本人以外の所得を除く、 (2) 設備などの減価償却(固定資本減耗)を除く、 (3) 価格に上乗せされた消費税などの間接税を除く一方で、値引きに使われたとみられる補助金を加える――といった調整をしている。

このうち、(3)の間接税の税率は、特に影響が大きい。たとえGDPが同じでも、間接税の税率が高いと、国民所得は小さくなる。そのため、GDP比の指標に比べて、国民所得をベースとする国民負担率は高くなる。つまり、間接税率の高い欧州諸国は、国民負担率が高めに算出されやすくなるわけだ。

◇ 国民負担率をGDP比でみると、欧州諸国との差は縮まる

実際に、GDP比の指標の国際比較をみてみよう。

先ほどと同様に2018年(日本は2018年度) の数字で、日本32.0%、アメリカ25.0%、イギリス34.4%、ドイツ41.1%、スウェーデン37.7%、フランス48.0%となる。各国とも国民負担率より数字が下がるが、日本の低下幅は欧州諸国よりも少ない。GDP比の指標でみると、欧州諸国との負担の差は縮まることになる。

現在、コロナ禍の対応で、多くの国が巨額の財政支出を行っている。これが、将来の租税や社会保障の負担にどのように表れるのか。国際比較をする際には、国民所得をベースとする国民負担率だけではなく、GDP比の指標なども用いながら、多面的にみていく必要がありそうだ。

◇ 実績見込みや見通しの数字は、低めに出る傾向がある

また、国民負担率をみるときには、実績見込みと見通しの率に注意が必要だ。

実績見込みは、年度途中で、今年度末までの実績を見込むもの。見通しは、来年度の見通しを示すものだ。これらは、経済動向の前提に基づく、国民所得や税収などの推移を反映した“推計値”だ。前提の置き方によって、推計値は変わってしまう。

これまでに公表された国民負担率の実績をみると、前年に示された実績見込みや、前々年に示された見通しよりも高くなる傾向がある。たとえば、2019年度の実績(44.4%)は、昨年示された実績見込み(43.8%)や、一昨年に示された見通し(42.8%)よりも高い。2018年度についても、実績(44.3%)は、実績見込み(42.8%)や、見通し(42.5%)よりも高くなっている。
表. 国民負担率の推移
このことは、見方を変えると、2020年度や2021年度の実績は、今年示された2020年度の実績見込み(46.1%)や、2021年度の見通し(44.3%)よりも高くなる可能性があることを示唆している。つまり、今後、国民負担率の実績はさらに上昇していく可能性がありそうだ。

こうしてみると、日本と欧州諸国の国民負担率の差は、さらに縮まるかもしれない。高齢化の動きも含め、国民負担率の動向について、引き続き、注意していく必要がありそうだが、いかがだろうか。

(2021年04月15日「研究員の眼」)

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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

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