コラム
2009年09月11日

眼に見えない税金の重さ

遅澤 秀一

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日本の税負担率は諸外国と比較すると高いとは言えないにもかかわらず、重税感を持つ人が多い。その理由の一つとして、直接の税負担以外にも社会保障費(社会保険料支払)の負担が重いことが挙げられる。だが、社会保障費を含めた国民負担率でも、OECD加盟国の中では低い部類に入る。

そうは言っても、年金や健康保険に関して支払額と受取額の差を考えれば、若い世代が不満を持つことは無理からぬことである。無駄な公共事業のツケを負担させられる大都市圏の住民の不満も理解できる。しかし、高齢者や地方在住者のように、受取超過としか思えない人達までが、被害者意識を持っているのはどうしたことか。恐らく、これは嫉妬深く、結果平等を求める国民性としか言いようがない。

それとは別に、国民負担として税や社会保障のように眼に見えるものばかりに焦点を当てること自体が問題なのではないだろうか。実は規制による既得権によって負担を強いられているケースが多いのだ。端的な例が農業保護である。OECDが開発した農業保護指数である生産者支持評価額(PSE:Producer Support Estimate)は、農産物の内外価格差による消費者負担と農家への補助金等の納税者負担を合わせたものだが、日本の場合、2008年で416億ドルにのぼる。そのうち、約9割が消費者負担らしい。平成21年度(2009年度)予算の消費税が10兆円程度なので、この金額の大きさがわかる。先の総選挙で食料品の消費税非課税化をマニフェストで謳った政党があったが、まったくナンセンスである。元の価格が「食料品特別消費税」を含んでいるようなものだからだ。

他にも、電力会社の地域独占、莫大な経済的価値を持つにもかかわらず破格に安い電波利用料しか払っていないテレビ局等、既得権は枚挙にいとまがない。資格、免許の類もそうだ。教員免許を持った教員が教える公立学校の教育が信頼できずに、教員免許を持たなくてもできる塾講師に教えてもらい有難がっている構図は漫画としか言いようがない。また、年金や医療分野の世代間格差も高齢者の既得権であろう。

リベラル派の経済学者の中には、国民負担率の低さをもって更に大きな政府を目指す余力があるという主張もあるが、規制による国民負担まで考慮しないと、とても公平な議論とは言えないだろう。規制による消費者負担という眼に見えない国民負担は、公正さに欠けるだけでなく成長力を失わせる弊害も持っているからだ。税金の使い道の無駄を排するだけでなく、規制による非効率化や不公正が是正されねば、国としての競争力向上はおぼつかない。
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