2024年02月19日

バレンタインデー×積み立てサービス-消費の交差点(4)

生活研究部 研究員 廣瀨 涼

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1――広がりを見せる「自分チョコ」市場

1――広がりを見せる「自分チョコ」市場

Job総研によると全体の89.3%が今年バレンタインを「渡さない」と回答したという1。最多理由は「お金がかかる」で物価高の影響が伺える。特に「義理チョコ」に関しては61.5%がその文化に反対を示しており、義理チョコ文化の衰退が読み取れる。

一方で、株式会社インテージが実施した「バレンタイン」に関する調査によると、バレンタイン贈答用チョコレートを自分のために購入すると答えた女性は全体の21.7%であった2。他にもぐるなびの調査では26.7%3、ジェイアール名古屋タカシマヤの調査では36%4と、「自分チョコ」市場が広がりを見せている。特に百貨店においては「自分チョコ」需要充足を見越したイベント作りに力を入れており、バレンタイン商戦においても「誰かにあげるチョコではなく、自分がたべるためのチョコ」を意識したプロモーションがされている。

ジェイアール名古屋タカシマヤの同調査をみると35%が10個以上、20個以上が14%と、バレンタイン時期にしか買えない各ブランドの限定商品を、大量に「ストック買い」する消費者が約5割いる。バレンタインという文化上買ったモノは送る前提で購買されるが、誰かにあげたいチョコは、自身を投影して選択された商品であることが多く、自分が食べるわけでもないけど自分が食べたいモノが熱心に探索されていたということになる。送った相手が喜んでくれるくれればそれはそれでうれしいのかもしれないが、どんなに食べたくとも自分で消費できないというジレンマが生まれる文化である。また、もらう側のチョコに対する知識が乏しければ、どんなに有名で高級なチョコをあげてもその価値を正しくわかってもらう事が出来ず、あげがいがなく、もどかしさを感じたことがある方も少なくないだろう。しかし、バレンタイン文化に肖って白熱するバレンタイン商戦そのものを見れば、普段手に入れることができない珍しい且つおいしいチョコを選り取り見取りできる期間であり、チョコ好きや甘党にとっては自身の欲求を充足できる最高のシーズンといえるだろう。現在では、異性にチョコレートを渡して思いを伝えるというバレンタインデー文化そのものが形骸化し、大規模な「チョコレート市」に変質していると言えるだろう。
図1 「自分チョコ」の予算総額
実際にジェイアール名古屋タカシマヤの調査においては、99%の調査対象が「自分チョコ」を購入しており、1万円以上が34%、3万円以上が14%、5万円以上が9%、10万円以上が4%と、「自分チョコ」に予算「1万円以上」をかける割合は6割超であった。経済産業省によれば百貨店の利用者は、未利用者と比較して500万円から2,000万円の中~高所得層が多いため、そもそも「チョコ」という嗜好品に対して多く支出することができる経済的余裕があるのかもしれないが、都市部では、その立地の良さからも普段百貨店を利用しない層も多く足を運び、イベント消費に肖って少し高級なチョコを「ご褒美消費」として購入する者も多い。自分チョコの1箱当たりの予算に対する回答からもその傾向は見られ、1箱当りの予算「5千円まで」が最多回答で、また全体の約4割が「予算を気にしない」という回答しており、「自分チョコ」は、贅沢品としての側面を擁している。この時期しか手に入らないという「季節性(限定性)」と売り場がチョコに溢れているという高揚感がお財布のひもを緩めているのかもしれない。
 
1 「Job総研による『2024年 バレンタイン実態調査』を実施 意欲低下8割 “いらない・渡さない” 物価高で文化衰退に拍車」2024/02/05 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000199.000013597.html
2 株式会社インテージ「バレンタインの予算は前年比1.3倍と大幅増」2024/02/08 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000226.000036691.html
3 「自分用」を買う人も増える2023年バレンタイン、購入予算平均はいくら?」2023/01/23 https://news.mynavi.jp/article/20230123-2569713/
4 株式会社ジェイアール東海高島屋「【名古屋タカシマヤ】2023 バレンタイン意識調査 ~総購入個数「10個以上」が多数、自分チョコへの贅沢傾向続く~」2023/01/18 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000184.000047031.html

2――チョコレートのための積立

2――チョコレートのための積立

先日帰宅すると高島屋が開催しているバレンタインイベント「アムール・デュ・ショコラ」のパンフレットが置いてあった。パラパラページをめくっていると「もう来年が待ち遠しい。」というコピーが目に入った。読んでみると「年に一度のショコラの祭典を、更に贅沢に楽しむなら。「スゴ積み5」。」と積立の広告が掲載されていたのである。12カ月間の積立で1か月分がボーナスとしてプラスされる仕組みで、積立額は5千円、1万円、3万円、5万円、10万円から選ぶことができる。利用は積立開始から1年後であるため、1月中に申し込みをすると来年の「アムール・デュ・ショコラ」で使えるというのだ。
図2 「スゴ積み」のしくみ
投資においては長期的に変動を考慮したり、損するリスクも存在するために金融リテラシーが低い層からは敬遠されがちだ。また、現在志向が強く、経済的余裕がない消費者においては投資や貯金においても「わざわざ現在の消費を減らしてまで未来のために供える」ために強い動機を必要とする。しかし、チョコへの支出を奮発するという事が例年の習わしになっていて、チョコ購入にある程度の資金が必要なことを事前にわかってる消費者からしたら、1年間勝手に積み立てられていて、しかも色までついてくるわけだから合理的なサービスと言えるのかもしれない6。「趣味に熱心な消費者」は明確に欲しいものがあればそのために予算を工面するし、貯めることができる。同じ積立の広告でも、「チョコのパンフレットでチョコを買う人向け」という、リーチさせたいターゲットが明白で、且つターゲットが行動を起こすべきである明確な理由付けをしている点に強く惹かれた。金融リテラシーが低い人でも仕組みが理解できるレベル感で図化されている点もいい。
 
5 https://www.takashimaya.co.jp/neobank/sugotsumi/index.html
6 もちろん高島屋でしか使えないという制約があるため、ラインナップに満足がいかなかったり、他の百貨店やチョコレート専門店で欲しいモノを見つけた場合、スゴ積を当てにしていた予算とプラスアルファで費用が掛かってしまう。
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生活研究部   研究員

廣瀨 涼 (ひろせ りょう)

研究・専門分野
消費文化、マーケティング、ブランド論、サブカルチャー、テーマパーク、ノスタルジア

経歴
  • 【経歴】
    2019年 大学院博士課程を経て、
         ニッセイ基礎研究所入社

    ・令和6年度 東京都生活文化スポーツ局都民安全推進部若年支援課広報関連審査委員

    【加入団体等】
    ・経済社会学会
    ・コンテンツ文化史学会
    ・余暇ツーリズム学会
    ・コンテンツ教育学会
    ・総合観光学会

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