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コラム
2024年02月14日
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1――自分の考えを述べるだけのレビュー欄
昨年「研究員の眼」として米国のトルーマン大統領(在任は1945年~1953年)に関するコラム1を書いた。太平洋戦争末期の1945年8月、米国がわが国に2発の原爆を投下した際の大統領である。コラムの主題ではなかったものの原爆投下に触れないわけにはいかず、かなりの数の文献に当り慎重な記述を行った。
当った文献の中に、ネタバレとなりうるので書名までは控えるが、この10年内に出版された本で原爆投下の経緯を詳細に論じるものがあった。
手に取る前に某書籍販売サイトのカスタマーレビュー欄(以下、レビュー欄)を確認した。レビュー数がそれほど多いわけではないものの、「鬼畜トルーマン」は日本人を猿扱いしていたとするものや、殺人鬼と表現するものもあった。筆者がそれまでに調べた内容とは様相が異なることもあって、これは慎重に読み進めねばならないと気を引き締めた。
だが、読んでみればその本の中にはそのように激烈な記述は全くない。むしろトルーマン大統領は悪党ではなく平凡な一般人と評していた。
今となってみれば「鬼畜トルーマン」なる表現はその本を読んだがために思いついたわけではなく、元々あった自らの考え(偏見)をレビュー欄で述べただけであったことがわかる。しかしレビュー欄の内容に影響され、その本がトルーマン大統領を鬼畜のように酷評していると誤解したまま終わることもあるだろう。
当った文献の中に、ネタバレとなりうるので書名までは控えるが、この10年内に出版された本で原爆投下の経緯を詳細に論じるものがあった。
手に取る前に某書籍販売サイトのカスタマーレビュー欄(以下、レビュー欄)を確認した。レビュー数がそれほど多いわけではないものの、「鬼畜トルーマン」は日本人を猿扱いしていたとするものや、殺人鬼と表現するものもあった。筆者がそれまでに調べた内容とは様相が異なることもあって、これは慎重に読み進めねばならないと気を引き締めた。
だが、読んでみればその本の中にはそのように激烈な記述は全くない。むしろトルーマン大統領は悪党ではなく平凡な一般人と評していた。
今となってみれば「鬼畜トルーマン」なる表現はその本を読んだがために思いついたわけではなく、元々あった自らの考え(偏見)をレビュー欄で述べただけであったことがわかる。しかしレビュー欄の内容に影響され、その本がトルーマン大統領を鬼畜のように酷評していると誤解したまま終わることもあるだろう。
2――著者の悪口を述べるだけのレビュー欄
最終的に手に取ることはなかったが、新型コロナウイルス感染症対策担当大臣を務めた西村康稔氏による「コロナとの死闘」という本がある(2022年5月発売)。
申し上げるまでもなく、新型コロナウイルスは日本社会に多大な影響を与えた。生命保険業界では、在宅勤務やウェブ会議の一般化のような全業界共通の内容もあれば、「みなし入院」(自宅療養であっても病院等への入院とみなして入院給付金を支払う)のように過去にない取扱いが導入2された。
未曽有の事態を前に、政府にはどのような情報が入り、混乱の中、政府はどのように個々の政策決定をしていったのかに興味を抱き、某書籍販売サイトにおける「コロナとの死闘」のレビュー欄を確認した。
しかしかなりのレビューは著者である西村康稔氏への悪口であった。本を読んだ上で書かれたと思われる悪口がある一方で、1行だけの悪口や、ご丁寧にも「この本は読んでいない」と断っている悪口もあった。筆者が最終的にこの本を手に取らずに終わったのは、本の内容とは関係ないと承知しつつも、悪口を読んでいるうちに当初の関心が萎えてしまったためでもある。
公人である西村康稔氏の悪口を書き込めるサイトは他にいくらでもあろうに、本のレビュー欄が使われることで、実は価値ある内容の本が読まれずに終わったのなら残念なことである。
書籍販売サイトには閲覧者からの通報に基づきレビュー削除を検討するものもあるが、あまり機能していないがためにこういった状況が生じているのであろう。では当初から書籍販売サイトが本に関係のないレビューを登載しないことにしてはどうだろうか。実際のところ、本に関係があるか否かをひとつひとつ判別することは「言うは易し、行うは難し」の大変な作業かもしれない。しかし現在ならばその作業にAIを活用し一定の基準で客観的な対応を行うことが可能であろう。明らかに本と関係のないレビューが書籍販売サイトから消えるだけでも、わが国の知的生産性は多少なりとも向上するように思う。
2 2023年5月に新型コロナウイルスが5類感染症に変更されたことから既に収束済み。
申し上げるまでもなく、新型コロナウイルスは日本社会に多大な影響を与えた。生命保険業界では、在宅勤務やウェブ会議の一般化のような全業界共通の内容もあれば、「みなし入院」(自宅療養であっても病院等への入院とみなして入院給付金を支払う)のように過去にない取扱いが導入2された。
未曽有の事態を前に、政府にはどのような情報が入り、混乱の中、政府はどのように個々の政策決定をしていったのかに興味を抱き、某書籍販売サイトにおける「コロナとの死闘」のレビュー欄を確認した。
しかしかなりのレビューは著者である西村康稔氏への悪口であった。本を読んだ上で書かれたと思われる悪口がある一方で、1行だけの悪口や、ご丁寧にも「この本は読んでいない」と断っている悪口もあった。筆者が最終的にこの本を手に取らずに終わったのは、本の内容とは関係ないと承知しつつも、悪口を読んでいるうちに当初の関心が萎えてしまったためでもある。
公人である西村康稔氏の悪口を書き込めるサイトは他にいくらでもあろうに、本のレビュー欄が使われることで、実は価値ある内容の本が読まれずに終わったのなら残念なことである。
書籍販売サイトには閲覧者からの通報に基づきレビュー削除を検討するものもあるが、あまり機能していないがためにこういった状況が生じているのであろう。では当初から書籍販売サイトが本に関係のないレビューを登載しないことにしてはどうだろうか。実際のところ、本に関係があるか否かをひとつひとつ判別することは「言うは易し、行うは難し」の大変な作業かもしれない。しかし現在ならばその作業にAIを活用し一定の基準で客観的な対応を行うことが可能であろう。明らかに本と関係のないレビューが書籍販売サイトから消えるだけでも、わが国の知的生産性は多少なりとも向上するように思う。
2 2023年5月に新型コロナウイルスが5類感染症に変更されたことから既に収束済み。
(2024年02月14日「研究員の眼」)
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経歴
- 【職歴】
1990年 日本生命保険相互会社に入社。
通算して10年間、米国3都市(ニューヨーク、アトランタ、ロサンゼルス)に駐在し、現地の民間医療保険に従事。
日本生命では法人営業が長く、官公庁、IT企業、リース会社、電力会社、総合型年金基金など幅広く担当。
2015年から2年間、公益財団法人国際金融情報センターにて欧州部長兼アフリカ部長。
資産運用会社における機関投資家向け商品提案、生命保険の銀行窓版推進の経験も持つ。
【加入団体等】
日本FP協会(CFP)
生命保険経営学会
一般社団法人 アフリカ協会
一般社団法人 ジャパン・リスク・フォーラム
2006年 保険毎日新聞社より「アメリカの民間医療保険」を出版
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