2024年02月05日

米雇用統計(24年1月)-非農業部門雇用者数は前月比+35.3万人と市場予想(+18.5万人)を大幅に上回る

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:雇用者数は市場予想を大幅に上回ったほか、失業率は予想を下回る

2月2日、米国労働統計局(BLS)は1月の雇用統計を発表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+35.3万人の増加1(前月改定値:+33.3万人)と+21.6万人から大幅に上方修正された前月を小幅に上回ったほか、市場予想の+18.5万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)を大幅に上回った(後掲図表2参照)。

失業率は3.7%(前月:3.7%、市場予想:3.8%)と前月からの上昇を見込んだ市場予想に反して前月から横這いとなった(後掲図表6参照)。労働参加率2は62.5%(前月:62.5%、市場予想:62.6%)と前月に一致、上昇を見込んだ市場予想を下回った(後掲図表5参照)。
 
1 季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
2 労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。

2.結果の評価:労働需要が逼迫し、賃金上昇圧力の高止まりを確認

1月の非農業部門雇用者数(前月比)は前月から低下するとの予想に反して、市場予想を大幅に上回った。また、過去2ヵ月分も合計+12.6万人の大幅な上方修正となっており、過去3ヵ月の月間平均増加ペースは+28.9万人と23年通年の+25.5万人を上回るなど、足元で雇用増加ペースが加速していることを確認した。

一方、失業率は3ヵ月連続で3.7%を維持しており、23年4月の3.4%を上回っているものの、23年8月から10月につけた3.8%から低下しており、足元で労働需給が逼迫している状況が続いていることを示した。
(図表1)時間当たり賃金の伸び率 労働需給の逼迫を反映して賃金上昇率は加速した。時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比+0.6%(前月:+0.4%、市場予想:+0.3%)と22年3月以来の水準となり、前月からの低下を見込んだ市場予想を大幅に上回った。前年同月比は+4.5%(前月改定値:+4.3%、市場予想:+4.1%)と+4.1%から上方修正された前月、市場予想を上回った(図表1)。

このようにみると、1月の雇用統計は非農業部門雇用者数の前月比が足元で加速していることや時間当たり賃金が前月比、前年同月比ともに前月から伸びが加速するなど、労働需給が非常に逼迫し、賃金上昇圧力の高止まりを示す結果と言えよう。金融市場では早ければ3月にもFRBによる利下げが開始されるとの見方がされていたが、今回の雇用統計の結果を受けて3月利下げの可能性は相当程度低下しただろう。

3.事業所調査の詳細:医療・社会扶助、専門・ビジネスサービスの雇用の伸びが大幅に加速

事業所調査のうち、民間サービス部門は前月比+28.9万人(前月:+24.5万人)と前月から雇用の伸びが加速した(図表2)。
(図表2)非農業部門雇用者数の増減(業種別) 民間サービス部門の中では、娯楽・宿泊業が前月比+1.1万人(前月:+3.8万人)と前月から伸びが鈍化した。一方、小売業が+4.5万人(前月:+4.3万人)と前月並みの伸びを維持したほか、運輸・倉庫が+1.6万人(前月:+0.2万人)、専門・ビジネスサービスが+7.4万人(前月:+3.5万人)、医療・社会扶助サービスが+10.0万人(前月:+7.9万人)と前月から伸びが加速した。

財生産部門は前月比+2.8万人(前月:+3.3万人)と前月から小幅ながら伸びが鈍化した。製造業が+2.3万人(前月:+0.8万人)と前月から伸びが加速した一方、建設業が+1.1万人(前月:+2.4万人)と前月から伸びが鈍化した。

政府部門は前月比+3.6万人(前月:+5.5万人)と前月から伸びが鈍化した。内訳をみると、連邦政府が+1.1万人(前月:+0.5万人)と前月から小幅ながら伸びが加速した一方、州・地方政府が+2.5万人(前月:+5.0万人)と前月から伸びが鈍化して政府部門全体を押し下げた。
前月(12月)と前々月(11月)の雇用増加数(改定値)は前月が+33.3万人(改定前:+21.6万人)と+11.7万人の大幅な上方修正となったほか、前々月が+18.2万人(改定前:17.3万人)と+0.9万人上方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は+12.6万人の大幅な上方修正となった(図表3)。なお、今月は昨年の年次改訂も発表された。雇用者数の水準は23年3月が▲26.6万人下方修正されるなど12月を除き下方修正された一方、雇用増加数(前月比)は23年の月間平均で+3.0万人上方修正された。
 
BLSの公表に先立って1月31日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増加数が前月比+10.7万人(前月改定値:+15.8万人、市場予想:+15.0万人)と+16.4万人から小幅下方修正された前月、市場予想を下回った。この結果、ADP社の統計は前月から雇用の伸びが加速し2ヵ月連続で30万人超の大幅な増加となった雇用統計とは不整合な動きとなった。
 
1月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が34.55ドル(前月:34.36ドル)となり、前月から+19セント増加した。一方、週当たり労働時間は34.1時間(前月:34.3時間)と前月から▲0.2時間減少した。この結果、週当たり賃金は1,178.16ドル(前月:1,178.55ドル)と3ヵ月ぶりに前月から減少した(図表4)。
(図表3)023年改定の結果/(図表4)民間非農業部門の週当たり賃金伸び率(年率換算、寄与度)

4.家計調査の詳細:労働参加率は前月から横這い

家計調査のうち、1月の労働力人口は前月対比で+12.4万人(前月:▲67.6万人)と前月からプラスに転じた3。内訳を見ると、失業者数が▲11.6万人(前月:+0.6万人)とマイナスに転じたものの、就業者数が+23.9万人(前月:▲68.3万人)と失業者数の減少幅を上回るプラスに転じて、労働力人口全体を押し上げた。非労働力人口は+5.1万人(前月:+84.5万人)と前月から大幅に伸びが鈍化した。これらの結果、労働参加率は62.5%と前月から横這いとなった(図表5)。

一方、プライムエイジと呼ばれる働き盛り(25~54歳)のみの労働参加率は1月が83.3%(前月:83.2%)と前月から+0.1%ポイント上昇した。男女の内訳は、男性が89.2%(前月:89.2%)と前月から横這いとなった一方、女性が77.4%(前月:77.1%)と前月から+0.3%ポイント上昇して全体を押し上げた。

1月の失業率は前述のように3ヵ月連続で3.7%とその前3ヵ月の3.8%を下回っており、足元で労働需給の緩和の動きは一服している(図表6)。
(図表5)労働参加率の変化(要因分解)/(図表6)失業率の変化(要因分解)
1月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は127.7万人(前月:124.5万人)となったほか、長期失業者の失業者全体に占めるシェアは20.8%(前月:19.7%)となった(図表7)。平均失業期間は20.8週(前月:22.3週)となった。

最後に、周辺労働力人口(165.4万人)4や、経済的理由によるパートタイマー(442.2万人)も考慮した広義の失業率(U-6)5は、1月が7.2%(前月:7.1%)と前月から+0.1%ポイント上昇した(図表8)。この結果、通常の失業率(U-3)との乖離幅は+3.5%ポイント(前月:+3.4%ポイント)と前月から+0.1%ポイント拡大した。
(図表7)失業期間の分布と平均失業期間/(図表8)広義失業率の推移
 
3 2024年から人口推計を変更しているため、2023年と断層が生じている。ここで記載している労働力人口、就業者数、失業者数、非労働力人口はこの断層を調整した後のもの
4 周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
5 U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2024年02月05日「経済・金融フラッシュ」)

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