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- 米製造業の動向-鉱工業生産はUAWストの影響から持ち直し、製造業の建設投資は半導体を中心に当面堅調を維持
2024年02月02日
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1.はじめに
米国の製造業はコロナ禍に伴う経済活動の停滞などにより、生産の落ち込みがみられたものの、その後は経済対策による財需要の増加や、経済正常化に伴う供給政策の解消などにより鉱工業生産は緩やかな回復がみられる。もっとも、エネルギー分野など鉱業の大幅な増産や、半導体不足の解消に伴う自動車生産の増加もあって生産の回復がみられるものの、自動車を除く製造業の生産は回復の足踏み状態が続いている。また、自動車関連も全米自動車労組(UAW)ストの影響で23年10月に自動車関連の生産は大幅に落ち込んだ。
製造業の景況感を示すISM製造業指数は21年3月にピークをつけた後、22年11月から14ヵ月連続で好不況の境となる50を下回る状況が続いているほか、NAMの生産見通しも製造業の回復は足踏み状態が続いていることを示している。
一方、近年の米中対立を背景として経済安全保障分野において半導体が戦略物質として認識される中、21年以降に半導体の製造設備に対する投資インセンティブとして巨額の補助金を目玉とする半導体の国内製造強化策が実施された効果によって22年以降、製造業の建設支出は急激に増加した。
また、米国の製造業雇用者数はUAWストの影響で23年10月以降変動が大きくなっているものの、23年を通じて雇用者数は概ね横這いに留まっている。NAMの調査では製造業企業の最優先課題として熟練労働力の確保が挙げられており、熟練労働力の不足が継続している。
本稿は米国の製造業の動向について鉱工業生産の最近の動きや製造業の建設支出に加え、製造業雇用の状況について解説するほか、今後の見通しについても論じた。結論から言えば、製造業は半導体関連の建設支出などの堅調が見込まれるほか、短期的には自動車生産の一段の回復が見込まれるものの、製造業の景況感は低迷する中で製造業の本格的な回復は当面は見込み難いだろう。
製造業の景況感を示すISM製造業指数は21年3月にピークをつけた後、22年11月から14ヵ月連続で好不況の境となる50を下回る状況が続いているほか、NAMの生産見通しも製造業の回復は足踏み状態が続いていることを示している。
一方、近年の米中対立を背景として経済安全保障分野において半導体が戦略物質として認識される中、21年以降に半導体の製造設備に対する投資インセンティブとして巨額の補助金を目玉とする半導体の国内製造強化策が実施された効果によって22年以降、製造業の建設支出は急激に増加した。
また、米国の製造業雇用者数はUAWストの影響で23年10月以降変動が大きくなっているものの、23年を通じて雇用者数は概ね横這いに留まっている。NAMの調査では製造業企業の最優先課題として熟練労働力の確保が挙げられており、熟練労働力の不足が継続している。
本稿は米国の製造業の動向について鉱工業生産の最近の動きや製造業の建設支出に加え、製造業雇用の状況について解説するほか、今後の見通しについても論じた。結論から言えば、製造業は半導体関連の建設支出などの堅調が見込まれるほか、短期的には自動車生産の一段の回復が見込まれるものの、製造業の景況感は低迷する中で製造業の本格的な回復は当面は見込み難いだろう。
2.米国の製造業の動向
また、足元の鉱業生産指数(前月比)をみると、UAWストの影響で23年10月の自動車・部品が▲9.9%と大幅に落ち込んだ影響により、総合指数が▲0.8%と大幅な落ち込みとなった後、11月が横這い、12月が+0.1%と緩やかな回復がみられている(図表3)。UAWストが解消されたこともあって自動車・部品生産が11月に+7.4%、12月に+1.6%と2ヵ月連続で増加に転じたことが大きい。もっとも、10月からの落ち込み幅に比べてその後の回復ペースが鈍いこともあって、四半期ベースでみた総合指数は23年10-12月期期が前期比年率▲3.1%減と20年4-6月期以来の大幅な減少となった。
一方、自動車組立台数をみるとストの影響で23年10月に年率920万台と9月の1,090万台から大幅に低下した後、12月には1,080万台まで増加した(図表4)。もっとも、12月は23年初から9月までの平均組立台数(1,090万台)を依然として10万台下回っている。また、自動車在庫/販売は半導体不足により自動車生産が低迷した22年2月の0.4から増加基調にあるものの、23年12月でも1.3とコロナ禍前の2台前半を大幅に下回っており、当面は自動車生産に一段の回復余地があるとみられる。
一方、自動車組立台数をみるとストの影響で23年10月に年率920万台と9月の1,090万台から大幅に低下した後、12月には1,080万台まで増加した(図表4)。もっとも、12月は23年初から9月までの平均組立台数(1,090万台)を依然として10万台下回っている。また、自動車在庫/販売は半導体不足により自動車生産が低迷した22年2月の0.4から増加基調にあるものの、23年12月でも1.3とコロナ禍前の2台前半を大幅に下回っており、当面は自動車生産に一段の回復余地があるとみられる。
さらに、鉱工業生産指数のうち、電力や天然ガスなどの公益は暖冬の影響から23年9月から4ヵ月連続でマイナスとなっていたが、24年1月は寒波の影響で気温が低下していることから、1月は増加に転じることもあって、短期的には鉱工業生産の回復は継続するとみられる。
もっとも、製造業企業の景況感を示すISM製造業指数は総合指数が21年3月の63.8をピークに低下し、23年12月が47.4と22年11月以降は好不況の境となる50を14ヵ月連続で下回るなど製造業の景況感は低迷している(図表5)。また、生産指数も22年11月以降は50を挟んで一進一退の動きとなっているほか、生産の先行指標である新規受注は22年9月から16ヵ月連続で50を下回るなど今後も生産が低迷する可能性を示唆している。
一方、全米製造業協会(NAM)の会員企業に対する景況感調査でも22年10-12月期から23年10-12月期まで5期連続で好不況の境となる50を下回っている(図表6)。
もっとも、製造業企業の景況感を示すISM製造業指数は総合指数が21年3月の63.8をピークに低下し、23年12月が47.4と22年11月以降は好不況の境となる50を14ヵ月連続で下回るなど製造業の景況感は低迷している(図表5)。また、生産指数も22年11月以降は50を挟んで一進一退の動きとなっているほか、生産の先行指標である新規受注は22年9月から16ヵ月連続で50を下回るなど今後も生産が低迷する可能性を示唆している。
一方、全米製造業協会(NAM)の会員企業に対する景況感調査でも22年10-12月期から23年10-12月期まで5期連続で好不況の境となる50を下回っている(図表6)。
さらに、今後1年間の生産増加率の見通しは22年1-3月期から下方修正する動きが続いており、23年10-12月期が+1.7%と23年1-3月期の+1.6%は小幅上回ったものの、それを除けばコロナ禍で生産が大幅に落ち込んだ20年4-6月期以来の水準まで低下しており、下方修正の動きに歯止めがかかっていない。
このため、鉱工業生産指数は短期的には回復が続くとみられるものの、当面本格的な回復は見込み難い状況と言えよう。
このため、鉱工業生産指数は短期的には回復が続くとみられるものの、当面本格的な回復は見込み難い状況と言えよう。
(製造業建設支出)半導体関連を中心に22年以降大幅に増加
鉱工業生産が低迷しているのとは対照的に民間建設支出のうち、製造業関連の建設支出が実質ベースで21年12月の1,010億ドルから23年12月が2,099億ドルと倍増するなど非常に好調である(前掲図表1)。項目別の内訳をみると全項目で増加しているものの、とりわけ、コンピュータ・電気・電子関連が同期間で236億ドルから1,177億ドルに急増して全体を押し上げたことが分かる。
22年以降にコンピュータ・電気・電子関連の建設支出が急増した要因として半導体の国内製造強化を目指す米国の産業政策が奏功し、半導体関連施設の建設支出が増加したことが指摘されている。米国では近年の米中対立を背景として経済安全保障分野において半導体が戦略物資として認識されており、議会は半導体製造設備に対する投資インセンティブとして、対象事業者に1件当たり原則として最大30億ドルの補助金を支給する枠組みを盛り込んだCHIPS for Americaを21会計年度国防授権法の一部として21年1月に成立させたほか、その補助金を支給するための予算手当として半導体分野に5年間で527億ドルの拠出を盛り込んだCHIPS and Science ACT(CHIPSと科学法)を22年8月に成立させた。
実際に、これらの産業政策は半導体関連企業の意思決定に大きな影響を与えている。世界最大の半導体メーカーである台湾のTSMCは20年5月にアリゾナ州で120億ドルを投じて最先端の半導体工場を建設する計画を発表したが、決定の決め手となったのが巨額の補助金を前提としたトランプ前政権の積極的な誘致とされている。
さらに、TSMC以外にも多くの半導体関連企業が積極的な投資計画を発表している。米国の半導体工業会(SIA)によれば、TSMCが22年12月に新たに第2工場として追加で280億ドルの投資を発表し総額400億ドルとしたほか、テキサス・インスツルメンツ、インテル、マイクロン、サムスン電子などが新工場建設に100億ドルを超える投資計画を発表している(図表7)。
鉱工業生産が低迷しているのとは対照的に民間建設支出のうち、製造業関連の建設支出が実質ベースで21年12月の1,010億ドルから23年12月が2,099億ドルと倍増するなど非常に好調である(前掲図表1)。項目別の内訳をみると全項目で増加しているものの、とりわけ、コンピュータ・電気・電子関連が同期間で236億ドルから1,177億ドルに急増して全体を押し上げたことが分かる。
22年以降にコンピュータ・電気・電子関連の建設支出が急増した要因として半導体の国内製造強化を目指す米国の産業政策が奏功し、半導体関連施設の建設支出が増加したことが指摘されている。米国では近年の米中対立を背景として経済安全保障分野において半導体が戦略物資として認識されており、議会は半導体製造設備に対する投資インセンティブとして、対象事業者に1件当たり原則として最大30億ドルの補助金を支給する枠組みを盛り込んだCHIPS for Americaを21会計年度国防授権法の一部として21年1月に成立させたほか、その補助金を支給するための予算手当として半導体分野に5年間で527億ドルの拠出を盛り込んだCHIPS and Science ACT(CHIPSと科学法)を22年8月に成立させた。
実際に、これらの産業政策は半導体関連企業の意思決定に大きな影響を与えている。世界最大の半導体メーカーである台湾のTSMCは20年5月にアリゾナ州で120億ドルを投じて最先端の半導体工場を建設する計画を発表したが、決定の決め手となったのが巨額の補助金を前提としたトランプ前政権の積極的な誘致とされている。
さらに、TSMC以外にも多くの半導体関連企業が積極的な投資計画を発表している。米国の半導体工業会(SIA)によれば、TSMCが22年12月に新たに第2工場として追加で280億ドルの投資を発表し総額400億ドルとしたほか、テキサス・インスツルメンツ、インテル、マイクロン、サムスン電子などが新工場建設に100億ドルを超える投資計画を発表している(図表7)。
また、SIAによれば新設工場に加え、既存工場の拡張や半導体チップの製造に使用される材料や製造装置を供給する施設、研究開発拠点の建設など70を超える新規の半導体関連の計画が発表されており、国内製造能力増強の民間投資は22州で2,200億ドルに達していることが示されている。
これらの半導体関連投資計画の一部では既に工場建設が開始されており、早ければ年末にも生産が開始される予定になっているが、多くの投資計画はこれから建設が本格化するため、今後も数年間は、半導体関連主導で製造業建設の堅調な状況が見込まれている。
これらの半導体関連投資計画の一部では既に工場建設が開始されており、早ければ年末にも生産が開始される予定になっているが、多くの投資計画はこれから建設が本格化するため、今後も数年間は、半導体関連主導で製造業建設の堅調な状況が見込まれている。
(製造業雇用)熟練労働者の人手不足が継続
最後に製造業雇用の状況を確認したい。製造業の雇用者数(前月比)はUAWストの影響で自動車・部品の雇用者数が23年10月に▲3.2万人減少したことから製造業雇用全体でも▲3.8万人減少した(図表8)、その後、スト解消に伴って11月に自動車・部品が+3.1万人の増加に転じたことから製造業全体でも+2.6万人増加するなど変動が大きくなっている。
もっとも、これらの特殊要因を除けば製造業の雇用者数は、23年以降大きな増減はみられておらず、製造業雇用者数は1,300万人弱の水準で概ね横這い推移となっていることが分かる。
また、製造業の求人数は22年4月の102.4万人をピークに減少しているものの、23年12月が60.1万人と23年5月以降は50万人台後半から60万人程度で推移しており、コロナ禍前の40万人程度から高止まりしている(図表9)。失業者数に対する求人数の比率も23年12月が1.3と22年12月の2.9からは低下しているものの、コロナ禍前の20年1月の0.8を依然大幅に上回っており、製造業の労働需給は逼迫している。
最後に製造業雇用の状況を確認したい。製造業の雇用者数(前月比)はUAWストの影響で自動車・部品の雇用者数が23年10月に▲3.2万人減少したことから製造業雇用全体でも▲3.8万人減少した(図表8)、その後、スト解消に伴って11月に自動車・部品が+3.1万人の増加に転じたことから製造業全体でも+2.6万人増加するなど変動が大きくなっている。
もっとも、これらの特殊要因を除けば製造業の雇用者数は、23年以降大きな増減はみられておらず、製造業雇用者数は1,300万人弱の水準で概ね横這い推移となっていることが分かる。
また、製造業の求人数は22年4月の102.4万人をピークに減少しているものの、23年12月が60.1万人と23年5月以降は50万人台後半から60万人程度で推移しており、コロナ禍前の40万人程度から高止まりしている(図表9)。失業者数に対する求人数の比率も23年12月が1.3と22年12月の2.9からは低下しているものの、コロナ禍前の20年1月の0.8を依然大幅に上回っており、製造業の労働需給は逼迫している。
3.今後の見通し
これまでみたように米国の製造業は半導体の国内製造強化を目指す産業政策などによって製造業の建設支出は当面堅調が見込まれる。また、昨年秋口のUAWストの影響で落ち込んだ自動車関連の生産のもう一段の回復が見込まれることから、短期的には鉱工業生産の回復が続くとみられる。
もっとも、製造業の景況感が低迷する中で生産見通しは下方修正の動きが続いているほか、製造業の雇用者数が概ね横這いとなる中で熟練労働力の確保が困難となっていることなどもあって、当面製造業の本格的な回復は見込み難いだろう。
もっとも、製造業の景況感が低迷する中で生産見通しは下方修正の動きが続いているほか、製造業の雇用者数が概ね横這いとなる中で熟練労働力の確保が困難となっていることなどもあって、当面製造業の本格的な回復は見込み難いだろう。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2024年02月02日「Weekly エコノミスト・レター」)
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経歴
- 【職歴】
1991年 日本生命保険相互会社入社
1999年 NLI International Inc.(米国)
2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
2014年10月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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