2024年02月01日

2024年度の社会保障予算の内容と過程を問う(中)-次元の異なる少子化対策と財源対策の論点と問題点

保険研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 三原 岳

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3|次元の異なる少子化対策の問題点(2)~財源対策の理屈付け~
支援金を中心とする財源対策にも大きな疑問が残る。本来で言えば、広く受益が行き当たる児童手当を増やす場合、税財源の確保が求められるが、今回は増税論議が早々に封印された。ここで政府の意図を「忖度」すると、「国民の増税アレルギー17を踏まえると、増税の選択肢は困難」「さらに、防衛関係費に絡む増税論議も控えており、二正面作戦を取りにくい」「そうなると、財源確保の選択肢は社会保険料しかない」と判断したのであろう18

より分かりやすく政府の意図を表現すると、「少子化対策を打ち出す必要があるが、財源が足りないし、防衛予算の確保も積み残されている。このため、赤字国債よりもマシな選択として、社会保険料を使いたい」という考え方と思われる。

しかし、社会保険方式の教科書的な原則に従うと、保険料の拠出には何らかの給付が前提となっており、保険料の負担と給付が必ずしもリンクしない児童手当への充当は無理筋に映る。つまり、社会保険料は公的要素を持っているとはいえ、あくまでも「保険」であり、保険料を負担する時には何らかの形で保険給付と紐付くのが基本である。この特性は一般的に「権利性」「対価性」と呼ばれており、広く受益が行き渡る児童手当に対し、社会保険料を充当することが適当なのかどうか、疑問と言わざるを得ない19

そこで、政府の説明や文書を見ると、未来戦略や2023年6月の骨太方針(経済財政運営と改革の基本方針)では、「企業を含め社会経済の参加者全体が連帯し、公平な立場で、広く支え合っていく新たな枠組み」という文言で、支援金の必要性が言及されている。ここで言う「連帯」とは一般的に助け合いを意味しており、「医療・介護・年金保険という主に人の生涯の高齢期の支出を社会保険の手段で賄っている制度が、自らの制度における持続可能性、将来の給付水準を高めるために、子育て支援制度を支えよう」20という考えが根底にあるとみられる。

分かりやすく言うと、「少子化対策を通じて、社会保障を支える将来世代が増えれば、将来の給付が安定するため、支援金を負担する現役世代も利益を受ける。その結果、負担と給付の関係が紐付くので、企業を含めて国民が幅広く負担すべき」という説明と思われる。換言すると、「医療保険からの拠出→少子化対策の実施→出生率の改善→将来世代からの保険料収入の増加→制度の持続可能性向上→現役世代が将来的に受け取る給付水準の向上」という経路が期待されていると言える。

しかし、この説明は社会保険料の充当(流用?)を正当化するための強引な理屈付けにしか見えない。もし上記のような論理で社会保険料の充当が正当化されるのであれば、その使途は少子化対策にとどまらず、幼児教育から義務教育、生涯学習教育、高等教育、雇用、住宅、障害児支援など様々な領域に拡大できる。思考実験的に極論を言えば、「将来の給付水準を高めるため、児童生徒を守る必要がある」というロジックの下、学校の耐震化対策とか、児童福祉施設周辺の防災対策やミサイル防衛にも社会保険料を充当できることになるのではないか。流石に社会保険料をミサイル防衛に回す場面は訪れないだろうが、こうした危うさを含んだ強引な論理に映る。筆者自身は「連帯」という概念とか、「幅広く負担」という考え方には賛成だが、少なくとも筆者が手に取った社会保障や社会保険の「教科書」からは大きく逸脱した説明となっていると言わざるを得ない21

付言すると、社会保険料が充当される子育て支援制度を経ても、出生率の上昇に貢献しなければ、負担するサイドは「将来の給付水準を高める」という反対給付(?!)を受け取れないことになるが、どこまで出生率引き上げの成算を持っているのだろうか。

このほか、支援金が医療保険に上乗せされる理由も不明確である。社会保険料には年金、医療、介護、雇用、労働災害の5種類が整備されているが、どうして医療保険料金に上乗せするのか、政府の文書を読んでも、その理由が十分に読み取れない。敢えて政府文書の行間を読みつつ、理由を「忖度」すると、年金や雇用では高齢者が保険料を負担しておらず、労働災害は事業主負担だけであり、介護保険料の引き上げ余地は限界を迎えている22。こうした中、医療保険であれば高齢者も保険料を負担しているため、負担が勤労世代に集中しにくく、最近の社会保障のトレンドである「全世代」という流れに合致していると考えられたのだろうか。

実際の問題として、本当に上記のような判断だったのか、政府の資料や審議会の議事録、メディアの報道などを読んでも「どうして医療保険料に上乗せされるのか?」という点を理解できない。例えば、今回の政策形成過程を辿ると、関係閣僚や関係団体、有識者で構成する「こども未来戦略会議」は実質8回開かれただけである。内閣府こども政策担当相が主催する形で、関係団体や有識者が参加した「支援金制度等の具体的設計に関する大臣懇話会」に至っては計2回しか開かれておらず、消費増税まで約10年、介護保険導入まで5年程度の歳月を掛けた過去の経緯23と比べると、今回の議論は拙速と言わざるを得ない。こうした事情の下、政府の資料や審議会の議事録などに目を通しても、政府の説明や意図を理解できない部分が多く、上記には筆者の推測あるいは忖度(?!)が多分に含まれている点はご容赦頂きたい。

さらに、以前であれば、強引な理屈で政策が決まったり、制度に不十分な点が残ったりした時には「税制抜本改革の時に議論」といった形で、次の改革まで繋げる布石が打たれることが多かったが、そうした気配が今回、全く見受けられなかった点で言うと、統治機構の劣化も感じざるを得ない。

例えば、消費増税の経緯を振り返ると、2004年の年金改革に際して、基礎年金国庫負担を3分の1から2分の1に引き上げる方針が決まり、これが消費増税の一つの「布石」になった。さらに、2009年通常国会では、将来的な税制抜本改革の方向性が改正租税特別措置法に盛り込まれたことで、その後の政権は税制改革の議論に直面せざるを得なかった。

しかし、こうした「知恵」は今回の議論から全く見受けられない。例えば、支援金の問題点をクリアする一つの方策として、フランスのCSG(一般社会税)という仕組みを参考にし、社会保険料を社会保障目的の特定財源に切り替えるアイデアが有り得る。つまり、税であれば、負担と給付の関係が切り離されるため、児童手当などにも充当できるメリットがあるし、再分配の財源として、保険料を支払えない低所得者や、保険料拠出と反対給付が少なくなりやすい非正規雇用者などに対する給付にも回しやすくなる24

このため、2024年度予算での導入は無理にしても、例えば、今回の支援金を税制抜本改革までの暫定措置と位置付けるとともに、CSGのような税制の導入可能性とか、所得再分配機能の強化に向けた個人所得課税の見直しや消費増税の可能性も含めて、将来的な税制抜本改革を中長期的なテーマに位置付けることは不可能ではなかったはずである。

もちろん、CSGのようなアイデアは絶対的な解と言い切れないし、上記のような手練手管が必ずしもベストとは思えないが、合意形成や利害調整が図られる時には必要な手立てであり、こうした「知恵」が全く見受けられなかった点は極めて残念と言うしかない。

以上のように考えると、今回の決着は単なるパッチワークの積み重ねに過ぎないし、もし「規模ありき」「税は無理なので社会保険料で」「高齢者も負担する医療保険料で」という発想で支援金が制度化されたのであれば、安直と言わざるを得ない。主要新聞の世論調査でも社会保険料の充当に対し、7割近くの人が反対という結果が出た26のは、こうした事情が影響しているのではないだろうか。
 
17 財政学では「租税抵抗」という言葉が使われる。山田真成・岡田徹太郎(2019)「日本における痛税感形成の要因分析」『香川大学経済論叢』第92巻第1~2号、佐藤滋・古市将人(2014)『租税抵抗の財政学』岩波書店を参照。
18 防衛関係費に関しては、2022年2月のロシアによるウクライナ侵略を受けて、今後5年間で約43兆円を確保することが決まっており、▽国有財産売却などで得た資金をプールしつつ、5年間の防衛力増加に必要な経費を一括計上する「防衛力強化資金」の創設、▽厚生労働省所管の国立病院機構、地域医療機能推進機構からの積立金返納、国有財産の売却収入なども充当――といった財源確保策が決まっている。ただ、これらを積み上げても、必要経費の全てを賄えないため、2022年12月の与党税制改正大綱では、法人税や所得税、たばこ税を段階的に引き上げる方針が盛り込まれたが、詳細は今後の調整に委ねられている。
19 この点は一度、2023年5月24日拙稿「少子化対策の主な財源として社会保険料は是か非か」でも論じた。さらに、田中秀明(2023)「異次元の少子化対策の財源を問う」『社会保険旬報』No.2892、西沢和彦(2023)「少子化対策への社会保険料利用 8つの問題点」『Viewpoint』なども参照。
20 2023年5月22日、第4回こども未来戦略会議議事録における権丈善一慶大教授の発言から引用。
21 主な書籍として、堤修三(2018)『社会保険の政策原理』国際商業出版、加藤智章(2016)『社会保険核論』旬報社、堀勝洋(2009)『社会保障・社会福祉の原理・法・政策』ミネルヴァ書房など。社会連帯の発想については、Andrè Comte-Sponville(2004)“Le Capitalisme est-il Moral?”[小須田健、コリーヌ・カンタン訳(2006)『資本主義に徳はあるか』紀伊國屋書店]を参照。
22 高齢者に課されている介護保険料は所得、居住市町村で異なるが、全国平均の基準額は6,000円を突破しており、厚生省が制度創設時に「上限」として意識していた5,000円を上回っている。詳細については、2021年7月6日拙稿「20年を迎えた介護保険の足取りを振り返る」を参照。
23 消費増税を含めた平成の社会保障改革に関しては、清水真人(2015)『財務省と政治』中公新書、同(2013)『消費税 政と官との「十年戦争」』新潮社、岸宣仁(1998)『税の攻防』文藝春秋などを参考にした。2019年7月10日拙稿「平成期の社会保障改革を振り返る」も参照。介護保険の歴史については、池田省三(2011)『介護保険論』中央法規出版、介護保険制度史研究会編(2019)『新装版 介護保険制度史』東洋経済新報社、和田勝編著(2007)『介護保険制度の政策過程』東洋経済新報社などを参照。2021年7月6日拙稿「20年を迎えた介護保険の足取りを振り返る」も参照。
24 CSGについては、小西杏奈(2023)「フラットな税制が支えるフランス福祉国家の動揺」高端正幸ほか編著『揺らぐ中間層と福祉国家』ナカニシヤ出版、同(2013)「一般社会税(CSG)の導入過程の考察」井手英策編著『危機と再建の比較財政史』ミネルヴァ書房、尾玉剛志(2018)『医療保険改革の日仏比較』明石書店、柴田洋二郎(2019)「フランス医療保険の財源改革にみる医療保障と公費」『健保連海外医療保障』No.121、同(2017)「フランスの医療保険財源の租税化」『JRIレビュー』Vol.9 No.48などを参照。
25 2023年5月29日『日本経済新聞』、同年4月17日『毎日新聞』を参照。
4|次元の異なる少子化対策の問題点(3)~特別会計を巡る論点~
さらに、こども金庫という特別会計に関する問題点も指摘せざるを得ない。今回の未来戦略では既に触れた通り、こども金庫という特別会計が新設されることになっており、一部では「特別会計の下では資金が不透明になる」という批判が聞かれる。確かに小泉純一郎政権期には特別会計を統廃合するための改革が実施された経緯26を踏まえると、「特別会計の新設は行財政改革に逆行する」という意見は傾聴に値する。

しかし、特別会計には負担と給付の関係が明確になるメリットもある。例えば、飛行機の燃料に課される航空機燃料税は空港の整備や周辺の環境改善などに充てられる特定財源であり、他の用途に充当しないように、国税部分は自動車安全特別会計の「空港整備勘定」で区分管理されている27。このため、支援金の使途を明確にする観点に立ち、こども金庫を創設したり、特別会計に「こども・子育て支援資金」(仮称)という別の勘定を設けたりすること自体、違和感は持たない。もし支援金を「社会保険料の目的外流用」という趣旨で反対しつつ、特別会計の新設も「改革に逆行」と非難するのであれば、一種の論理矛盾を起こしていることになる。

その半面、特別会計による管理には問題点も少なくない。例えば、財務省の査定が甘くなる危険性である。管見の限り、予算査定を司る財務省主計局の関心事は専ら一般会計の帳尻合わせと、国費(国の税金)の圧縮であり、特別会計の規模や使途のチェックに関する優先順位は低くなる傾向が見受けられる。

特に、こども金庫は雇用保険料や医療保険料を財源とする支援金、さらに企業からの子ども・子育て拠出金を財源としており、一般会計からの繰入金に影響しない範囲であれば、こども金庫の使途や規模に対する財務省の関心が低くなる可能性は否定できない。その結果、歳出が不必要に膨らむ危険性に留意する必要がある。

このほか、給付と負担の関係を明確化しようとした結果、こども金庫の資金フローが複雑化する点も見逃せない。例えば、支援金の使途は限定的に挙げられているものの、育児時短就業給付などにも充当されるため、「こども・子育て支援勘定」から「育児休業等給付勘定」に繰入金が発生する。さらに、支援金の一部が国民年金保険料の軽減に充当されるため、こども金庫のこども・子育て支援勘定から年金特別会計に繰り入れることが想定されている。

つまり、こども金庫やこども・子育て支援勘定をバイパスするような形で、支援金の一部が別の勘定や特別会計に充当されるわけだ。これは「『社会保険料の目的外流用』という批判を回避するため、支援金の使途を明確にしたい」という要請と、「『規模ありき』で膨らませた少子化対策の財源として、支援金を幅広い分野に充当したい」という財源対策の要望を満たす上での「苦肉の策」と言える。

さらに淵源を辿れば、実質的に社会保険料に多くの財源を頼る大前提に無理があったわけであり、筆者自身としては、こうした説明や複雑な資金フローが国民に分かりやすく伝わるのか、かなり疑問に感じている。
 
26 小泉政権末期の2005年12月に「行政改革の重要方針」が策定された後、2007年に特別会計法が成立し、特別会計の数は約半減となるなど見直しが講じられた。特別会計改革に関しては、小泉政権の塩川正十郎財務相が「母屋(筆者注:一般会計)ではおかゆ食って、辛抱しようとけちけち節約しておるのに、離れ座敷(筆者注:特別会計)で子供がすき焼き食っておる」と述べたことが有名。2003年2月25日、第156回国会衆議院財務金融委員会での答弁。
27 ただし、空港整備勘定は「経過措置」とされている。
5|次元の異なる少子化対策の問題点(4)~支援金の予見可能性~
支援金については、歳出の予見可能性などでも問題点が多い。既述した通り、歳出改革で浮いた保険料の範囲内で、支援金が徴収される仕組みとなっており、未来戦略の別紙では「各年度における支援納付金の総額は、支援納付金を充当する事業の所要額が毎年変動する」としつつ、「毎年末の予算編成過程において、その見込み額を基に、こども家庭庁が支援金を拠出する立場にある関係者等の意見を聴取しつつ、その年度までに生じた実質的な保険料負担軽減の効果の範囲内で決定する」と書かれている(一部文言を省略)。

ここでのポイントは「毎年変動」「予算編成過程」「負担軽減の効果の範囲内」であろう。つまり、政府が実施する社会保障の歳出カット次第で、支援金の額は変動するという意味であり、費用を負担するサイドの国民から見た予見可能性はゼロに近い。

しかも、その規模は政府の説明次第で変わり得る。例えば、(上)で述べた前期高齢者財政調整の「会計操作」のような形で、十分な歳出抑制が実行されていないにもかかわらず、政府が「◎◎の歳出改革で××億円を抑制しました」と説明するだけで、支援金の負担を求められる危険性さえ有り得る。実際、(下)で詳述する通り、2024年度予算編成では「実質的な負担軽減」を大きく見せる説明も試みられているなど、早くも予見可能性が危ぶまれている。

以上の点を踏まえつつ、誤解を恐れずに言い換えると、予見可能性が不十分な点で、財源を調達したい政府にとっては好都合な仕組みなのかもしれないが、費用負担を強いられる国民にとっては極めて不透明な制度設計と言わざるを得ない。

付言すると、上記のような批判は今回の支援金の先行事例に当たる後期高齢者医療制度でも論じられていた。75歳以上高齢者を対象とする後期高齢者医療制度では、約4割の財源を0~74歳の国民が負担しており、それぞれの保険者が医療保険料に上乗せして支援金を徴収している。

しかし、全く別の制度に移行した高齢者の医療費に関する負担になる点とか、被保険者が意思決定に関与できない民主的統制28の観点に立ち、有識者から「保険制度の枠内に納まりきれない。実質は限りなく租税に近い」29、「保険料の名を借りた租税負担であるし、租税にも劣る負担と言わざるを得ない」30といった批判が出ていた。

今回の少子化対策に関する支援金では使途を限定する観点に立ち、特別会計を用いる点など、一部で後期高齢者医療制度の支援金と違う面があるにしても、社会保険料なのか、税金なのか、その位置付けが分からなくなったことで、予見可能性の点で後期高齢者医療制度支援金と同じような問題を抱えている。

なお、予見可能性の部分については、給付抑制策が列挙された「改革工程」の内容を一瞥すると、そのリスクが大きい様子を説明できるし、実際に早くも雲行きが怪しくなりつつある。この点は(下)で改めて考察する。
 
28 税金の場合、国会や地方議会における予算や決算の審議を通じて、民主的統制が担保されているが、後期高齢者医療制度支援金は心許ない状況である。さらに、医療保険料に関しても、それぞれの保険者における民主的な意思決定プロセスは担保されているとは言い難く、社会保障の教科書で用いられている「保険者自治」が実態面で実現されているとは言えない。例えば、医療保険制度で言うと、協会けんぽは事業主、被保険者、有識者の計9人以内で構成する運営委員会で意思決定しているが、いずれも厚生労働相の任命であり、被保険者が選任や運営に関われるのは難しい。国民健康保険の保険料は自治体で決定されており、最終的に市町村議会の同意が必要だが、自治体のトップや議員は国民健康保険以外の被保険者からも選ばれている点で、代表と被保険者は一致していない。後期高齢者医療制度についても、都道府県単位に設置されている広域連合の代表は市町村長の互選、広域連合議会の議員は市町村議会議員からの互選で決まっており、被保険者の民主的統制は極めて低い。健康保険組合は労使半数の代表で運営、決定される仕組みになっている点で、民主的統制が担保されているものの、全体として自治の仕組みは形骸化している感が否めない上、後期高齢者医療制度に対する支援金や前期高齢者納付金については、その規模をコントロールできない。
29 堤修三(2007)『社会保障改革の立法政策的批判』社会保険研究所p70から引用。
30 加藤智章(2016)『社会保険 核論』旬報社p210から引用。

6――おわりに

6――おわりに

制度や施策を策定・実施するだけでなく、その意義や目指す姿を国民一人ひとりにわかりやすいメッセージで伝えるとともに、施策が社会や職場で活用され子育て世帯にしっかりと届くよう、社会全体でこども・子育て世帯を応援する機運を高めていくことが必要――。未来戦略の取りまとめに際して、このように岸田首相は述べた31

確かに施策の内容を見ると、単に「出産や子どもを増やすための少子化対策」という観点にとどまらない点など評価できる面も少なくないが、その過程を振り返ると、「規模ありき」で進んだ感は否めない。

さらに、財源対策に至っては、増税を含む負担増の議論から逃げたことで、「社会保険料のように取るけど、税金のように使う」「特別会計で区分を明らかにするけど、その資金フローは複雑」といった形で、非常に苦しい説明になっていると言わざるを得ない。その結果、支援金の予見可能性は極めて低くなっており、誤解を恐れずに言うと、支援金は政府にとって都合がいいかもしれないが、国民には分かりにくい仕組みになっている面は否めない。今後は「実質的な負担を増やさない範囲内で少子化対策を実施」といった小手先の説明ではなく、負担と給付の関係を踏まえた真摯な議論が求められる。(上)でも述べた通り、「負担は増やさないけど、給付は充実」という錬金術のような選択肢が多く存在するわけではないことを肝に銘じる必要がある。例えば、支援金を将来的な税制改革までの暫定措置に位置付けるなど、次の改革を意識した対応は十分に可能なはずである。

(下)では「実質的な負担を増やさない範囲内で少子化対策を実施」という政府の説明の前提条件となっている歳出改革のプランとして、未来戦略と同時に閣議決定された「改革工程」の内容や問題点を取り上げる。
 
31 2023年12月11日、こども未来戦略会議議事録から引用。
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保険研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

三原 岳 (みはら たかし)

研究・専門分野
医療・介護・福祉、政策過程論

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     1995年4月~ 時事通信社
     2011年4月~ 東京財団研究員
     2017年10月~ ニッセイ基礎研究所
     2023年7月から現職

    【加入団体等】
    ・社会政策学会
    ・日本財政学会
    ・日本地方財政学会
    ・自治体学会
    ・日本ケアマネジメント学会

    【講演等】
    ・経団連、経済同友会、日本商工会議所、財政制度等審議会、日本医師会、連合など多数
    ・藤田医科大学を中心とする厚生労働省の市町村人材育成プログラムの講師(2020年度~)

    【主な著書・寄稿など】
    ・『必携自治体職員ハンドブック』公職研(2021年5月、共著)
    ・『地域医療は再生するか』医薬経済社(2020年11月)
    ・『医薬経済』に『現場が望む社会保障制度』を連載中(毎月)
    ・「障害者政策の変容と差別解消法の意義」「合理的配慮の考え方と決定過程」日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク編『トピック別 聴覚障害学生支援ガイド』(2017年3月、共著)
    ・「介護報酬複雑化の過程と問題点」『社会政策』(通巻第20号、2015年7月)ほか多数

(2024年02月01日「基礎研レポート」)

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