2024年01月24日

2023年中国REIT市場の現状と2024年の見通し~初の商業施設REITが上場へ~

社会研究部 研究員 胡 笳

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1――インフラ公募REITの低迷が続く

2023年12月、上海証券取引所及び深セン証券取引所に上場しているインフラ公募REITの全体的なパフォーマンスを表す中証REIT指数2は、年初の1,048ポイントから700ポイント台まで下落し、発行時の時価総額約923.6億元(約1.9兆円)は、2023年年末には826.3億元(約1.7兆円)3まで減少した。しかしながら、2023年には6銘柄が新規上場し、総銘柄数は29銘柄に増加した。

インフラ公募REITの用途別にみると、高速道路REITの時価総額の減少額が最も大きく、発行時の総額に比べて2023年には平均で約2割の下落幅を記録した。2023年年初から新型コロナウイルスに関連する移動制限が解除され、国内経済は回復に転じ始めたにもかかわらず、公募REITの実績は期待に応えられなかった。その背景には、(1)景気停滞による資本市場全体の大きな変動が、中国REIT市場に一定の負の影響を与えたこと、(2)2023年におけるREIT市場への投資家の参入が減少し、全体的な流動性が低下したこと、(3)多くの投資家が大量の持ち分を売却した結果、価格が急落したことなどが挙げられる。
図表1 中証REIT指数の推移
図表2 中国インフラ公募REIT保有不動産の用途別比率(2023年年末)
 
2 中証REIT指数は、上海証券取引所及び深セン証券取引所に上場している、上場期間が3カ月以上のインフラ公募REITを対象とした加重平均型の指数である。2021年9月30日時点の時価総額を1000として指数化したもので、中証指数有限会社が算出したものである。
 https://www.csindex.com.cn/#/indices/family/detail?indexCode=932006
3 12月27日に上場した1銘柄(約30億元)を除く。

2――商業施設REITの対象拡大と社会保障基金の参入

2――商業施設REITの対象拡大と社会保障基金の参入

2020年に初めてインフラ公募REITが創設された際は、対象となる不動産は倉庫物流、高速道路、産業園区などのインフラ施設だけで、地域も一部に限定されていた4。その後、2021年7月以降、インフラ公募REITの対象は、発電施設などエネルギー系インフラ、保障性賃貸住宅、水利施設や観光地などにも広がり、対象地域も中国全土に拡大された5。また、2023年3月には、証券監督管理委員会は国民の消費能力の拡大と消費環境の改善等を目指し、百貨店やショッピングモールなどの商業施設を「消費型インフラ」として公募REITの対象に追加した6。2023年末には、消費型インフラ公募REITが4銘柄承認され、2銘柄が申請中にある。2024年には少なくとも6銘柄が上場予定である。

「消費型インフラ」の追加は、商業不動産が都市の重要な基幹施設のひとつであることを政府が認めたことを示している。商業施設は人々の消費にも続く安定した経営が期待され、魅力的な商業施設では賃料の上昇余地もある。さらに、商業施設の場合、大型投資となることが多く、開発事業者の初期資本の確保が課題であることから、公募REITを通じた資金調達は有効な手段となる。

また、2023年12月6日に、財政部は「全国社会保障基金国内投資管理弁法」のパブリックコメント募集の実施(意見募集稿)7において、社会保障基金(公的年金)が参入できる投資商品11種類のうち、インフラ公募REITが含まれることを示し、REIT分野への参入解禁を示唆した。尚、投資比率については、株式、証券投資信託基金、年金商品、インフラ公募REIT、上場企業の優先株式、中国預託証券などに対する投資の合計額が投資総額の40%を超えてはならないと規定している。社会保障基金の参入は、REITの参加主体を効果的に拡大し、市場における信頼性を強化することにつながるだろう。
 
4 中国证监会、国家展改革委(2020)「关于推础设域不动产信托基金(REITs点相关工作的通知」
 https://www.ndrc.gov.cn/xwdt/xwfb/202004/t20200430_1227479.html
5 国家展改革委(2021)「关于一步做好基础设域不动产信托基金REITs点工作的通知」
https://www.ndrc.gov.cn/xwdt/tzgg/202107/t20210702_1285342.html
6 证监(2023)「关于一步推础设域不动产信托基金(REITs)常行相关工作的通https://www.gov.cn/zhengce/zhengceku/2023-03/25/content_5748247.htm
7 人民網記事(2023)「政部布《全国社会保障基金境内投管理(征求意稿)》」
 http://finance.people.com.cn/n1/2023/1206/c1004-40133175.html

3――類REIT、Pre-REITの発展が公募REIT備蓄拡大に寄与

3――類REIT、Pre-REITの発展が公募REIT備蓄拡大に寄与

2014年初に類REIT商品が発行されて以来、類REIT市場は急速に成長し、2023年12月末時点で中国の類REIT商品の銘柄数は合計227銘柄となり、発行済み総額は約4,716億元(約9.6兆円)に達している。2023年には計54銘柄の類REIT商品が発行され、総額は約1,097億元(約2.2兆円)となった。
図表3 中国類REIT発行済み総額と年別発行額の推移
図表4 中国類REIT保有不動産の用途別比率(2023年年末)
Pre-REITについてはまだ厳密な定義や統計データが存在しないが、実務の観点からみると、Pre-REITは公募REITの前段階の私募商品である。具体的には、公募REITの発行意向があり、発行可能性が高い対象不動産に対して、投資家が対象不動産の建設や運営などのプロセスに事前に参加できる。Pre-REITを通じて、投資主体が対象不動産の運営に介入し、それぞれの専門知識やリソースの優位性を活用して対象不動産の収益性と規範性を向上させることができる。そして公募REITあるいは類REITなどの手段を通じて上場・発行し、適切な時期に対象不動産を売却し、収益を得る投資モデルである。ただし、中国のインフラ公募REITの場合には、対象不動産の運営年数が3年以上、将来3年間の配当率が4%以上見込まれることなど厳格な要件がある8

2023年2月には、中国証券投資基金業協会は「不動産私募投資基金パイロットプロジェクト登録ガイドライン(試行)」9を発表し、不動産私募投資基金の投資範囲について、建設許認可取得済の販売中あるいは工事中の分譲住宅、保障性賃貸住宅や民間賃貸住宅、開発・建設及び運営を目的としたオフィス、商業施設、ホテル、インフラなども含むことを明確にした。現在のインフラ公募REITは主に安定的に運営されている不動産に焦点を当てているが、このガイドラインによれば、不動産私募投資基金も不動産プロジェクトの開発段階での参加が可能になった。さらに、私募投資基金が投資する際に、融資額や担保残高は基金総額の20%を超えてはならない10という制限も緩和される見込みだ。こうして、私募投資基金による住宅、商業施設等への不動産投資業務の展開が容易になることにより、Pre-REITの発展はインフラREITの裾野の拡大に寄与するだろう。
 
8 同注5。
9 中基2023)「关于布《不动产私募投基金案指引(行)》的公告
 https://www.amac.org.cn/governmentrules/czxgf/zlgz/zlgz_smjj/zlgz_smjj_cpba/202302/t20230220_14478.html
10 证监会(2020)「关于加强私募投资基金监管的若干规定」
 https://www.gov.cn/zhengce/zhengceku/2021-01/08/content_5578316.htm

4――中国REITの全面回復はもう少し先になる見込み

4――中国REITの全面回復はもう少し先になる見込み

中国のREIT市場は制度整備を含めて引き続き発展途上にある。現時点では、インフラ公募REITの高速道路や産業園区など対象不動産の運営状況は、いまだ景気の影響を受けている。2023年には新型コロナウイルスに関連する一連の規制が解除され、倉庫・物流や保障性賃貸住宅が比較的に安定的に運営されるようになったが、産業園区の空室率は未だ改善をしておらず、業績の全面的な回復は新年(旧正月11)明けの2月下旬以降になる見込みだ。高速道路については、外出ニーズが増加しているものの、2月の旧正月、4月の清明節、5月の労働節などの連休は無料通行になるため、運営状況の回復はもうしばらく注視する必要がある。

全国社会保障基金国内投資管理弁法は2024年1月5日までにパブリックコメントの募集を終え、今後、交付・施行される見込みだ。社会保障基金のような長期かつ安定した資金運用を目指す機関投資家がREIT市場に参入することで、市場全体の健全な発展が促進されることが期待される。
 
11 2024年の春節は2月10日で、法定休日は2月17日までである。出稼ぎ労働者は「元宵節」である2月24日以降に仕事を再開する人が多い。
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社会研究部   研究員

胡 笳 (こ か)

研究・専門分野
中国REIT、中国不動産全般

経歴
  • 【職歴】
     2018年 早稲田大学 アジア太平洋研究科 博士(学術)
     2018年 ニッセイ基礎研究所 入社
    【資格】
     環境プランナー、国際環境リーダー

    【加入団体等】
     日本NPO学会、Nonprofit Management & Leadership(米)

(2024年01月24日「基礎研レター」)

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