コラム
2023年02月10日

2022年中国インフラ公募REIT市場の現状と2023年の見通し

社会研究部 研究員 胡 笳

このレポートの関連カテゴリ

文字サイズ

中国のインフラ公募REITは2021年6月の上場以来、順調に銘柄数や資産規模を拡大している。インフラ公募REITの価格は、過去1年に平均で約6%上昇し、安定した配当を得ていることは国内外の投資家から注目されている。本稿は中国インフラ公募REIT市場の現状を報告し、2023年の見通しを展望する。

2022年、インフラ公募REIT 13銘柄が新規上場、発行規模は約420億元

2022年末時点で、保障性賃貸住宅REITの4銘柄も含め、インフラ公募REITの上場総銘柄数は24銘柄、総発行規模は約803億元(約1.5兆円)だったが、2022年年末時点の時価総額は854億元(約1.6兆円)に上昇した。

対象インフラの用途を見ると、交通インフラが占める割合が最も高く、半数以上の54.5%を占めている。次いで産業園区が19.0%、倉庫物流が9.6%である。
図表1 中国インフラ公募REIT用途別構成比(発行規模ベース)
昨年、中国では新型コロナ感染症による操業規制が続いたため、用途では最も占有率の高い交通インフラの経営は、移動制限により一時的に悪化傾向にあったが、徐々に改善してきたことに加え、今後は「ゼロコロナ」政策の撤廃で、従来の収益性を回復することが期待される1。次に占有率の高い産業園区などは、地方政府による緊急対策としての減税制度や補助金などに基づき2、賃料減免措置などを講じたことにより、テナントは厳しいながらも事業経営を続けることができた。倉庫物流や保障性賃貸住宅についても同様であり、この結果、インフラ公募REITは一定の配当性向を維持できたようである。
 
1 新華財経「高速公路REITs再添上市新成员 稳步扩容、市场完善双线并行」中国金融情報網、2022年11月24日、
 https://www.cnfin.com/zs-lb/detail/20221124/3751278_1.html(参照2023年2月7日)
2 北京日報「北京:中小微企业预计共减42亿元房租」、中国政府網、2022年5月7日、
http://www.gov.cn/xinwen/2022-05/07/content_5689026.htm(参照2023年1月29日)

2023年はインフラ公募REIT 60銘柄の新規上場、総発行規模が2,000億元超となる見込み

2022年末、中国国家発展改革委員会投資司の担当者が清華大学主催の「第7回中国PPPフォーラム」において、「2023年には、インフラ公募REIT 60銘柄の上場、総発行規模2,000億元(約3.8兆円)超を目指す」と発表した3。2023年1月末現在、すでに5銘柄が証券取引所にて審査を受け、うち1銘柄は無事審査を通過し、まもなく上場する見込みである。

また、対象インフラの種類の多様化もより一層進展していくことが見込まれる。2022年12月、北京市発展改革委員会は「インフラ公募REITパイロットプロジェクトの募集に関する通知」で、新型インフラ分野のインフラ公募REITの応募を求めた。具体的には、データセンター、AI、5G、通信設備、スマートシティ関連プロジェクトや自然文化遺産などが挙げられている4
 
3 新華財経「国家发展改革委投资司副司长韩志峰:明年基础设施REITs或将进入快速发展期」中国金融情報網、2022年12月25日、
 https://www.cnfin.com/zs-lb/detail/20221225/3773193_1.html(参照2023年2月7日)
4 北京市発展改革委員会「インフラ公募REITパイロットプロジェクトの募集に関する通知」、北京市発展改革委員会、2022年12月19日、http://fgw.beijing.gov.cn/gzdt/tztg/202212/t20221219_2880588.htm(参照2023年1月29日)

中国インフラ公募REITの課題

現状ではインフラ公募REITの募集において、中国証券監督管理委員会(証監会)(2020)の「公開募集インフラ証券投資基金ガイドライン」5に従い、オリジネーター(関連企業を含む)及び戦略投資家6は公募基金の20%以上保有しなければならない。残りの発行分は機関投資家向け7割以上、個人投資家向け3割以下としているが、実際には、オリジネーターと関係機関及び戦略投資家の比率が60~80%7が一般的であり、個人投資家の比率が10%程度に過ぎない。

2022年は新規上場の銘柄における個人投資家比率がさらに低くなる傾向があり、応募倍率が200倍を超える銘柄もあった8。その背景として、インフラ公募REITの上場からまだ2年しか経過しておらず、限られた市場規模の中で個人投資家向けの募集分の確保や情報の周知が十分行えていないことが大きいと考えられる。

さらに、インフラ公募REITに関する法律や税制の整備はまだ検討段階である。2022年1月、財政部、税務総局の「インフラセクターにおける不動産投資信託基金(REITs)パイロットプロジェクトの税制上の措置に関する公告」では、「インフラ公募REIT設立段階において、対象不動産のSPVへの譲渡に関する所得税は非課税」9と発表したが、運営・配当・売買段階における税制措置がまだ明白でない。同時期に、中国証券監督管理委員会が発表した「2022年度立法業務計画」では、「「不動産投資信託基金弁法」について検討し、時期を見て公表する。」としている。中国版「投信法」の成立はもう少し先になるだろう。
 
5 中国証券監督管理委員会(2020)「公開募集インフラ証券投資基金ガイドライン
 http://www.gov.cn/zhengce/zhengceku/2020-08/08/content_5533339.htm
6 戦略的投資家とは、同業界または関連業界で強力かつ重要な戦略的リソースを持ち、株・証券の発行者と長期的な共通の戦略的利益を求め、上場する株・証券の大部分を保有する意思がある投資家を指す。
7 基礎研レター「中国REIT、保険業からの期待~「保険資金によるREIT投資に関する調査」からみた潜在的な市場規模と制度整備に向けた課題~」図表3を参照。https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=69575?pno=2&site=nli
8 首創証券(2023)「公募REITs(12月)月報」。
http://pg.jrj.com.cn/acc/Res/CN_RES/INDUS/2023/1/13/0794f2b4-b21d-430f-9966-5224199acbee.pdf
9 同税制措置は「2021年1月1日から施行」としているため、現在上場しているインフラ公募REIT全銘柄が対象となる。
Xでシェアする Facebookでシェアする

このレポートの関連カテゴリ

社会研究部   研究員

胡 笳 (こ か)

研究・専門分野
中国REIT、中国不動産全般

経歴
  • 【職歴】
     2018年 早稲田大学 アジア太平洋研究科 博士(学術)
     2018年 ニッセイ基礎研究所 入社
    【資格】
     環境プランナー、国際環境リーダー

    【加入団体等】
     日本NPO学会、Nonprofit Management & Leadership(米)

(2023年02月10日「研究員の眼」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【2022年中国インフラ公募REIT市場の現状と2023年の見通し】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

2022年中国インフラ公募REIT市場の現状と2023年の見通しのレポート Topへ