コラム
2024年01月23日

天気予報の精度-適中率さえ高ければ、よい天気予報といえる?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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◇ 予報しやすい状況と、しにくい状況の予報精度の違いもスキルスコアで表現できる

降水の有無には、予報しやすい状況と、しにくい状況がある。例えば、雨季と乾季がはっきりしているサバナ気候の地域(アフリカのギニア湾沿岸部など)は、予報しやすい状況といえるだろう。一方、日本の春季のように晴れの日と雨の日が繰り返すような場合は、予報しにくい状況と考えられる。
 
ここで、降水ありの出現確率を20%としていた(1)の事例に対して、降水ありの出現確率が30%、40%、50%と上昇していった場合の事例である(5)、(6)、(7)を考えてみよう。(1)は雨季と乾季がはっきりしていて予報しやすい状況、(5)、(6)、(7)と移るにつれて、晴れの日と雨の日が繰り返すような予報のしにくさが強くなっていく状況を表している。
(1) 100回予報した事例 (降水ありの出現確率が20%の場合) [再掲]
(5) 降水ありの出現確率が30%の場合
(6) 降水ありの出現確率が40%の場合
(7) 降水ありの出現確率が50%の場合
(1)と(5)~(7)の各事例の適中率は、いずれも80%で同じだ。だが、スキルスコアを計算すると、(1)は前出のとおり37.5%、(5)は52.4%(=(80-58)/(100-58))、(6)は58.3%(=(80-52)/(100-52))、(7)は60%(=(80-50)/(100-50))となる。
 
つまり、予報しやすい状況と、しにくい状況の予報精度の違いも、スキルスコアであれば表現できる。
 
なお、適中率は0~100% の範囲の数値となるに対して、スキルスコアは -100%~100% の範囲の数値となるので、少し注意が必要だ。

◇ 降水ありの予報に注目する指標もある

以上、降水の有無の予報について見ていった。この他にも、降水ありの予報だけに着目して、予報精度を見るための指標として、「スレットスコア」がある。これは、予報も実際も降水あり、予報は降水あり・実際はなし、予報は降水なし・実際はあり、の3つの合計回数に占める、予報も実際も降水ありの回数の割合だ。(1)の事例で言えば、33.3%(=10/(10+10+10))となる。
 
そして、スレットスコアの分子と分母から、気候学的に期待される降水ありの適中回数を除いた「エクイタブルスレットスコア」という指標もある。(1)の事例で言えば、23.1%(=(10-4)/(10+10+10-4))となる。
 
これらは、雨(または雪)が降るとの予報に特化して、その精度を的確に捉えるための指標と言える。
 
ひと口に、天気予報の精度を測るための指標と言っても、さまざまなものがあるわけだ。

◇ 台風などの予想や精度を公表して災害に対する心構えや準備を促す

降水の有無に限らず、世の中には、ある物事が起こるか起こらないかが問題となる事例はたくさんある。自然災害で言えば、台風が襲来して強風により建物の被害が発生するかどうか。高潮や、豪雨による洪水が発生して、建物に浸水被害が起こるかどうか、といったことが問題となる。
 
これらを予想してその精度を測ることは、天気予報とは別の困難さを伴うだろう。だが、こうした予想や精度の計測、公表ができれば、災害に対する人々の心構えや準備を促すことにつながるかもしれない。
 
今後も、天気予報とあわせて、予報精度向上への取り組みにも注目していく必要があると言えるだろう。

(参考文献)
 
「天気予報の精度検証結果」(気象庁ホームページ)
https://www.data.jma.go.jp/yoho/kensho/yohohyoka_top.html
 
「数値予報研修テキストで用いた表記と統計的検証に用いる代表的な指標」(数値予報解説資料(数値予報研修テキスト), 第52巻(令和元年度)最近の数値予報システムとガイダンスの改良について, 付録D, 気象庁)
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/books/nwptext/52/Appendix_D.pdf
 
「気象統計」高橋浩一郎著(氣象学講座 第8巻, 地人書館, 1956年)
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

(2024年01月23日「研究員の眼」)

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