2024年01月17日

欧州の保険型投資商品と年金商品の利回り等(~2022)-EIOPAが公表した報告書の紹介

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩

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1――はじめに

2023年12月18日、EIOPA(欧州保険・年金監督局)は、2022年の保険型投資商品と年金商品のコストと利回りに関する報告書1を公表したので、今回はその内容を紹介する。

2――背景と経緯

2――背景と経緯

この報告書は、欧州委員会の要請に応える形で、EIOPAが投資型保険商品の利回りなどの概要を毎年開示し、それを加入者が比較検討できるようにするものである。今回は、収益率については2022年1年間あるいは2018年~2022年通算の、そしてコストについては2022年1年間の実績が開示あるいは分析されている。

使用したデータは、通常開示されていて利用できるデータと、保険投資商品に義務付けられている主要項目開示文書(Key Information Document : KID)による。調査対象は、EU内の全ての保険商品というわけにはいかないにせよ、例えば以下のような規模で、欧州経済領域の約60%がカバーできているとされる。

・173の保険会社の、1,000以上の投資商品(2021年よりもわずかながら増加)。
総保険料収入(Gross Written Premium)は4,040億ユーロで対前年16%減少。

・個人年金商品200種類以上(対前年15%増加)、総保険料収入290億ユーロ(対前年19%減少)

・1,400以上の年金基金、資産規模は2.5兆ユーロ(対前年11%減少)。うちDC型だけでみると25%増加。

3――報告書の内容

3――報告書の内容

1保険市場の概況
2022年の保険を取り巻く経済状況は、これまでの低金利から、緩やかなインフレと金利の上昇へと変化してきた。そうした中、生命保険商品全体の総収入保険料は、対前年 -9%と縮小した。そのうち、ユニットリンク商品は -13%減少、利益配当型商品(Profit Participation Products )は -8%減少となった(この2つで総収入保険料の9割を占めている)。次に述べるように、リターンの低下による保険商品の貯蓄性に関する魅力の低下が原因となっている。また、インフレ率については2021年においては多くの国が+5%以下であったが、2022年においては+10%前後となるなどの様相で進行したため、保険加入者からみた実質ベースではなおのこと、保険商品の魅力が低下している。

国別にみると、総収入保険料が対前年プラスとなったのは数か国に過ぎず、大多数の国では大きなマイナスとなっている。
2保険型投資商品(IBIPs)
保険型投資商品(IBIPs)のうち、ユニットリンク商品は平均 -11.5%(インフレ率を考慮したという意味での「実質」ベースでは -18.9%)、ハイブリッド商品(従来のように保証部分もあるが、市場価格の変動を直接反映する部分もある保険商品)は、-4.7%(同じく実質-12.7%)といずれもリターンはマイナスであった。利益配当型商品のリターンは、+1.35%であったが、これも実質ベースでは-7.2%とマイナスであった2

これをもうすこし長い目で、2018年~2022年の累計でみると、

ユニットリンク商品については、名目+0.1%、実質-3.0%、
ハイブリッド商品については、名目-0.1%、実質-3.2%、
利益配当型商品については、名目+1.6%、実質-1.6%

と、前年までのプラスのリターンの蓄積が効いて、2022年単年ほど悪くはない。

こうした商品のパフォーマンスはリスククラス、保有期間、保険料支払いの頻度によって異なる影響を受ける。例えば高いリスククラスの商品は市場のボラティリティに左右されやすく、今般のような市場動向の中ではリターンが悪化した。
 
一方、保険型投資商品のコストは安定してはいたが、平均的には例年より比較的高かった。利益配当型商品は、ユニットリンク商品やハイブリッド商品に比べてコストの優位性(収益率を1.5%低下させる程度)を維持したが、後者2つは両者とも2.1%(同じく、収益率を低下させる効果としてみたコスト)と、ここ3年ほど低下傾向にはある。
 
この中で、持続可能性を考慮した保険商品(報告書内ではサステイナブル商品といったりESG商品といったり、必ずしも表記が統一していないが、ここではESG商品、そうでないものを非ESG商品と呼ぼう。)については、需要がたかまっていることもあって、保険会社から提供される商品種類も増加し、急速に成長しつつある。

2022年のESG商品の利回りは、国別にみても、非ESG商品よりも低く(=大きなマイナス)で、コストも割高となっていた国が多かった。その背景にある理由については、これ以上のデータがないために分析しきれていない。報告書内での推測ではあるが、一般にESG商品は、気候変動や自然災害への対応を考慮するため、保険期間あるいは資産運用期間が長期のものが多く、今回のような金利上昇期には利回り面で有利ではなかったのではないか、とされている。
 
2 国によってインフレ率が異なる中で加重平均しているために、商品種類ごとに、名目と実質の差が異なるものと思われる。
3個人年金商品(PPPs)
個人年金商品については、保険型投資商品と似たような傾向を示していた。金融市場のストレスにより、最低保証のない個人年金商品は2022年の平均リターンはマイナスであった。うち、ユニットリンク型に類似した商品は、-14.1%のマイナスであったのに対し、利益配当型に類似した(=ある種の保証がある)商品は+0.7%とリターンは辛うじてプラスとなった。とはいえ、一方のコストの方は、ユニットリンク型が2.0%、利益配当型が1.5%となっており、これにさらにインフレ率も考慮すると、加入者からみた実質的な利回りは、2022年には大きなマイナスとなっていたことになる。
 
以下、報告書内でとりあげられている国の利回りを紹介するが、全ての国のデータがあるわけではないことや、国の関与度合いや個人年金と職業年金の位置づけなど国毎に制度が異なり、それを取り巻く経済状況(金利など)も異なることなどにより、あくまで参考である。
【国別の個人年金商品の利回りとコスト】
4職業年金基金 (IOPRs)
年金基金については、収集できる情報が充実してきたので、今後さらに詳しい分析に移りたいところであるが、データの蓄積はまだまだ道半ばである。

概況としては、2022年には年金基金の資産額は、2兆7,990億ユーロから2兆4,860億ユーロへと約-11%減少した。ただしうち2割ほどを占める程に成長してきたDC資産だけでみると約25%増加した、その資産構成は、大まかに言って、上場株式から社債や現金へのシフトがみられた。

4――おわりに

4――おわりに

以上、報告書に記載された利回りとコストを紹介してみたが、2022年は資産運用環境がよくなかったこと、あるいはインフレ率が上昇したことにより、名目上も実質上もあまりいいパフォーマンスではなかった時期となった。また多くの国で、いわゆるESG商品の利回りが、今回は非ESG商品ほどよくなかった、という結果となったようである。今後の展開を考える上でも、ここはなんとしてもESG商品が好成績でなければならないところだろう。さらに分析できるデータの充実。蓄積が待たれるところである。
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保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩 (やすい よしひろ)

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1987年 日本生命保険相互会社入社
     ・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
     2012年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2024年01月17日「保険・年金フォーカス」)

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