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2025年05月09日

宇宙天気現象に関するリスク-太陽フレアなどのピークに入っている今日この頃

基礎研REPORT(冊子版)5月号[vol.338]

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩

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1―はじめに

近年、暴風雨、洪水、山火事などの自然災害が、世界各地で頻発している。

今回は、まだ広く知られておらず、実際の影響も明らかではない、「宇宙天気現象」と呼ばれるものについて紹介する。

宇宙天気現象の研究自体は古くから取り組まれているようだが、携帯電話の普及などにより、社会全体への影響が大きくなったことで、注目されるようになってきた。それでもまだ社会的認知度は低く、こうした関心をさらに高めていく必要がある。たとえば米国、英国では、「国家的リスク」として、宇宙天気を位置付けている。わが国でも、2022年6月に総務省「宇宙天気予報の高度化の在り方に関する検討会」報告書*1 (以下「報告書」)が公表された。
 
*1 宇宙天気予報の高度化のあり方に関する検討会報告書(2022.6.21)
 https://www.soumu.go.jp/main_content/000821116.pdf

2―太陽活動と、その地球への影響

1│太陽活動
太陽は、全体がガスの塊であり、中心では核融合反応が起こっている。これによって膨大なエネルギーが生み出され、太陽の表面に伝わる。そこでは様々に変化する様相が見られる。これらを太陽活動と呼ぶ。太陽の表面近くでは、太陽の外側に炎のように揺らぐ「プロミネンス」、高温のプラズマである「コロナ」、周囲より温度が低く磁場が強い「黒点」、などが観測されている。

そして「太陽フレア」は、黒点の周辺で突然明るく光る爆発現象のことを指す。この爆発によって、太陽の大気中のガスや高エネルギー粒子が放出され、放射線が発生するが、そのメカニズムは、現在でも完全には解明されていない。

太陽活動は、約11年の周期で、活発になったり弱くなったりを繰り返しており、ピーク時期を「太陽極大期」、弱まる時期を「太陽極小期」と呼ぶ。2024年10月15日、アメリカ航空宇宙局は、「太陽は極大期に入っており、今後1年はピークが続く可能性がある」と発表した。現在は太陽活動のピーク中ということになる。
2│地球への影響
太陽フレアという爆発現象に伴って、電気や磁気を帯びたガス、高エネルギー粒子、放射線が周囲に放出される。

一方、地球の周りには大気圏、電離圏、磁気圏、放射線帯があって、太陽の放射物との相互作用により、複雑な現象が超高度の上空で生まれている。

こうした、太陽の放射物が地球に到来する現象や、地球周辺で発生する現象のことを「宇宙天気現象」と呼ぶが、通信・放送・測位、人口衛星、航空無線、電力等の社会インフラに対して、大きな影響を及ぼす(文明進化型の災害)。
3|宇宙天気現象の位置づけ
国連内の研究機関などの専門家により、2021年10月に公表された「HAZARD INFORMATION PROFILES」*2で、8つのハザード(気象水文ハザード、地球外ハザードなどが分類された。宇宙天気現象は、「地球外ハザード」の中で、「地磁気嵐」「電離圏嵐」「太陽フレアによる電波障害」「太陽嵐」の4つが定義されている。(報告書p.13)
 
*2 HAZARD INFORMATION PROFILES (2021 UNDRR)
 https://www.undrr.org/media/73913/download?startDownload=20250508
4|過去の事例
過去に、太陽フレア等が社会インフラに影響を及ぼした例は、近年、日本も含め世界各地で見られた。例えば、電力会社の設備への影響、天体観測衛星・人工衛星への悪影響と喪失、航空管制・通信への影響などである。

宇宙天気現象が我々の生活に大きな影響を与えると考えられることから、「宇宙天気現象の予報」を開発し、高度化する必要も高まっているとされている。

3―宇宙天気予報*3と最悪シナリオ

 
*3 これは、主要国で行われている事業一般の名称にも見えるが、日本では、この用語「宇宙天気予報」は、1991年に商標登録(現在はNICT)されている。 宇宙天気予報 国立研究開発法人情報通信研究機構 https://swc.nict.go.jp/
1|宇宙天気予報
太陽フレア等を観測し、現状を知らせ、将来の予想を行うのが、「宇宙天気予報」である。これはわが国においては、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)が2004年から一般に公表してきている。

これは、太陽フレアを含むいくつかの現象の活発さを示すレベルを表示するものである。
2|最悪シナリオ
宇宙天気現象がもたらす最悪シナリオとして、以下のようなものが挙げられている(報告書p.37~39からの抜粋)。

こうした被害の定性・定量的な想定方法については、引き続き検討していく必要があるとされている。

〇通信・放送・レーダーへの被害がもたらすもの
・短波帯の通信・放送が使用不可
・無線システムが、断続的に使用不可(防災行政無線、消防無線、警察無線、等に多大な支障)
・携帯電話システムは、一日数時間程度のサービス停止。110番等の緊急通報を含む全ての通信がつながりにくくなる。スマートフォンからのインターネット接続も困難になる。
・衛星携帯電話が使用不可。航空機、船舶、電力・ガス・石油などのライフライン企業等これを利用する分野の活動に著しい制約が生じる。
・船舶無線、一部のレーダー、衛星測位の大幅な劣化や測位の途絶
・カ-ナビや自動運転、ドローンの位置精度が大幅に低下。その際、衝突事故等を防ぐ
ための運行見合わせ。
・衛星測位を利用する機器精度の大幅劣化や測位途絶に伴い、交通・物流の停滞が大規模に発生。
・スマホの位置情報の精度劣化により、110番通報等に対する緊急の駆けつけが遅れる。各種配達業務において、個人宅等ピンポイント配送が困難になる。

〇衛星運用への被害
・多くの衛星に障害・不具合・故障の発生、あるいは機能喪失。
・天気予報の精度劣化。衛星放送の視聴困難。衛星測位の利用が困難。
・太陽電池の急激な劣化による、衛星の寿命の縮小

〇航空運用への被害
・衛星測位精度の劣化による、運航見合わせや減便
・搭乗員の被ばくを避けるための迂回航路の選択。それに伴い飛行時間が長くなり、消費燃料も増加。
・航空管制レーダーが使用困難。出発便の空港待機、到着便の上空待機など運行スケジュールや計画の大幅な乱れ。混乱や事故リスクを避けるため、航空機の運休。

〇電力分野への被害
・広域停電の発生による、電力供給の途絶や逼迫。それに伴う社会経済や全産業への広範囲に及ぶ影響。

4―各段階における危機管理

1|現状の対応方針
最悪シナリオに対する、具体的な方策はまだない。国、企業・団体、学界等がリスクを理解し、効果的な対策の構築に「着手すべき」という段階である。

わが国でいえば、洪水、地震などを対象とした災害対策基本法に、宇宙天気現象による災害を組み込むことも検討することが必要とされている。
2|社会インフラに関する対策
宇宙天気現象そのものをなくすことは困難なので、社会インフラの脆弱性をできる限り小さくすることで、リスクを低減させる必要がある。

具体的には、宇宙天気現象に対する理解増進、被害発生の事前想定、インフラの脆弱性評価、リスク評価、事前対策の実施、耐性の強化、被害発生時の対応マニュアルの整備、宇宙天気予報等の専門サービスの活用、リスクファイナンス(損害保険等)の活用、などが挙げられる(報告書 p.44~45)
3|保険の活用
人工衛星等の損害を補償する宇宙保険が既にあるように、損失の発生を金銭面で補償することが重要になる。今後の調査研究によって、現在想定外とされる宇宙天気現象を、確率的に取り扱うことができれば、リーズナブルな保険が成立し、さらに保険料率の低下を見込むことができる可能性がある。

5―私見など

過去いくつかの被害が実際にあったにせよ、宇宙天気現象が大規模な通信障害などを引き起こして、大きな被害が発生したと、一般に認知されている例は少ないのではないか。

太陽活動のピークとされる2025年に、例えば、スマホの通信が一時的に不安定になる程度の軽微な影響が広い範囲で発生したりすれば、一般市民や政策担当者が、真剣に取り組むべき課題として認識するきっかけになるかもしれない。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年05月09日「基礎研マンスリー」)

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保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩 (やすい よしひろ)

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1987年 日本生命保険相互会社入社
     ・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
     2012年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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