2024年01月17日

英国雇用関連統計(23年12月)-賃金上昇率の減速が継続

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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1.結果の概要:賃金上昇率はさらに減速

1月16日、英国国家統計局(ONS)は雇用関連統計を公表し、結果は以下の通りとなった1
 

【12月】
失業保険申請件数2前月(155.96万件)から1.17万件増の157.13万件となった(図表1)。
申請件数の雇用者数に対する割合は4.0%となり、前月(同4.0%)から横ばいだった。
給与所得者数3前月(3024.1万人)から2.4万人減の3021.7万人となった。増減数は前月(+0.9万人)からマイナスに転じ、市場予想4(▲1.3万人)を下回った。

【11月(23年9-11月の3か月平均)】
調整失業率は4.2%で前月(4.2%)から横ばいだった(図表1)。
調整就業者は3304.8万人で3か月前の3297.5万人から7.3万人増加した。増減数は前月(+5.5万人)から増加した。
週平均賃金は前年比6.5%で前月(7.2%)から低下、市場予想(6.8%)を下回った(図表2)。

(図表1)英国の失業保険申請件数、失業率/(図表2)賃金上昇率の推移
 
1 ONSは回答率の低下を受けて、労働力調査の改良(The transformed Labour Force Survey)を行っているが、現在開発中であり、就業者・失業率は給与所得者数や失業保険申請件数で調整した実験統計ベースの数値が公表されている。
2 求職者手当(JSA:Jobseekerʼs Allowance)、国民保険給付(National Insurance credits)を受けている者に加えて、主に失業理由でユニバーサルクレジット(UC)を受給している者の推計数の合算。なお、UCはJSAより幅広い求職手当てであり、失業者数を示す統計としては過大評価している可能性がある。このため、ONSは実験統計という位置付けで公表している。
3 歳入関税庁(HRMC)の源泉徴収情報を利用した統計。直近データは約85%のデータから推計。
4 bloomberg集計の中央値。以下の予想値も同様。

2.結果の詳細:ストライキ件数が急減

まず、12月のデータとして公表されている求人数および給与所得者数を確認すると、求人数は23年10-12月の平均で93.4万件となり22年3-5月平均(130.2万件)をピークに減少傾向が続き(図表3)、5か月連続で100万件を割り込んだ。多くの産業で求人が減り、12月は特に卸・小売、輸送・保管、医療、芸術・娯楽、飲食・居住などの減少が目立った。12月単月の求人数も84.5万件と90万件を下回った5

給与所得者データでは、12月の給与所得者数(速報値)が前月差で▲2.4万人と8月以来となる前月比での減少となった(11月も速報値時点では前月差で▲1.3万人とマイナスだったが、改定され前月差0.9万人とプラスになった)。産業別には卸・小売の減少が目立った。また、12月の給与額(中央値)は前年同月比6.6%と11月(6.5%)からわずかに加速した。なお、11月の給与額(中央値)伸び率が速報時点(前年同月比5.3%)から大幅に上方修正されている。
(図表3)求人数の変化(要因分解)/(図表4)給与取得者データの推移
労働力調査ベースの数値(調整値)では9-11月期の失業率が4.2%で横ばいだった(前掲図表1)。非労働力人口が減少し、就業者と失業者がいずれも小幅に増加した。
(図表5)英国の名目賃金水準(週あたり賃金)/(図表6)英国の労働争議件数と労働損失日数
名目賃金は9-11月期の前年同期比で6.5%と前月(7.2%)から大幅に低下した。特に、9-11月期はボーナスの金額が急減している(図表6)。なお、ボーナスを除く定期賃金伸び率も前年同期比6.6%と前月(7.2%)から減速したが、市場予想(6.6%)とは一致した。実質ベースでは、インフレ率の低下幅が名目賃金上昇率の低下幅と同程度だったため、前年同期比1.3%と前月(1.3%)から横ばいだった。定期賃金のみの実質伸び率は同1.4%と前月(1.3%)から小幅に上昇した。

処遇改善を求めたストライキは、11月は件数ベースで51件、労働損失日数で6.9万日と、いずれも10月から大きく減少した(図表6)。コロナ禍前と比較すると依然としてやや多いが、件数ベースでは22年6月(41件)以来、労働損失日数では22年5月(3.2万日)以来の低水準となった。
 
5 3か月平均のデータは季節調整値だが、単月データは未季節調整値のため季節性が除去されていないため留意が必要。
 
 

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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2002年 東京工業大学入学(理学部)
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2024年01月17日「経済・金融フラッシュ」)

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