2023年12月18日

英国金融政策(12月MPC)-3会合連続で政策金利据え置きを決定

経済研究部 主任研究員 高山 武士

このレポートの関連カテゴリ

文字サイズ

1.結果の概要:3会合連続で政策金利据え置きを決定

12月13日、英中央銀行のイングランド銀行(BOE:Bank of England)は金融政策委員会(MPC:Monetary Policy Committee)を開催し、14日に金融政策の方針を公表した。概要は以下の通り。
 

【金融政策決定内容】
政策金利を5.25%で据え置き(6対3で3名は0.25%ポイント引き上げを支持)

【議事要旨等(趣旨)】
インフレ見通しに対するリスクは、上方に傾いていると判断しているメンバーが多い
11月に続き委員会は金融政策を長期にわたって制限的にする必要があると判断している

2.金融政策の評価:インフレに対する見方は慎重

イングランド銀行は今回のMPCで政策金利の据え置きを決定した。金利据え置きは市場の予想通りの結果で、3会合連続となる。

インフレ率の実績データが11月より下振れているが、委員会では特にサービスインフレについては永続的なインフレ要因が低下するという、良い兆しではないと判断し、委員の大多数が引き続きインフレリスクが上方に傾いていると判断していることが明らかになっている。こうした状況を受けて、声明文にはこれまで同様に「仮により永続的なインフレ圧力があるのであれば、より引き締め的な金融政策が必要となる」「最新見通しは金融政策を長期にわたって制限的にする必要があると判断している」との評価が残された。

米国ではインフレ率の低下を受けて、FOMCにおいて利下げ時期の議論が始まっていることが明らかになったが、英国ではMPCで議論されたように、他の主要先進国と比較して、賃金を含めてインフレの持続性を示す指標が高止まりしていることから、インフレ見通しに対する慎重派の見方が優勢であり、11月と同様3名は利上げを支持している。

引き続きインフレ率が低下に向かえば、追加利上げが実施される可能性は低いと考えられるが、高い政策金利が当面は維持されるものと予想される。

3.金融政策の方針

今回のMPCで発表された金融政策の概要は以下の通り。
 
  • MPCは、金融政策を2%のインフレ目標として設定し、持続的な経済成長と雇用を支援する
    • 委員会は政策金利(バンクレート)を据え置き、5.25%とする(6対3で決定1)、3名は0.25%ポイント引き上げ5.50%とすることを主張した
 
  • 11月の金融政策報告書の見通しでは、市場観測の政策金利経路として市場観測の政策金利経路として、24年10-12月期まで現在の5.25%程度の政策金利が維持され、26年末にかけて4.25%程度まで緩やかに低下すると想定されており、この前提のもとで、GDPは見通しの前半は、相対的に弱い供給と来年から経済の弛み(slack)が増加しはじめると見られることを受けて、総じて横ばいとなるとされた
    • MPCは引き続きこの最頻値見通しについて、リスクが上方に傾いていると評価しており、CPIインフレ率の平均値見通しは2年後に2.2%、3年後に1.9%となっていた
 
  • 前回のMPC会合以降、先進国の国債利回りは短期も含めて大幅に低下し、リスク性資産の価格は上昇した
    • 世界のGDP成長率は11月報告書の見通しよりもやや強かった
    • ユーロ圏と米国のCPIインフレ率は予想よりも迅速に低下した
    • 中東での出来事は、インフレの上方リスクとして残っているものの、石油と卸売ガス価格は低下した
 
  • 英国の23年7-9月期のGDPは横ばいで11月報告書の見通し通りであり、10月には0.3%下落した。
    • 最新の公的および調査データをもとに、中銀スタッフは10-12月期およびその後数四半期のGDP成長率を総じて横ばいと予想している
    • 委員会は引き続き労働市場の動向に関する幅広い指標を考慮し続ける
    • 雇用伸び率は軟化しそうで、労働市場のさらなる緩和の証拠がみられる
 
  • 11月報告書の前提と比較し、秋季財政報告(Autumn Statement)の財政措置は今後数年間のGDP水準を一時的に0.25%程度押し上げると見積もられる
    • おそらくこれらの措置はまた、潜在供給力をある程度押し上げ、委員会の需給ギャップ見通しに対する示唆としては、経済のインフレ圧力を縮小させると見られる
 
  • 民間部門の週当たり平均定期賃金伸び率は、10月までの3か月で7.3%となり、11月報告書の見通しよりも0.5%ポイント低い
    • これにより、週当たり平均賃金は7%を下回る他の賃金指標の動きにある程度沿うようになった
    • 賃金上昇率には、最近公表された全国最低賃金(National Minimum Wage)の引き上げがもたらす可能性のある影響を含め、引き続き上方リスクが残っていると見られる
 
  • CPI上昇率の前年比は10月に4.6%と9月の6.7%から大幅に下落した
    • サービスインフレは6.6%に低下したものの、11月報告書と比較しての下振れ要因は、サービス物価の基調的なトレンドやヘッドラインインフレ率に対する永続的な要因に関する良い兆しという訳ではないと思われる
 
  • CPIインフレ率は、年明けごろまで現在の伸び率付近で維持されると予想される
    • 特にサービスインフレは、今年の初めの動きが例外的に弱く、その後に緩やかに低下していたため、1月には一時的に上昇すると予想される
    • CPIインフレ率の短期的な経路は、エネルギー価格の最近の低下を反映して11月報告書の見通しよりも幾分低い
 
  • MPCの責務が、英国の金融政策枠組みにおける物価安定の優位(primacy)を反映して、常にインフレ目標の達成であることは明らかである
    • この枠組みでは、ショックや混乱の結果、物価が目標から乖離する場合があることを認識する
    • 金融政策により、CPIインフレ率が中期的に2%目標に安定して戻るようにする
 
  • 前回のMPCの決定以降、CPIインフレ率は予想通り広範囲に低下し、民間部門の週当たり定期賃金伸び率は幾分低下してきた
    • しかしながら、英国のインフレ率の持続性に関する主要な指標は高止まりしたままである
    • 予想通り、金融引き締めは労働市場を緩和させ、より一般に実体経済の活動の重しとなっている
    • 引き締めサイクルを開始して以降の政策金利の大幅な引き上げにより、現在の金融政策姿勢は制限的である
    • 今回の会合で委員会は政策金利を5.25%に維持することを決定した
 
  • MPCは引き続き、基調的な労働市場のひっ迫感を示す一連の指標、賃金上昇率、サービス物価インフレの動向といった、経済全体におけるインフレ圧力の持続性と回復力について、引き続き注視する
    • 金融政策は、委員会の責務にもとづき、インフレ率を中期的な2%目標に安定的に戻すため、十分な期間にわたり十分に制限的にされる必要がある
    • 11月の報告書見通しに示されているように、委員会は金融政策を長期にわたって制限的にする必要があると判断している
    • 仮により永続的なインフレ圧力があるのであれば、より引き締め的な金融政策が必要となる
 
1 今回反対票を投じたのは、グリーン委員、ハスケル委員、マン委員で0.25%の利上げを主張した。前回もこの3名は0.25%の利上げを主張していた。

4.議事要旨の概要

金融政策報告書および議事要旨の概要(上記金融政策の方針で触れられていない部分)において注目した内容(趣旨)は以下の通り。
 
(供給・費用・価格)
  • 賃金上昇率の低下トレンドはよりフォワードルッキングな指標と整合的であった
    • 意思決定者パネル(DMP)調査による将来の賃金上昇率期待は年初の約6%から10月には5%まで低下した
    • 中銀エージェントは、24年の平均的な賃金妥結が低下する初期の兆しを得ている
    • しかしながら、委員会は将来の賃金上昇に対する潜在的な上方リスクに留意した
    • これらは、最近、公表された全国最低賃金の上昇による影響、例えば、企業内の相対賃金の再設定を含んでいる
 
  • ガス電力市場監督局(Ofgem)の価格上限が10月に引き下げられたことは、典型的な家計のエネルギー料金を1年前と比較して大幅に引き下げた
    • 1月に5%まで上限価格が引き上げられると公表されているにも関わらず、先々6か月間は前年比のCPIインフレ率に対して、エネルギー価格はマイナスの寄与をし、最近の石油価格と卸売ガスの先物価格の低下が持続的であるならば、マイナス寄与はさらに大きくなると予想される
 
(政策金利決定)
  • 6人の委員が、今回の会合で政策金利を5.25%に維持することが妥当であると判断した
    • 前回のMPC以降、主要な指標のいくつかは下振れしており、経済動向は総じて制限されている
    • このグループの多くのメンバーにとって、サービスインフレと賃金上昇が確固たる下降経路を描くと結論付けることは早すぎると見ている
      • インフレの持続性を示す指標は他の主要先進国の動向と比較して引き続き高く、英国では供給要因が好ましくなく、より強い2次的効果(second round effect)を反映している可能性がある
      • 2次的効果はゆっくりと解消されていくと見られるが、労働市場は依然として引き締まっており、賃金と価格設定がCPIインフレ率を下振れさせる規模は明らかでない
      • 中東での出来事を含め、中期的なCPIインフレ率へのリスクは引き続き上方に傾いている
    • 1人の委員にとっては引き締めすぎるリスクが引き続き積みあがっていると見ている
      • 金融政策効果のラグにより、過去や最近の利上げの影響が依然として顕在化していないと見られた
 
  • 3人の委員が今回の会合で、政策金利を0.25%引き上げ5.5%にすることを望んだ
    • 現在の経済指標は、引き続き経済活動が鈍化していることを示しているが、家計の実質所得は押し上げられており、生産の先行指標は引き続きプラスを維持している
    • 労働市場は引き続き相対的にひっ迫し、中期的な均衡失業率の上昇と整合的であり、緩和速度は鈍化している
    • 賃金上昇率の指標は緩和しているが、インフレ目標と整合的な水準よりも高い状況が続いている
    • 基調的なサービスインフレは引き続き上昇している
    • これらの委員は、引き続きより持続的なインフレ圧力の証拠があると判断している
    • 金融調達環境は11月報告書よりも緩和している
    • この会合における政策金利の0.25%ポイントの引き上げが、より深くインフレの持続性が定着するリスクに対処し、中期的な2%目標の持続に戻るために必要である
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
Xでシェアする Facebookでシェアする

このレポートの関連カテゴリ

経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2002年 東京工業大学入学(理学部)
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2023年12月18日「経済・金融フラッシュ」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【英国金融政策(12月MPC)-3会合連続で政策金利据え置きを決定】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

英国金融政策(12月MPC)-3会合連続で政策金利据え置きを決定のレポート Topへ