2023年12月13日

英国雇用関連統計(23年11月)-給与所得者数が減少、実質賃金の伸びは減速

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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1.結果の概要:給与所得者数が減少に転じる

12月12日、英国国家統計局(ONS)は雇用関連統計を公表し、結果は以下の通りとなった1
 

【11月】
失業保険申請件数2前月(155.90万件)から1.60万件増の157.50万件となった(図表1)。
申請件数の雇用者数に対する割合は4.0%となり、前月(同4.0%)から横ばいだった。
給与所得者数3前月(3021.7万人)から1.3万人減の3020.4万人となった。増減数は前月(+3.9万人)からマイナスに転じ、市場予想4(+0.5万人)を下回った。

【10月(23年8-10月の3か月平均)】
調整失業率は4.2%で前月(4.2%)から横ばいだった(図表1)。
調整就業者は3300.7万人で3か月前の3288.2万人から12.5万人増加した。増減数は前月(+5.3万人)から増加した。
週平均賃金は前年比7.2%で前月(8.0%)から低下、市場予想(7.7%)を下回った(図表2)。

(図表1)英国の失業保険申請件数、失業率/(図表2)賃金上昇率の推移
 
1 ONSは回答率の低下を受けて、労働力調査の改良(The transformed Labour Force Survey)を行っているが、現在開発中であり、就業者・失業率は給与所得者数や失業保険申請件数で調整した実験統計ベースの数値が公表されている。
2 求職者手当(JSA:Jobseekerʼs Allowance)、国民保険給付(National Insurance credits)を受けている者に加えて、主に失業理由でユニバーサルクレジット(UC)を受給している者の推計数の合算。なお、UCはJSAより幅広い求職手当てであり、失業者数を示す統計としては過大評価している可能性がある。このため、ONSは実験統計という位置付けで公表している。
3 歳入関税庁(HRMC)の源泉徴収情報を利用した統計。直近データは約85%のデータから推計(22年7月から推計方法変更)。
4 bloomberg集計の中央値。以下の予想値も同様。

2.結果の詳細:実質賃金上昇率は減速

まず、11月のデータとして公表されている求人数および給与所得者数を確認すると、求人数は23年9-11月の平均で94.9万件となり22年3-5月平均(130.2万件)をピークに減少傾向が続き(図表3)、4か月連続で100万件を割り込んだ。多くの産業で求人が減り、11月は特に卸・小売、医療、輸送・保管などでの減少が目立った。11月単月の求人数も89.6万件と90万件を下回った5

給与所得者データでは、11月の給与所得者数(速報値)が前月差で▲1.3万人と、8月以来となる前月対比での減少となった。産業別には求人の減少と同様に卸・小売や輸送・保管で減少が進んだほか、製造業でも減少が目立った。また、11月の給与額(中央値)は前年同月比5.3%となり10月(6.2%)から大幅に減速している。
(図表3)求人数の変化(要因分解)/(図表4)給与取得者データの推移
労働力調査ベースの数値(調整値)では8-10月期の失業率が4.2%で横ばいだった(前掲図表1)。非労働力人口が小幅に減少し、就業者と失業者がいずれも小幅に増加した。
(図表5)賃金上昇率(ボーナス含む)の推移/(図表6)英国の労働争議件数と労働損失日数
名目賃金は8-10月期の前年同期比で7.2%と前月(8.0%)から大幅に低下した。公務員への一時金支払で公的部門の大きく賃金上昇率が押し上げられていたが、今期はその影響が剥落した(図表5)。その結果、名目伸び率の低下幅がインフレ率の低下幅より大きくなり実質賃金の上昇率は1.3%と前月(1.5%)から減速した。実質賃金上昇率の減速は、実質賃金伸び率が上昇しはじめた23年2月以降では初めてとなる(前掲図表2)。なお、ボーナスを除く定期賃金伸び率も前年同期比7.3%と前月(7.8%)から減速、市場予想(7.4%)も下回った。ただし、実質ベースの定期賃金伸び率は前年同期比1.4%と前月(1.3%)から小幅に上昇した。

処遇改善を求めたストライキは、10月は件数ベースで543件、労働損失日数で13.1万日となった(図表6)。労働損失日数の減少傾向は続いているものの、コロナ禍前よりは多い。また、労働争議件数は高止まりしており、特に公的部門の争議が大部分を占めている状態が続いている。
 
5 3か月平均のデータは季節調整値だが、単月データは未季節調整値のため季節性が除去されていないため留意が必要。
 
 

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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2002年 東京工業大学入学(理学部)
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2023年12月13日「経済・金融フラッシュ」)

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