2023年12月15日

ECB政策理事会-PEPP保有残高の削減予定を公表

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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1.結果の概要:PEPP保有残高の削減スケジュールを公表

12月14日、欧州中央銀行(ECB:European Central Bank)は政策理事会を開催し、金融政策について決定した。概要は以下の通り。
 

【金融政策決定内容】
24年下半期から、PEPP保有残高を月あたり平均75億ユーロずつ削減し、24年末でPEPPの償還再投資を終了する予定である

【記者会見での発言(趣旨)】
今回の会合では利下げについて議論していない
・見通しは実質成長率を23年0.6%、24年0.8%、25年1.5%、26年1.5と予想(下方修正)
(前回9月は23年0.7%、24年1.0%、25年1.6%
インフレ率を23年5.4%、24年2.7%、25年2.1%、26年1.9%と予想(下方修正)
(前回9月は23年5.6%、24年3.2%、25年2.1%
コアインフレ率を23年5.0%、24年2.7%、25年2.3%、26年2.1%と予想

2.金融政策の評価:政策金利は予想通りの据え置きを決定

ECBは今回の会合で、市場予想通りとなる政策金利の据え置きを決定した。金利据え置きは22年10月に続き、2会合連続の決定となる。

なお、今回の会合では、従来、「少なくとも24年末まで実施」とされていたPEPPの償還再投資の前倒しスケジュールが示された。具体的には24年下半期から償還再投資をおよそ半分に削減(PEPPの保有残高を月額平均75億ユーロずつ削減)し、24年末で償還再投資を完全に終了するというものになる。事前に償還再投資のスケジュールを公表することは、APPの償還再投資削減と同様であり、予見可能性のある「秩序だった予測可能なペース」での縮小ということになる。

今回の質疑応答ではこのPEPPに関連した質問や、理事会前日に米FOMCにおいて利下げ時期の議論が始まっていることが明らかになったこともあって、利下げに関する質問が多く見られた。

PEPPについては、償還再投資の柔軟化が分断化リスクへの対応策として22年6月以降に用いられてきたが、現在、分断化リスクは見られておらず、正常化のタイミングとしては適切であるとの認識を示した。

利下げについては米FRBと異なり、ECBは今回の会合では利下げの議論はしておらず、「ガードを下げるべきではない」として、市場の利下げ期待をけん制した。合わせて、今回公表した経済見通しにおいて、積極的な利下げを織り込む市場金利を前提1に、24年のインフレ率の低下スピードがかなり緩やかになること(2%まで低下するのは25年以降の予想)、24年前半に賃金や企業動向などのデータが豊富に得られるため、それを見極める必要があるとの趣旨の発言がされている。

なお、金融政策はあくまで政策金利が主要手段であり、PEPPの保有残高削減とは独立に政策金利は決定されるとしている。

ユーロ圏では実際のインフレ率が大幅に低下しているため、引き続きこれらのデータが注目されるが、ECBは来年初の賃金・利益データなどを重視していることから、予想外の大幅低下が見られない限りは、政策金利については当面は現状の水準を維持し、様子見姿勢を続けると見られる。
 
1 なお、政策金利経路の前提は明かされていない(具体化されていない)が、3か月EURIBORの前提で23年3.4%、24年3.6%、25年2.8%、26年2.7%となっている(9月の前提では23年3.4%、24年3.7%、25年3.1%だった)。

3.声明の概要(金融政策の方針)

今回の政策理事会で発表された声明は以下の通り。
 
  • 理事会は、本日、3つの主要な政策金利を据え置くことを決定した
    • ここ数か月インフレ率は低下しているが、短期的には再び一時的な上昇が見込まれる
    • ユーロシステムスタッフの最新のユーロ圏見通しは、インフレ率が来年にかけて緩やかに低下し、25年に理事会の2%目標に到達すると予想されている
    • スタッフは年平均のヘッドラインインフレ率を23年5.4%、24年2.7%、25年2.1%、26年1.9%と予想している
    • 9月のスタッフ見通しと比較して、23年および特に24年を下方修正した
 
  • 基調的なインフレ率はさらに鎮静化した
    • しかし域内のインフレ圧力は、主に単位労働コストの強い伸びのために、引き続き高止まりしている
    • ユーロシステムスタッフは年平均のエネルギーおよび飲食料を除くインフレ率を、23年5.0%、24年2.7%、25年2.3%、26年2.1%と予想している
 
  • 過去の利上げは引き続き、経済へ強力に伝達されている(資金調達環境へ(into financing conditions)から経済へ(to the economy)に修正)
    • 金融調達環境の引き締まりは、需要を抑制し、インフレ率の押し下げに寄与している
    • ユーロシステムスタッフは短期的に経済成長が停滞すると予想している
    • その後は、インフレ率の低下と賃金上昇を受けて実質所得が上昇、外需も改善することから経済は回復すると見込まれる
    • ユーロシステムの見通しは23年0.6%、24年0.8%から25年および26年は1.5%に上昇するとしている
 
  • 理事会は、確実にインフレ率を速やかに中期的に2%という目標に戻すと決意している
    • 現在の評価に基づき、理事会は3つの主要な政策金利が、これが十分に長い期間続けば、インフレ率が目標達成に重要な貢献をする水準にあると考えている
    • 理事会の将来の決定について、政策金利が必要とされる期間にわたり十分に制限的な水準に設定されるよう保証する
 
  • 理事会は、制限的な水準と期間に関して適切に決定するため、引き続きデータ依存のアプローチを続ける
    • 特に、この金利決定は、最新の経済・金融データに照らしたインフレ見通しの評価、基調的なインフレの動向、金融政策の伝達状況によって決定する
 
  • 主要な政策金利は金融政策姿勢を定める主要な手段である
    • 理事会はまた、本日、ユーロシステムのバランスシートをさらに正常化を進めることを決定した
    • パンデミック緊急購入プログラム(PEPP)の下での償還証券からの再投資は、24年上半期まではすべて実施する
    • 24年下半期は、PEPP保有残高を月あたり平均75億ユーロずつ削減する予定である
    • 理事会は24年末でPEPPの償還再投資を終了する予定である
 
(政策金利、フォワードガイダンス)
  • 政策金利の維持(変更なし)
    • 主要リファイナンスオペ(MRO)金利:4.50%
    • 限界貸出ファシリティ金利:4.75%
    • 預金ファシリティ金利:4.00%
 
(資産購入プログラム:APP、パンデミック緊急資産購入プログラム:PEPP)
  • APPの元本償還分の再投資(変更なし)
    • APP残高は償還分を再投資しておらず、秩序だった予測可能なペース(measured and predictable pace)で削減している
 
  • PEPP元本償還分の再投資実施(段階的な削減を決定
    • 理事会は、PEPPの元本償還について、24年上半期は全額の再投資を続ける(変更)
    • 24年下半期にはPEPP保有残高を月額平均75億ユーロ削減する予定である(変更)
    • 理事会はPEPPの再投資を24年末で終了する予定である(変更)
    • (将来のPEPPの元本償還(roll-off)が適切な金融政策に影響しないよう管理する、との記載は削除)
 
  • PEPP償還再投資の柔軟性について(変更なし)
    • 理事会は引き続きPEPPの償還再投資について、コロナ禍に関する金融政策の伝達機能へのリスクに対抗する観点から、柔軟性を持って実施する
 
(資金供給オペ)
  • 流動性供給策の監視(変更なし)
    • 銀行が貸出条件付長期資金供給オペ下での借入額の返済を行うなか、理事会は条件付貸出オペと現在実施されているその返済が金融政策姿勢にどのように貢献しているかを定期的に評価する
 
(その他)
  • 金融政策のスタンスとTPIについて(変更なし)
    • インフレが2%の中期目標に戻り、金融政策の円滑な伝達機能が維持されるよう、すべての手段を調整する準備がある
    • 加えて、伝達保護措置(TPI)は、ユーロ圏加盟国に対する金融政策伝達への深刻な脅威となる不当で(unwarranted)、無秩序な(disorderly)市場変動に対抗するために利用可能であり、理事会の物価安定責務の達成をより効果的にするだろう

4.記者会見の概要

政策理事会後の記者会見における主な内容は以下の通り。
 
(冒頭説明)
  • (声明文冒頭に記載の利上げとスタッフ見通しへの言及)
 
  • 経済とインフレ率の状況をどう見ているかの詳細と金融・通貨環境への評価について述べたい

(経済活動)
  • ユーロ圏経済は主に在庫の減少によって7-9月期にわずかに縮小した
    • 金融調達環境のタイト化と外需の停滞は短期的に経済活動の重しになり続けると見込まれる
    • 建設業と製造業の見通しは特に悪く、これら2部門は高金利の影響を最も受けている
    • サービス業の活動もまたここ数か月で軟化している
    • 製造業活動の弱まりが波及し、また経済再開の影響が解消されたことで、幅広く金融調達環境タイト化の影響が生じている
 
  • 労働市場は引き続き経済を支えている
    • 失業率は10月に6.5%となり、雇用者数は7-9月期に0.2%伸びた
    • 同時に経済の低迷が労働需要を弱めており、企業はここ数か月求人を減少させている
    • 加えて、多くの人が職に就いているものの、総労働時間は7-9月期に0.1%減少した
 
  • エネルギー危機の解消に伴い、政府は引き続き関連する支援策を終了させるべきである
    • これは中期的なインフレ圧力が加速し、さらに強力な金融政策で対応することを避けるために重要である
    • 財政支援策は、我々の経済をより生産的にし、高い公的債務を段階的に削減させるよう計画されるべきである
    • ユーロ圏の生産余力を強化させる、次世代EUプログラムの完全な実行によっても支えられている構造改革や投資は、中期的な物価上昇圧力の削減に寄与するとともに、グリーンやデジタルへの移行を支援するだろう
    • そのためにも、EUの経済統治枠組み(economic governance framework)の改革に迅速に結論を出すことは重要である
    • 加えて、また資本市場同盟へ向けた進展や銀行同盟の完了が加速されるべきである
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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2002年 東京工業大学入学(理学部)
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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