2024年01月11日

さくらレポート(2024年1月)~景気判断は5地域で「回復」とされたが、先行きへの警戒感は強い~

経済研究部 研究員 安田 拓斗

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1.景気の総括判断は、全9地域中、2地域で引き上げ、6地域で据え置き、1地域で引き下げ

1月11日に日本銀行が公表した「地域経済報告(さくらレポート)」によると、景気の総括判断は、全9地域のうち、2地域で引き上げ、6地域で据え置き、1地域で引き下げとなった。景気の総括判断が引き上げられたのは、東海、九州・沖縄の2地域、据え置かれたのは、北海道、東北、北陸、関東甲信越、中国、四国の6地域となり、引き下げられたのは近畿だけだった。景気の総括判断で、「回復している」との表現を用いた地域が、前回(2023年10月)は北陸、関東甲信越、中国、九州・沖縄の4地域だったが、今回(2024年1月)は東海が加わり、5地域となった。また、それ以外の地域でも「持ち直し」の表現が使われている。ただし、近畿は輸出の弱さから「持ち直しのペースが鈍化」とされた。
各地域の景気の総括判断
需要項目別には、個人消費は物価上昇の影響を受けつつも、インバウンド需要による押し上げ効果もあり、回復している。ただし人手不足による逆風を受けている地域もある。設備投資は高水準の企業収益、脱炭素・DXの機運上昇が追い風となって増加している。住宅投資は住宅価格の上昇を受けて、消費者の購買意欲が低下しており、弱い動きとなっている。

他には、生産は海外経済の回復ペース鈍化の影響を受けながらも、供給制約の緩和などから横ばい圏内で推移している。雇用・所得環境は労働需給の引き締まりを背景に、緩やかに改善している。

2.業況判断は製造業、非製造業ともに緩やかに改善

「地域別業況判断DI(全産業)」をみると、全9地域で改善し、全国では+3ポイントの改善となった。前回調査からの変化幅をみると、東海が+6ポイント、北陸、近畿が+5ポイント、中国が+3ポイント、北海道、東北、関東甲信越、四国が+2ポイント、九州・沖縄が+1ポイントとなった。業況判断は全体的に改善している。

先行き(2024年3月)の景況感は、全9地域で悪化を見込んでおり、全国では▲5ポイントの悪化を見込んでいる。先行きの低下幅をみると、北陸が▲7ポイントと最も大きく、次いで北海道が▲6ポイント、近畿が▲5ポイント、東北、関東甲信越、東海、四国、九州・沖縄が▲4ポイント、中国が▲2ポイントとなった。景気は製造業・非製造業ともに持ち直しているものの、欧米の中央銀行による累積的な金融引き締めによる海外経済の減速や、消費者物価高止まりによる実質賃金の低下など景気の下振れリスクが残存しているため先行きへの警戒感は全体的に強い。今後も先行きを楽観視できない状況が続くだろう。
地域別の業況判断DIと変化幅(全産業)/全産業の改善・悪化幅(前回→今回)・全産業の改善・悪化幅(今回→先行き)

3.製造業の業況判断は緩やかに改善したが、先行きは悪化が見込まれる

製造業の業況判断DIは、全9地域のうち8地域で改善、1地域で悪化し、全国では+5ポイントの改善となった。
地域別の業況判断DIと変化幅(製造業) 地域別に変化幅をみると、東海が+8ポイントと最も大きく、次いで近畿が+7ポイント、北海道、中国が+5ポイント、北陸、関東甲信越が+4ポイント、東北、四国が+3ポイントとなった。一方、九州・沖縄は▲2ポイントとなった。

近畿では、特に窯業・土石製品が+17ポイント、化学、金属製品、輸送用機械が+12ポイントと改善幅が大きかった。中国では、特に紙・パルプ(+43ポイント)、木材・木製品(+21ポイント)が大きく改善した。一方、前回調査から悪化した九州・沖縄では、特に鉄鋼(▲31ポイント)、繊維(▲11ポイント)の悪化幅が大きかった。地域によってばらつきはあるものの、製造業の業況判断は全体として緩やかに改善している。
先行きについては、全9地域中、3地域で改善、6地域で悪化を見込んでいる。全国では▲3ポイントの悪化を見込んでいる。

地域別に先行きの変化幅をみると、北海道、東北が+2ポイントと最も大きく、次いで中国が+1ポイントとなった。一方、悪化を見込む地域をみると、北陸が▲8ポイントと悪化幅が最も大きく、次いで東海が▲4ポイント、近畿、九州・沖縄が▲3ポイント、関東甲信越が▲2ポイント、四国が▲1ポイントとなった。先行きの改善幅が最も大きかった東北では、特に鉄鋼(+31ポイント)、輸送用機械(+20ポイント)で大幅な改善が見込まれている。一方、先行きの悪化幅が最も大きかった北陸では、特に石油・石炭製品(▲33ポイント)、木材・木製品(▲25ポイント)、金属製品(▲25ポイント)で大幅な悪化が見込まれている。北海道、東北、中国では小幅な改善を見込むが、全体的に製造業の先行きは警戒感がうかがえる。

なお、日銀短観2023年12月調査では、2023年度の想定為替レート(全規模製造業ベース)が138.96円と、足もとの実勢(145円台前半)と比べて円高の水準を想定している。為替が現在の水準で推移すれば、利益計画の上方修正を通じて製造業の景況感は上振れていくだろう。
製造業の改善・悪化幅(前回→今回)/製造業の改善・悪化幅(今回→先行き)

4.非製造業は先行きの警戒感が強い

地域別の業況判断DIと変化幅(非製造業) 非製造業の業況判断DIは全9地域中、8地域で改善、1地域で横ばいとなり、全国では+2ポイントの改善となった。地域別に変化幅をみると、東海で+4ポイントと最も大きく、ついで北陸で+3ポイント、北海道、関東甲信越、近畿、九州・沖縄が+2ポイント、中国、四国が+1ポイントとなった。一方、東北では横ばいとなった。

北陸では、特に情報通信(+23ポイント)、宿泊・飲食サービス(+19ポイント)の改善幅が大きかった。横ばいとなった東北では、特に宿泊・飲食サービス(▲6ポイント)の悪化幅が大きかった。非製造業の業況判断は全体的に緩やかに改善している。
先行きについては、全9地域で悪化を見込み、全国では▲6ポイントの悪化を見込んでいる。物価上昇の影響を受けて警戒感が強い。

地域別に先行きの変化幅をみると、北海道で▲9ポイントと大幅な悪化を見込み、次いで北陸、関東甲信越が▲7ポイント、東北、近畿、四国が▲6ポイント、東海、中国が▲5ポイント、九州・沖縄が▲4ポイントの悪化を見込んでいる。最も悪化幅が大きい北海道では宿泊・飲食サービス(▲28ポイント)、物品賃貸(▲24ポイント)が特に悪化を見込んでいる。北陸では情報通信(▲23ポイント)、建設(▲18ポイント)が特に悪化を見込んでいる。非製造業の先行きは、人手不足、物価高、実質賃金の低下など下振れリスクが残っていることから、警戒感が強い状況が続いている。
非製造業の改善・悪化幅(前回→今回)/非製造業の改善・悪化幅(今回→先行き)
 
 

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経済研究部   研究員

安田 拓斗 (やすだ たくと)

研究・専門分野
日本経済

経歴
  • 【職歴】
     2021年4月  日本生命保険相互会社入社
     2021年11月 ニッセイ基礎研究所へ

(2024年01月11日「経済・金融フラッシュ」)

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