2023年10月19日

さくらレポート(2023年10月)~景気の総括判断は、多くの地域で引き上げられた~

経済研究部 研究員 安田 拓斗

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1.景気の総括判断は、全9地域中、6地域で引き上げ、3地域で据え置き

10月19日に日本銀行が公表した「地域経済報告(さくらレポート)」によると、景気の総括判断は、全9地域のうち、6地域で引き上げ、3地域で据え置きとなり、引き下げられた地域はなかった。景気の総括判断が引き上げられたのは、北海道、東北、北陸、関東甲信越、中国、四国の6地域、据え置きとなったのは、東海、近畿、九州・沖縄の3地域だった。景気の総括判断で、「回復している」との表現を用いた地域が、前回(2023年7月)は九州・沖縄のみだったが、今回(2023年10月)は北陸、関東甲信越、中国、九州・沖縄の4地域に増加した。
各地域の景気の総括判断
需要項目別には、個人消費は物価高の影響を受けつつも、インバウンド需要による押し上げ効果もあり、飲食・宿泊を中心に回復している。設備投資は企業の収益回復、脱炭素・DXの機運上昇が追い風となって増加している。住宅投資は住宅価格の上昇を受けて、消費者の購買意欲が低下しており、弱い動きとなっている。

他には、生産は海外経済の回復ペース鈍化の影響を受けながらも、供給制約の緩和などから横ばい圏内で推移している。雇用・所得環境は労働需給の引き締まりを背景に、改善している。

2.経済正常化に伴い業況判断は緩やかに改善

「地域別業況判断DI(全産業)」をみると、全9地域のうち6地域で改善、北陸で横ばい、2地域で悪化し、全国では+2ポイントの改善となった。

前回調査からの変化幅をみると、東海が+4ポイント、関東甲信越が+3ポイント、北海道、東北が+2ポイント、中国、九州・沖縄が+1ポイントとなった。一方、北陸は横ばい、近畿、四国は▲2ポイントとなった。業況判断は地域ごとにばらつきが見られるが、全体的に改善している。

先行き(2023年12月)の景況感は、全9地域で悪化を見込んでおり、全国では▲2ポイントの悪化を見込んでいる。先行きの低下幅をみると、北海道が▲5ポイントと最も大きく、次いで東北、四国が▲3ポイント、北陸、関東甲信越、東海、近畿が▲2ポイント、中国、九州・沖縄が▲1ポイントとなった。経済の正常化を背景に景気は緩やかに持ち直しているものの、高インフレとそれに伴う各国中央銀行の累積的な金融引締めによる海外経済の減速など景気の下振れリスクは残っているため先行きへの警戒感は全体的に強い。今後も先行きを楽観視できない状況が続くだろう。
地域別の業況判断DIと変化幅(全産業)/全産業の改善・悪化幅(前回→今回)

3.製造業の業況判断は緩やかに改善しており、先行きも改善が見込まれる

製造業の業況判断DIは、全9地域のうち5地域で改善、2地域で横ばい、2地域で悪化し、全国では+1ポイントの改善となった。

地域別に変化幅をみると、北海道が+6ポイントと最も大きく、次いで東海が+4ポイント、中国が+3ポイント、関東甲信越、九州・沖縄が+1ポイントとなった。一方、北陸、四国では横ばい、東北、近畿は▲2ポイントとなった。
地域別の業況判断DIと変化幅(製造業) 改善幅の最も大きかった北海道では、特に木材・木製品(+27ポイント)、金属製品(+22ポイント)の改善幅が大きかった。中国では、特に非鉄金属(+22ポイント)、紙・パルプ(+14ポイント)が大きく改善した。一方、前回調査から悪化した東北では、特にはん用・生産用・業務用機械(▲13ポイント)、繊維(▲9ポイント)の悪化幅が大きかった。地域によってばらつきはあるものの、製造業の業況判断は全体として緩やかに改善している。
先行きについては、全9地域中、7地域で改善、九州・沖縄で横ばい、北陸で悪化を見込んでいる。全国では+2ポイントの改善を見込んでいる。

地域別に先行きの変化幅をみると、東北が+4ポイントと最も大きく、次いで北海道、関東甲信越が+3ポイント、近畿、中国、四国が+2ポイント、東海が+1ポイントとなった。一方、九州・沖縄は横ばい、北陸は▲4ポイントとなった。先行きの改善幅が最も大きかった東北では、特に非鉄金属(+31ポイント)、鉄鋼(+22ポイント)で大幅な改善が見込まれている。一方、先行きの悪化幅が最も大きかった北陸では、特に電気機械(▲20ポイント)、輸送用機械(▲20ポイント)で大幅な悪化が見込まれている。北陸は先行きの警戒感が強いが、全体的に製造業の先行きは改善を見込んでいる。

なお、日銀短観2023年9月調査では、2023年度の想定為替レート(全規模製造業ベース)が135.37円と、足もとの実勢(149円台後半)と比べて円高の水準を想定している。為替が現在の水準で推移すれば、利益計画の上方修正を通じて製造業の景況感は上振れていくだろう。
製造業の改善・悪化幅(前回→今回)/製造業の改善・悪化幅(今回→先行き)

4.非製造業の業況判断は緩やかに持ち直し

非製造業の業況判断DIは全9地域中、5地域で改善、2地域で横ばい、2地域で悪化し、全国では+2ポイントの改善となった。

地域別に変化幅をみると、東北で+5ポイントと最も大きく、次いで東海が+4ポイント、関東甲信越が+3ポイント、北陸が+1ポイントとなった。一方、北海道、中国では横ばい、四国は▲3ポイント、近畿は▲2ポイントとなった。
地域別の業況判断DIと変化幅(非製造業) 改善幅の最も大きかった東北では、特に対個人サービス(+26ポイント)、宿泊・飲食サービス(+24ポイント)の改善幅が大きかった。悪化幅が最も大きかった四国では、特に運輸・郵便(▲10ポイント)、卸売(▲7ポイント)の悪化幅が大きかった。非製造業も製造業と同じく地域によってばらつきはあるものの、業況判断は全体的に緩やかに改善している。
先行きについては、全9地域で悪化を見込み、全国では▲5ポイントの悪化を見込んでいる。物価高を受けて特に小売の警戒感が強い。

地域別に先行きの変化幅をみると、北海道、東北、四国では▲6ポイントと大幅な悪化を見込み、次いで関東甲信越、東海、近畿が▲5ポイント、四国が▲3ポイント、北陸が▲2ポイントの悪化を見込んでいる。北海道、東北、四国では、全国旅行支援が順次終了していることを背景に、共通して宿泊・飲食サービスの悪化幅が大きく、北海道では▲24ポイント、東北では▲32ポイント、四国では▲16ポイントの悪化を見込んでいる。非製造業の先行きは、人手不足、物価高など下振れリスクが残っていることから、警戒感が強い状況が続いている。
非製造業の改善・悪化幅(前回→今回)/非製造業の改善・悪化幅(今回→先行き)
 
 

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経済研究部   研究員

安田 拓斗 (やすだ たくと)

研究・専門分野
日本経済

経歴
  • 【職歴】
     2021年4月  日本生命保険相互会社入社
     2021年11月 ニッセイ基礎研究所へ

(2023年10月19日「経済・金融フラッシュ」)

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