2024年01月11日

2023~2025年度経済見通し

基礎研REPORT(冊子版)1月号[vol.322]

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1―4四半期ぶりのマイナス成長

2023年7-9月期の実質GDPは、前期比▲0.7%(前期比年率▲2.9%)と4四半期ぶりのマイナス成長となった。

民間消費が、物価高の悪影響などから前期比▲0.2%と2四半期連続で減少したほか、設備投資(前期比▲0.4%)、住宅投資(同▲0.5%)も減少し、国内民間需要が揃って減少した。輸出は増加したが、輸入の伸びを下回ったため、外需寄与度が前期比▲0.1%と成長率を押し下げた。

マイナス成長は4-6月期の高成長(前期比年率3.6%)の反動もあり、そのこと自体を悲観する必要はない。懸念されるのは社会経済活動の正常化が進む中でも消費、設備などの国内民間需要が停滞していることである。

2―経済対策の効果

政府は、追加歳出13.1兆円の経済対策(デフレ完全脱却のための総合経済対策)を策定した。政府による試算では、実質GDPの押し上げ効果が年率1.2%程度(今後3年程度)となっている 。しかし、前年度に比べた補正予算の規模は2021年度から縮小が続いていること[図表1]、補正予算が消化しきれない可能性が高いことを考慮すれば、この試算は過大と考えられる。実際、2022年度予算の未使用額は29.3兆円(うち翌年度繰越額が18.0兆円、不用額が11.3兆円)と非常に大きなものとなった。
[図表1]歳出総額(一般会計)の推移
一方、物価高に対する国民負担の緩和策として盛り込まれた所得・住民税減税、低所得者向け給付、電気、都市ガス、ガソリン、灯油等の激変緩和策は家計の実質可処分所得の押し上げに寄与することが見込まれる。当研究所では、これらの家計支援策による実質可処分所得の押し上げ幅は2023年度が5.2兆円( うち、減税・給付金が2.2兆円、物価高対策が3.0兆円)、2024年度が6.0 兆円(うち、減税・給付金が4.4 兆円、物価高対策が1.6兆円)と試算している[図表2]。
[図表2]政府の家計支援策による実質可処分所得の押し上げ効果
ただし、賃上げのように恒常的と考えられる所得増と比べて、一時的な減税・給付金による消費押し上げ効果はそれほど大きくない。内閣府の検証では、過去の定額給付金や地域振興券による消費押上げ効果は、給付額の20~30%程度とされている。今回の所得・住民税減税と低所得者向け給付を合わせると5兆円程度の規模となるが、個人消費の押し上げ効果は0.4%程度、GDP比で0.2%程度にとどまるだろう。

3―春闘賃上げ率の見通し

2023年の春闘賃上げ率は3.60%(厚生労働省の「民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」)と30年ぶりの高水準となった。2024年の春闘を取り巻く環境を確認すると、有効求人倍率は引き続き1倍を大きく上回る水準となっており、失業率が2%台半ばで推移するなど、労働需給は引き締まった状態が続いている。また、法人企業統計の経常利益(季節調整値)は過去最高水準にあり、消費者物価上昇率は高止まりしている。

賃上げの環境を過去と比較するために、労働需給(有効求人倍率)、企業収益(売上高経常利益率)、物価(消費者物価上昇率(除く生鮮食品))について、過去平均(1985年~)からの乖離幅を標準偏差で基準化してみると、3指標がいずれもプラスとなっており、その合計は過去最高となった2022年を若干上回る水準となっている[図表3]。賃上げの環境は引き続き良好と判断される。
[図表3]賃上げを巡る環境の推移
連合は、2024年春闘の基本構想で、賃上げ要求水準を前年の5%程度から5%以上(定期昇給相当分を含む)へと若干引き上げた。また、自動車、電機などの産業別労働組合で構成される金属労協はベースアップの要求水準を2023年の「6,000円以上」から「10,000円以上」へと大きく引き上げた。こうした状況を踏まえ、今回の見通しでは、2024年の春闘賃上げ率を4.00%と前年から0.4ポイント改善し、1992年以来の4%台となることを想定した。

実質賃金は消費者物価の上昇ペース加速を主因として2022年4月以降、前年比でマイナスが続いている。今後、名目賃金の伸びは高まるものの、消費者物価上昇率が高止まりするため、実質賃金の下落はしばらく続く可能性が高い。実質賃金上昇率がプラスに転じるのは、消費者物価上昇率が2%を割り込むことが見込まれる2024年度後半と予想する[図表4]。
[図表4]名目賃金と実質賃金

4―GDP成長率の見通し

2023年7-9月期は内外需ともに低迷したことから、4四半期ぶりのマイナス成長となった。2023年度後半はインバウンド需要を中心にサービス輸出の増加が続くものの、海外経済の減速を背景に財輸出は低迷する可能性が高い。輸出が景気の牽引役となることは当面期待できないだろう。一方、民間消費は雇用所得環境の改善や社会経済活動の正常化を受けて、対面型サービスを中心に回復し、設備投資は高水準の企業収益を背景に増加が続くだろう。日本経済は内需中心の成長が続くことが予想される。

実質GDPは2023年10-12月期に前期比年率1.5%とプラス成長に復帰するが、2024年1-3月期は輸出の減少を主因として同0.8%とゼロ%台の低成長となるだろう。今回の経済対策に盛り込まれた減税は2024年6月に実施されることが予定されており、7-9月期の民間消費を押し上げる。2024年7-9月期は民間消費の高い伸びを主因として前期比年率2.8%の高成長となるが、減税の効果は一時的なものにとどまり、10-12月期以降は年率1%前後の成長が続くだろう。

実質GDP成長率は、2023年度が1.5%、2024年度が1.3%、2025年度が1.1%と予想する[図表5]。
[図表5]実質GDP成長率の推移

5―消費者物価の見通し

消費者物価(生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)は3%台の伸びが続いていたが、2023年9月には前年比2.8%と13ヵ月ぶりに3%を割り込んだ。しかし、コアコアCPI(生鮮食品及びエネルギーを除く総合)は7ヵ月連続で4%台の高い伸びとなっており、基調的な物価上昇圧力は高い状態が続いている。

物価高の主因となっていた輸入物価の上昇にはいったん歯止めがかっており、財価格の上昇率は鈍化する可能性が高い。一方、賃金との連動性が高いサービス価格は2023年10月に前年比2.1%と、2023年のベースアップと同程度の伸びとなったが、長期にわたって価格が据え置かれてきたこともあり、上昇率がさらに高まることが予想される。

コアCPI上昇率は足もとの2%台後半から徐々に鈍化するが、日銀の物価目標である2%を割り込むのは2024年度後半となることが予想される。

財・サービス別には、2022年度は物価上昇のほとんどがエネルギー、食料を中心とした財の上昇によるものだったが、物価上昇の中心は財からサービスにシフトしつつある。2024年度以降は、消費者物価上昇率への寄与度はサービスが財を上回るだろう。

コアCPIは、2022年度の前年比3.0%の後、2023年度が同2.8%、2024年度が2.0%、2025年度が1.4%と予想する[図表6]。
[図表6]消費者物価(生鮮食品を除く場合)の予測
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斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2024年01月11日「基礎研マンスリー」)

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