2023年12月22日

消費者物価(全国23年11月)-海外旅行再開後も外国パック旅行費の価格は反映されず

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1.コアCPI上昇率は前月から0.4ポイント縮小

消費者物価指数の推移 総務省が12月22日に公表した消費者物価指数によると、23年11月の消費者物価(全国、生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)は前年比2.5%(10月:同2.9%)となり、上昇率は前月から0.4ポイント縮小した。事前の市場予想(QUICK集計:2.5%、当社予想は2.6%)通りの結果であった。全国旅行支援の影響剥落に伴い宿泊料の上昇率が大きく高まったが、食料(生鮮食品を除く)の伸びが鈍化したこと、エネルギーの下落率が拡大したことがコアCPI上昇率を押し下げた。

生鮮食品及びエネルギーを除く総合(コアコアCPI)は前年比3.8%(10月:同4.0%)、総合は前年比2.8%(10月:同3.3%)であった。
コアCPIの内訳をみると、ガソリン(10月:前年比5.0%→11月:同3.9%)、灯油(10月:前年比4.8%→11月:同1.9%)の上昇率が鈍化し、電気代(10月:前年比▲16.8%→11月:同▲18.1%)、ガス代(10月:前年比▲10.2%→11月:同▲11.6%)の下落率が拡大したことから、エネルギー価格の下落率は10月の前年比▲8.7%から同▲10.1%へと拡大した。ガソリン、灯油は激変緩和措置の補助率拡大によって上昇率が鈍化した。
消費者物価(生鮮食品を除く総合)の要因分解 食料(生鮮食品を除く)は前年比6.7%(10月:同7.6%)となり、上昇率は前月から0.9ポイント縮小した。前月比では0.3%の上昇と価格転嫁の動きは続いているが、前年の上昇ペースが速かったため、前年比では8月の9.2%をピークに鈍化している。乳卵類(同14.2%)は引き続き前年比で二桁の高い伸びとなっているが、前年の上昇ペースが速かったことの裏が出ることで、伸び率が鈍化する品目が増え始めている。外食は23年3月の前年比6.9%をピークに10月には同3.8%まで伸びが鈍化したが、11月には同4.0%と若干伸びが高まった。

サービスは前年比2.3%(10月:同2.1%)となり、上昇率は前月から0.2ポイント拡大した。宿泊料が旅行需要の拡大に伴う価格上昇に加え、22年10月に開始された全国旅行支援による押し下げの反動で、9月の前年比17.9%から10月が同42.6%、11月が同62.9%と上昇率が急拡大したことがサービス価格を押し上げた。それ以外の品目では、鉄道運賃(JR)(10月:前年比1.8%→11月:同2.5%)、タクシー代(10月:前年比8.4%→11月:同8.8%)、テーマパーク入場料(10月:前年比10.8%→11月:同12.0%)などが伸びを高めた。
 
コアCPI上昇率を寄与度分解すると、エネルギーが▲0.91%(10月:▲0.77%)、食料(除く生鮮食品・外食)が1.43%(10月:1.63%)、その他財が0.84%(10月:1.00%)、サービスが0.87%(10月:0.88%)、全国旅行支援が0.27%(10月:0.17%)であった。

2.物価上昇品目数が減少

消費者物価(除く生鮮食品)の「上昇品目数(割合)-下落品目数(割合)」 消費者物価指数の調査対象522品目(生鮮食品を除く)を前年に比べて上昇している品目と下落している品目に分けてみると、11月の上昇品目数は429品目(10月は438品目)、下落品目数は59品目(10月は48品目)となり、上昇品目数が2ヵ月連続で前月から減少した。上昇品目数の割合は82.2%(10月は83.9%)、下落品目数の割合は11.3%(10月は9.2%)、「上昇品目割合」-「下落品目割合」は70.9%(10月は74.7%)であった。上昇品目数の割合は依然として高水準だが、前年の価格水準が高かったことが上昇品目数の減少につながった。

3.コアCPI上昇率は24年度入り後も2%台が続く見込み

政府の経済対策では、電気代、都市ガス代、ガソリン、灯油等に対する激変緩和措置が、24年4月まで延長されることとなった。23年2月から実施されている電気・都市ガス代の激変緩和措置は、10月に値引き額を半減した上で、24年4月末まで延長し、5月には激変緩和の幅を縮小するとこととなっている。また、足もとのガソリン店頭価格は、補助金がなければ1リットル当たり180円台後半となっており、円高、原油安が大きく進まない限り、24年春頃でも政府が目標としている175円を大きく上回る。ガソリン、灯油等に対する激変緩和措置は5月以降も継続される公算が大きい。

電気・都市ガス代は24年1月まで下落率が拡大するが、2月には前年同月に開始された激変緩和措置による押し下げが一巡することから、下落率が大きく縮小することが見込まれる。また、ガソリン、灯油価格は激変緩和措置によって横ばいで推移するが、前年の水準が押し下げられているため、前年比ではプラスの伸びが続くだろう。エネルギー価格の上昇率は24年度入り後にはプラスに転じる可能性が高い。

また、サービス価格は前年比2.3%と、23年のベースアップを若干上回る伸びとなったが、人件費の増加を価格転嫁する動きが広がっていることから、先行きも2%台の伸びが続く公算が大きい。コアCPIは24年1月には2%程度まで伸びが鈍化するが、2月には前年同月に導入された電気・都市ガス代の激変緩和措置で価格が大きく低下した反動が出ることから、伸び率が急速に高まるだろう。コアCPI上昇率は24年度入り後も2%台で推移することが予想される。

4.海外旅行再開後も外国パック旅行費の価格は反映されず

コロナ禍でほぼ消失した状態が続いていた海外旅行は、社会経済活動の正常化に伴い水準は低いものの徐々に回復している。日本政府観光局(JNTO)の訪日外客統計によれば、出国日本人数は23年夏場以降、19年比で6割程度の水準まで戻っている。また、総務省統計局の「家計調査」によれば、パック旅行費1は23年10月に19年同月比で8割程度の水準まで回復した。
海外旅行は持ち直し 一方、消費者物価指数の外国パック旅行費は、21年1月から23年11月まで2年11ヵ月にわたって前年同月比0.0%が続いている。これは、新型コロナウイルス感染症の影響で、外国パック旅行の催行中止、販売中止が相次ぎ、価格取集が困難となったことから、21年1月以降、総務省統計局が20年同月の「外国パック旅行費」指数を代入して補完することとしているためである2

しかし、出国者数が徐々に戻り始めていることを受けて、価格取集は23年3月以降可能となっている。筆者が出席した「第23回物価指数研究会」(23年11月6日開催)3では、23年3月以降の外国パック旅行費指数が試算値として示された上で、外国パック旅行費指数の取り扱いについて、議論が行われた。総務省統計局は、品質調整、内部ウェイト、公表方法について検討を進め、24年3月以降に取集再開後の価格を用いて作成した指数を公表する方針としている。

しかし、24年3月以降に新たな価格データを反映させるやり方は問題が多く、筆者は23年3月以降の外国パック旅行費の指数を速やかに遡及改定すべきと考えている。

消費者物価指数は、原則として遡及改定を行わない統計であり、公的年金の給付額などを改定するための算出基準となっていることもあり、年間の指数や上昇率を遡及改定することは事実上不可能だ。しかし、月次のデータについては、5年に一度の基準改定の際に当年1~6月のデータが遡及改定される。23年の実績値が公表された後の遡及改定は不可能としても、それ以前であれば遡及改定が可能なはずである。
外国パック旅行費の推移 第23回物価指数研究会の資料によれば、外国パック旅行費(試算値)の前年同月比は23年3~10月の平均で64.0%と非常に高いものとなっている。外国パック旅行費のウェイトは25(1万分比)と小さいが、上昇率が非常に高いため、消費者物価全体への影響は無視できないものとなる。仮にこの価格が外国パック旅行費指数に反映されれば、23年3月以降のコアCPI上昇率は公表値よりも0.1~0.2%程度高くなる。
総務省統計局の方針どおり、23年中の遡及改定を行わずに24年3月以降に取集再開後の価格を反映させた場合、これまでの補完値との接続方法は2通り考えられる。

ひとつめは、取集再開後の価格を補完値と直接接続する方法である。この場合、外国パック旅行費および総合指数等の指数水準は実態を反映したものとなるが、24年3月以降の前年同月比は21~23年の上昇分が含まれるため、過大となってしまう。
接続方法で異なる外国パック旅行費指数、上昇率 もうひとつは、23年3月以降の試算値(取集再開後の価格)を用いて、24年3月以降の前年同月比を計算し、補完値と接続する方法である。この場合、24年3月以降の外国パック旅行費および総合指数等の前年同月比は実態を反映したものとなるが、21~23年の上昇分が反映されないため、24年3月以降の指数水準が過小となってしまう。消費者物価指数で利用されるのは前年同月比に限らない。たとえば、10年前の物価水準との比較を行うために、10年前の指数から直近の指数までの上昇率を計算すると、10年間の上昇率が実態よりも低くなる。

また、この接続方法では、24年3月以降の前年度月比を計算する際に23年3月以降の取集価格を用いているにもかかわらず、それが23年3月以降の指数に反映されないという矛盾が生じる。
 
消費者物価指数は、24年1月19日に23年12月分と同時に23年分の実績値が公表される予定である。年間のデータは遡及改定できないことを前提とすれば、それ以降に外国パック旅行費および総合指数を遡及改定することは不可能となる。

23年3月以降のデータを遡及改定することなく、再開後の取集価格を24年3月以降に反映させた場合、どのような方法を選択しても消費者物価指数に歪みが生じることは避けられないだろう。
 
1 国内パック旅行を含む
2 総務省統計局「消費者物価指数に関するQ&A(回答)【その他】2 新型コロナウイルス感染症の影響により、外国パック旅行は順次中止となっていますが、消費者物価指数はどのように計算されていますか。」(https://www.stat.go.jp/data/cpi/4-1.html
3 総務省統計局「物価指数研究会 第23回(令和5年11月6日)」(https://www.stat.go.jp/info/kenkyu/cpi/index.html
 
 

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2023年12月22日「経済・金融フラッシュ」)

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