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2023年12月22日
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1.コアCPI上昇率は前月から0.4ポイント縮小

生鮮食品及びエネルギーを除く総合(コアコアCPI)は前年比3.8%(10月:同4.0%)、総合は前年比2.8%(10月:同3.3%)であった。
コアCPIの内訳をみると、ガソリン(10月:前年比5.0%→11月:同3.9%)、灯油(10月:前年比4.8%→11月:同1.9%)の上昇率が鈍化し、電気代(10月:前年比▲16.8%→11月:同▲18.1%)、ガス代(10月:前年比▲10.2%→11月:同▲11.6%)の下落率が拡大したことから、エネルギー価格の下落率は10月の前年比▲8.7%から同▲10.1%へと拡大した。ガソリン、灯油は激変緩和措置の補助率拡大によって上昇率が鈍化した。

サービスは前年比2.3%(10月:同2.1%)となり、上昇率は前月から0.2ポイント拡大した。宿泊料が旅行需要の拡大に伴う価格上昇に加え、22年10月に開始された全国旅行支援による押し下げの反動で、9月の前年比17.9%から10月が同42.6%、11月が同62.9%と上昇率が急拡大したことがサービス価格を押し上げた。それ以外の品目では、鉄道運賃(JR)(10月:前年比1.8%→11月:同2.5%)、タクシー代(10月:前年比8.4%→11月:同8.8%)、テーマパーク入場料(10月:前年比10.8%→11月:同12.0%)などが伸びを高めた。
コアCPI上昇率を寄与度分解すると、エネルギーが▲0.91%(10月:▲0.77%)、食料(除く生鮮食品・外食)が1.43%(10月:1.63%)、その他財が0.84%(10月:1.00%)、サービスが0.87%(10月:0.88%)、全国旅行支援が0.27%(10月:0.17%)であった。
2.物価上昇品目数が減少
3.コアCPI上昇率は24年度入り後も2%台が続く見込み
政府の経済対策では、電気代、都市ガス代、ガソリン、灯油等に対する激変緩和措置が、24年4月まで延長されることとなった。23年2月から実施されている電気・都市ガス代の激変緩和措置は、10月に値引き額を半減した上で、24年4月末まで延長し、5月には激変緩和の幅を縮小するとこととなっている。また、足もとのガソリン店頭価格は、補助金がなければ1リットル当たり180円台後半となっており、円高、原油安が大きく進まない限り、24年春頃でも政府が目標としている175円を大きく上回る。ガソリン、灯油等に対する激変緩和措置は5月以降も継続される公算が大きい。
電気・都市ガス代は24年1月まで下落率が拡大するが、2月には前年同月に開始された激変緩和措置による押し下げが一巡することから、下落率が大きく縮小することが見込まれる。また、ガソリン、灯油価格は激変緩和措置によって横ばいで推移するが、前年の水準が押し下げられているため、前年比ではプラスの伸びが続くだろう。エネルギー価格の上昇率は24年度入り後にはプラスに転じる可能性が高い。
また、サービス価格は前年比2.3%と、23年のベースアップを若干上回る伸びとなったが、人件費の増加を価格転嫁する動きが広がっていることから、先行きも2%台の伸びが続く公算が大きい。コアCPIは24年1月には2%程度まで伸びが鈍化するが、2月には前年同月に導入された電気・都市ガス代の激変緩和措置で価格が大きく低下した反動が出ることから、伸び率が急速に高まるだろう。コアCPI上昇率は24年度入り後も2%台で推移することが予想される。
電気・都市ガス代は24年1月まで下落率が拡大するが、2月には前年同月に開始された激変緩和措置による押し下げが一巡することから、下落率が大きく縮小することが見込まれる。また、ガソリン、灯油価格は激変緩和措置によって横ばいで推移するが、前年の水準が押し下げられているため、前年比ではプラスの伸びが続くだろう。エネルギー価格の上昇率は24年度入り後にはプラスに転じる可能性が高い。
また、サービス価格は前年比2.3%と、23年のベースアップを若干上回る伸びとなったが、人件費の増加を価格転嫁する動きが広がっていることから、先行きも2%台の伸びが続く公算が大きい。コアCPIは24年1月には2%程度まで伸びが鈍化するが、2月には前年同月に導入された電気・都市ガス代の激変緩和措置で価格が大きく低下した反動が出ることから、伸び率が急速に高まるだろう。コアCPI上昇率は24年度入り後も2%台で推移することが予想される。
4.海外旅行再開後も外国パック旅行費の価格は反映されず
コロナ禍でほぼ消失した状態が続いていた海外旅行は、社会経済活動の正常化に伴い水準は低いものの徐々に回復している。日本政府観光局(JNTO)の訪日外客統計によれば、出国日本人数は23年夏場以降、19年比で6割程度の水準まで戻っている。また、総務省統計局の「家計調査」によれば、パック旅行費1は23年10月に19年同月比で8割程度の水準まで回復した。

しかし、出国者数が徐々に戻り始めていることを受けて、価格取集は23年3月以降可能となっている。筆者が出席した「第23回物価指数研究会」(23年11月6日開催)3では、23年3月以降の外国パック旅行費指数が試算値として示された上で、外国パック旅行費指数の取り扱いについて、議論が行われた。総務省統計局は、品質調整、内部ウェイト、公表方法について検討を進め、24年3月以降に取集再開後の価格を用いて作成した指数を公表する方針としている。
しかし、24年3月以降に新たな価格データを反映させるやり方は問題が多く、筆者は23年3月以降の外国パック旅行費の指数を速やかに遡及改定すべきと考えている。
消費者物価指数は、原則として遡及改定を行わない統計であり、公的年金の給付額などを改定するための算出基準となっていることもあり、年間の指数や上昇率を遡及改定することは事実上不可能だ。しかし、月次のデータについては、5年に一度の基準改定の際に当年1~6月のデータが遡及改定される。23年の実績値が公表された後の遡及改定は不可能としても、それ以前であれば遡及改定が可能なはずである。
総務省統計局の方針どおり、23年中の遡及改定を行わずに24年3月以降に取集再開後の価格を反映させた場合、これまでの補完値との接続方法は2通り考えられる。
ひとつめは、取集再開後の価格を補完値と直接接続する方法である。この場合、外国パック旅行費および総合指数等の指数水準は実態を反映したものとなるが、24年3月以降の前年同月比は21~23年の上昇分が含まれるため、過大となってしまう。
ひとつめは、取集再開後の価格を補完値と直接接続する方法である。この場合、外国パック旅行費および総合指数等の指数水準は実態を反映したものとなるが、24年3月以降の前年同月比は21~23年の上昇分が含まれるため、過大となってしまう。

また、この接続方法では、24年3月以降の前年度月比を計算する際に23年3月以降の取集価格を用いているにもかかわらず、それが23年3月以降の指数に反映されないという矛盾が生じる。
消費者物価指数は、24年1月19日に23年12月分と同時に23年分の実績値が公表される予定である。年間のデータは遡及改定できないことを前提とすれば、それ以降に外国パック旅行費および総合指数を遡及改定することは不可能となる。
23年3月以降のデータを遡及改定することなく、再開後の取集価格を24年3月以降に反映させた場合、どのような方法を選択しても消費者物価指数に歪みが生じることは避けられないだろう。
1 国内パック旅行を含む
2 総務省統計局「消費者物価指数に関するQ&A(回答)【その他】2 新型コロナウイルス感染症の影響により、外国パック旅行は順次中止となっていますが、消費者物価指数はどのように計算されていますか。」(https://www.stat.go.jp/data/cpi/4-1.html)
3 総務省統計局「物価指数研究会 第23回(令和5年11月6日)」(https://www.stat.go.jp/info/kenkyu/cpi/index.html)
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(2023年12月22日「経済・金融フラッシュ」)
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03-3512-1836
経歴
- ・ 1992年:日本生命保険相互会社
・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
・ 2019年8月より現職
・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2018年~ 統計委員会専門委員
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