2023年12月19日

文字サイズ

2-4.スタートアップ企業やフリーランスの拠点としての利用
サードプレイスオフィスは、テレワークやBCP対応等を目的とした大企業の利用のほか、スタートアップ企業やフリーランスの活動拠点としても利用されている6

国土交通省中部地方整備局「ベンチャー企業の立地環境等に関するアンケート調査」によれば、ベンチャー企業に対し「将来、オフィス移転する場合に重視すること」を質問したところ、「オフィス賃料が安い(スペースが確保できる)(50%)」との回答が最も多く、次いで「顧客・取引先に近い(41%)」、「立地のステータス性がある(29%)」、「住環境がよい(28%)」、「国内他地域へのアクセスが容易(27%)」の順に多かった(図表-10)。ベンチャー企業は、オフィスの選定において、不動産コストや取引先等へのアクセスとともに、人材確保や従業員満足度等の観点から「立地(ステータスや住環境等)」の良さを重視している模様だ。

また、内閣官房日本経済再生総合事務局「フリーランス実態調査(2020年5月)」によれば、「フリーランスという働き方を選択した理由」として、「自分の仕事のスタイルで働きたいため(58%)」との回答が最も多く、次いで、「働く時間や場所を自由にするため(40%)」との回答が多かった(図表-11)。フリーランスは働く場所の自由度を重視しているようだ。
図表-10 将来、オフィス移転する場合に重視すること/図表-11 フリーランスという働き方を選択した理由
以上を鑑みると、スタートアップ企業やフリーランスは、オフィスの選定に際して、不動産コストを抑えつつ、「移転自由度の確保」や「立地のステータス」などの条件を満たすべく、オフィスを賃貸(あるいは建設)するよりも、サードプレイスオフィスへの入居を選択する可能性がある。

一般財団法人ベンチャーエンタープライズセンターによれば、国内ベンチャーへの投資額はコロナ禍への影響を受けて、2019年から2020年にかけて大きく減少したが、その後は回復基調で推移しており、2023年上期は1097億円(前期比+5.2%)となった(図表-12)。

また、ランサーズ「フリーランス実態調査」によれば、日本のフリーランス人口は、2015 年の937 万人から2021年には1,577 万人に達するなど着実に増加している。一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会「フリーランス白書2023」によれば、フリーランスに「今の働き方に対する満足度」を質問したところ、「満足(73%)」との回答が「不満(10%)」を大幅に上回った。フリーランスと企業などの発注事業者の取引の適正化等を図ることを目的として、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス新法)が2023年5月に公布され、フリーランスの就業環境についても一定の整備が進んでいる。

今後、スタートアップ企業への投資やフリーランス人口が拡大することで、サードプレイスオフィス利用が一層進むことが想定される。
図表-12 国内ベンチャーへの投資額
 
6 ビジネスメディアUtilly 「コワーキングスペースおよびワ―ケーション利用に関する調査」(2023年9月)によれば、フリーランス・自営業の22%がコワーキングスペースを利用と回答。

3.サードプレイスオフィスの拠点分布とテレワーク人口

3.サードプレイスオフィスの拠点分布とテレワーク人口

前述の通り、サードプレイスオフィスの利用拡大は、テレワークの普及に下支えされている部分が大きい。以下では、潜在的な顧客数を示す「テレワーク人口」の分布とサードプレイスオフィスの拠点展開を比較・分析した上で、今後、拠点開設の可能性が高いエリア等について考えたい。

図表-13は、横軸に都道府県別の「テレワーク人口(居住地基準)7」、縦軸に「サードプレイスオフィスの拠点数」を示している。テレワーク人口とサードプレイスオフィスの拠点数は相関が強く、指数近似曲線に従うことがわかる。具体的には、「テレワーク人口」が1%増加すると「サードプレイスオフィスの拠点数」は約0.9%増加する関係がみてとれる。
図表-13 サードプレイスオフィスの拠点数とテレワーク人口
図表-14 は、都道府県別の「サードプレイスオフィス拠点数」を「テレワーク人口(居住地基準・万人)」を除した値(以下、「人口当たりサードプレイス拠点数」)を示したものである。

「人口当たりサードプレイス拠点数」は「沖縄県(7.7拠点/万人)」が最も多く、次いで「東京都(6.9拠点/万人)」、「徳島県(5.0拠点/万人)」の順に多い。一方、全国平均(3.0拠点/万人)を大きく下回る2.0(拠点/万人)未満の都道府県は「17(占率36%)」となり、このうち「埼玉県(0.9拠点/万人)」が最も少なかった。これらの都道府県は、テレワーク人口を勘案した場合、サードプレイスオフィスの開設余地が残されていると言えよう。
図表-14 人口当たりサードプレイス拠点数(都道府県別) [単位:拠点/万人]
首都圏における「人口当たりサードプレイス拠点数」(市区町村別)をみると、「4.0以上」が「30(占率12%)」、「3.0以上4.0未満」が「8(同3%)」、「2.0以上3.0未満」が「22(同9%)」、「1.0以上2.0未満」が「39(同16%)」、「1.0未満」が「152(同61%)」であった(図表-15)。サードプレイスオフィスが最も多い東京23区(1,428 拠点)では、「4.0以上」が「10」(千代田区・中央区・港区・新宿区・台東区・墨田区・品川区・目黒区・渋谷区・豊島区)、「3.0以上4.0未満」が「3」(江東区・世田谷区・中野区)、「2.0以上3.0未満」が「5」(文京区・杉並区・北区・荒川区・足立区)、「1.0以上2.0未満」が「5」(太田区・板橋区・練馬区・葛飾区・江戸川区)となった。東京23区内において、サードプレイスオフィスの需給環境に地域差を確認することができる。
図表-15 人口当たりサードプレイス拠点数(首都圏) [単位:拠点/万人]
また、京阪神における「人口当たりサードプレイス拠点数」(市区町村別)をみると、「4.0以上」が「21(占率13%)」、「3.0以上4.0未満」が「8(同5%)」、「2.0以上3.0未満」が「9(同6%)」、「1.0以上2.0未満」が「17(同11%)」、「1.0未満」が「102(同65%)」であった(図表-16)。

首都圏や京阪神において、1.0(拠点/万人)未満の市区町村が約6割を占めており、大都市圏でもサードプレイスオフィスの開設余地は残されているといえる。
図表-16 人口当たりサードプレイス拠点数(京阪神) [単位:拠点/万人]
 
7 「テレワーカー人口(居住地基準)」の推計方法は、以下のレポートを参照にされたい。
吉田資『市区町村別「テレワーカー率」の推計(2023 年)』ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2023 年6月12日

4.おわりに

4.おわりに

コロナ禍を経て、テレワークを取り入れたハイブリットな働き方が定着するなか、自宅での執務環境に悩む就業者は多い。また、自然災害等に加えて感染症リスクも強く認識されて、大企業を中心に事業拠点の分散等のBCP策定が進んでいる。一方で、政府は、都市部に立地する企業などに勤務したまま地方に移住して地方で仕事をする「転職なき移住」を推進している。

また、コロナ禍の落ち込みから回復傾向にあるスタートアップ企業やフリーランスは、オフィスの選定に際して、移転自由度の確保や立地のステータスを求めている。

以上の状況を鑑みると、今後、サードプレイスオフィスの利用ニーズは更に高まることが予想される。

潜在的な顧客数を示す「テレワーク人口」の分布とサードプレイスオフィスの拠点展開を比較分析したところ、全都道府県の約3分の1、首都圏および京阪神の約6割の市区町村で、サードプレイスオフィスの開設余地は残されている。今後、サードプレイスオフィスは、都市部、地方を問わず、オフィス市場に及ぼす影響が高まる可能性があり、その動向を注視していきたい。
 
 

(ご注意)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
Xでシェアする Facebookでシェアする

金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

(2023年12月19日「不動産投資レポート」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【わが国のサードプレイスオフィス市場の現況 -2023年-(2)~全都道府県の約3分の1、首都圏および京阪神の約6割の市区町村で、拠点開設の余地あり~】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

わが国のサードプレイスオフィス市場の現況 -2023年-(2)~全都道府県の約3分の1、首都圏および京阪神の約6割の市区町村で、拠点開設の余地あり~のレポート Topへ