2023年12月15日

2024年の中国の経済政策方針~「安定重視」のスタンスで経済の好転を目指す

経済研究部 主任研究員 三浦 祐介

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長引く不動産不況を中心に経済がふるわない状況が続くなか、2023年12月8日に中央政治局会議、12月11日~12日にかけて中央経済工作会議がそれぞれ開催され、2024年の経済政策の大綱が決まった(図表1)。本稿では、中央経済工作会議に関するステートメントをもとに、当面の経済運営に関するポイントを中心に、政策の方向性を考察する。
(図表1)経済工作会議で示された2024年の経済政策の概要

1.情勢認識と基本方針

(1)「安定」の最優先を強調
足元の経済を巡る情勢については、ゼロコロナ政策終了後、長引く不動産不況などを背景に力強さを欠く景気動向のほか、不動産や地方政府債務といった金融リスクに対する懸念、先進国のデリスキングの動きなど、現在の中国を取り巻く不安要素を如実に反映したキーワードが列挙された。

そのうえで、2024年の経済政策運営の基本方針として、「穏中求進」、「以進促穏」、「先立後破」という3つのスローガンのもと、「先行きマインド、成長、雇用の安定化に資する政策を多数打ち出し」、「マクロ政策のカウンターシクリカル、クロスシクリカルな調節を強化」していくとの考えが示された。3つのスローガンのうち、「穏中求進」(安定の中で進展を求める)は、景気の安定を図りながら改革を進めるとの趣旨で、ここ10年以上、経済政策運営の方針とされてきたものが今回も踏襲された形だ。他方、「以進促穏」(進めることで安定を促す)、「先立後破」(先に育成・構築し、後に壊す)は、今回の会議で新たに言及されたスローガンであるが、これらも「安定」を念頭においたものと考えられる。

すなわち、経済活動を前進させることで安定感を高める(「以進促穏」)とともに、経済構造が転換期にあるなか、今後の成長に資する新産業の確立等を進めたうえで、古いものを淘汰する(「先立後破」)ことで構造転換に伴う経済へのダメージを軽減する、という趣旨であると推察される。最近の中国経済を巡っては、不動産業のデレバレッジや大量の公共事業に伴い拡大してきた地方政府債務の健全化など、過去の景気刺激策の副作用として生じたリスクが経済の不安要素となっている。一方、今後の経済成長を支える存在として、近年急成長を遂げている電気自動車(EV)関連産業に代表されるように、成長が期待される領域も少なからず存在する。

このため、まずは、新たな成長の芽を増やし、育成していくことで、経済の活性化やデリスキング対応としての科学技術イノベーション(「自立自強」)を進め、国内にポジティブな要素を増やしていくことを想定しているのだろう。そして、経済やマインドの安定化がある程度みえてきた後に、デレバレッジなど痛みを伴う改革に再び軸足を移していくものと予想される。もっとも、新たな産業や消費の振興は一朝一夕に成果があがるものではないため、目先はインフラ投資によって景気の下支えを強化することになるとみられる。

具体的な成長率目標については、24年3月に開催予定の全国人民代表大会(全人代)で明らかになる。上述の通り、経済が回復のけん引役を欠きマインドが弱含むなか、前向きなメッセージを発するという観点で、最低でも「+4.5%~5%程度」など小幅な引き下げにとどまると思われる。現地では、23年と同じ「+5%前後」に据え置くとの見方、提言もみられる。
(2)背景には政治運営上の危機感
経済の安定重視を強く強調する背景には、経済の停滞長期化が今後の政治運営にも大きな障害になり得るとの危機感があると思われる。今回の会議では「中国式現代化の推進を最重要政治課題とする」として、「中国式現代化」の政治的な重要性が改めて強調された。そのうえで「経済建設という中心的な取り組みと質の高い発展という最も重要な任務にフォーカスを当て、中国式現代化の壮大な青写真を一歩一歩美しい現実へと変えていく」としており、「中国式現代化」を進めるうえで経済の発展を必要条件として位置付けていることがうかがえる。

「中国式現代化」は、2022年に開催された中国共産党第20回党大会において、西側諸国とは異なる発展モデルとして提起されたもので、その一里塚として「2035年までに1人当たりGDPを中等先進国の水準に到達させる」との目標も設けられている1。壮大な目標を掲げて早々に困難に直面している状況下、このまま経済が停滞、あるいは悪化してしまえば、2035年の目標の達成、ひいては「中国式現代化」の達成も危うくなる恐れがある。また、これに付随する対外的な影響力拡大の面でも、対米外交などの場で自国の優位を示すうえで経済の安定と着実な発展は必要不可欠な要素となるだろう。
 
1 詳細は、月岡直樹(2022)「『強国』路線を継続する中国」(みずほリサーチ&テクノロジーズ『みずほインサイト』2022年11月2日)参照。

2.財政・金融政策のスタンス

(1)財政政策は23年に続き強化
財政政策については、「積極的な財政政策を適度に強化し、質の向上と効果の増大をはかる」とされ、昨年の「積極的な財政政策を強化し、効率を高める」に続き、再び「強化」する考えが示された。中国は、10月に1兆元規模の特別国債の増発(23年と24年にそれぞれ5,000億元ずつ発行)を決定しているが(図表2)、24年は、それに加えて通常の国債発行も拡大させる可能性がある。財政赤字の具体的な規模は、成長率目標と同様、24年3月の全人代で明らかになるが、これまで運用上の上限とされてきたGDP比3%を超えるかがポイントとなるだろう。3%を超えた(超える)のは、コロナショックの影響が深刻化した2020年および21年と、特別国債が増発される今年23年のみである。マインドの好転を図る観点で、24年も、従来の制約にとらわれずある程度大胆な財政出動がなされるのかが注目される。

もうひとつの外部財源である地方債については、地方債務リスクの抑制・防止が重視されていることから、発行規模の大幅な拡大は見込みづらい。今回の会議では、「地方政府専項債を資本金として用いる対象を合理的な範囲で拡大する」とされた。これは、専項債を呼び水にして外部資金を活用することでレバレッジをかけて事業規模を拡大する手法を指しており、その対象分野を広げることで、効果の増大を図る目的があると考えられる。専項債を巡っては、プロジェクトのフィージビリティスタディや準備が不十分で、調達した資金がフル活用されていないとの問題も指摘されており、より実効性を高めていくことが求められている。

このほか、2019年ころから問題となっている基層(政府)の「三保」(基本民生、給与、行政運営経費の維持)についても、土地使用権売却収入の減少等による財政悪化によって、公務員の賃金支払い遅延などがいまだに発生していることから、引き続き対応していくようだ。
(図表2)財政赤字の対GDP比/(図表3)政策金利と実勢貸出金利
(2)金融政策は柔軟性を高め、緩和を継続
金融政策については、「穏健な金融政策を柔軟かつ適度に、的確かつ有効に実施する」とされた。昨年の方針である「穏健な金融政策を的確かつ有効に実施する」に対して、柔軟性をもたせた運営となる見込みだ。実際は、中国人民銀行が23年中も数度の金融緩和を行っているため、そのスタンスが継続されることになるだろう。

24年は、上述の特別国債のほか、地方政府が融資平台の債務を付替えるための借り換え債などの発行が続くことが予想されることから、預金準備率の引き下げによる流動性の供給拡大が見込まれる。また、利下げが続けられる一方、貸出金利は足元で下げ止まっているうえ(図表3)、物価水準の低下により実質金利は高止まりした状態となっている。今回、「社会の総合的な融資コストが安定的な低下を促す」と言及されたことから、追加利下げや銀行への監督・指導を通じて貸出・預金金利の低下を図る可能性も高い。

このほか、「社会融資規模、マネーサプライは、経済成長と物価水準の期待目標に合わせる」とされた。これらの目標水準は、従来全人代における政府活動報告で「名目GDPの伸びに合わせる」とされることが多かったが、今回はその表現が変わった。足元では物価の低迷が続いていることから、具体的に目標値が示される経済成長率と物価と紐づけることで、物価目標を意識した金融政策を行う姿勢を強調し、マインドの改善につなげたいとの思惑があるとみられる。なお、これらの指標は、足元では前年同期比+10%前後で推移をしており、実際の運営においても、少なくとも同程度の資金供給を目指した政策運営となるだろう。

(2023年12月15日「経済・金融フラッシュ」)

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経済研究部   主任研究員

三浦 祐介 (みうら ゆうすけ)

研究・専門分野
中国経済

経歴
  • 【職歴】
     ・2006年:みずほ総合研究所(現みずほリサーチ&テクノロジーズ)入社
     ・2009年:同 アジア調査部中国室
     (2010~2011年:北京語言大学留学、2016~2018年:みずほ銀行(中国)有限公司出向)
     ・2020年:同 人事部
     ・2023年:ニッセイ基礎研究所入社
    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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