2023年12月11日

米雇用統計(23年11月)-雇用者数が市場予想を上回ったほか、時間当たり賃金(前月比)が加速

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:雇用者数が市場予想を上回ったほか、失業率は市場予想を下回る

12月8日、米国労働統計局(BLS)は11月の雇用統計を発表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+19.9万人の増加1(前月:+15.0万人)と前月、市場予想の+18.5万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)を上回った(後掲図表2参照)。

失業率は3.7%(前月:3.9%、市場予想:3.9%)と前月から▲0.2%ポイント低下、横這いを見込んだ市場予想を下回った(後掲図表6参照)。労働参加率2は62.8%(前月:62.7%、市場予想:62.7%)と前月から+0.1%ポイント上昇、横這いを見込んだ市場予想を上回った(後掲図表5参照)。
 
1 季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
2 労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。

2.結果の評価:11月の結果は概ね堅調も労働市場の減速傾向は継続

非農業部門雇用者数は10月が市場予想を下回った一方、11月は市場予想を上回った。ただし、11月の雇用者数には全米自動車労組(UAWの)ストライキ終結の影響で自動車・自動車部品で+3万人程度、俳優労組のストライキ終結により映画関連が+1.7万人程度押し上げられたほか、10月は逆にこれらの影響から雇用者数が押し下げられており、この2ヵ月の雇用者数はこれらの特殊要因が含まれていることを考慮する必要がある。一方、この2ヵ月間を含む23年9-11月期の月間平均増加ペースは+20.4万人増と23年初からの同+23.2万人増を明確に下回っており、足元で雇用増加ペースが緩やかながら鈍化する動きは続いている。

失業率は就業者数の大幅な増加を背景に労働参加率の上昇を伴って低下しており、11月は労働需給が逼迫したことを示した。

時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比+0.4%(前月:+0.2%、市場予想:+0.3%)と前月、市場予想を上回り、23年7月以来、今年最大の伸びに加速した。
(図表1)時間当たり賃金の伸び率 もっとも、前年同月比は+4.0%(前月改定値:+4.0%、市場予想:+4.0%)とこちらは+4.1%から下方修正された前月、市場予想に一致した(図表1)。この結果、前年同月比は低下基調が持続し2ヵ月連続で21年6月以来の水準となった。

このようにみると、11月の雇用統計は非農業部門雇用者数や失業率、時間当たり賃金が市場予想を上回る堅調さを示したものの、雇用増加ペースや前年同月比でみた時間当たり賃金は低下基調が持続しており、大きな流れとしては労働市場が緩やかながら減速していることを確認する結果と言えよう。

3.事業所調査の詳細:UAWスト終結の影響で製造業雇用が増加

事業所調査のうち、民間サービス部門は前月比+12.1万人(前月:+9.5万人)と前月から雇用の伸びが加速した(図表2)。
(図表2)非農業部門雇用者数の増減(業種別) 民間サービス部門の中では、小売業が前月比▲3.8万人(前月:▲0.5万人)と2ヵ月連続でマイナスとなったほか、人材派遣業が▲1.4万人(前月:0.0万人)と前月からマイナスに転じたこともあって、専門・ビジネスサービスが▲0.9万人(前月:+0.2万人)とマイナスに転じた。一方、娯楽・宿泊が+4.0万人(前月:+4.2万人)と概ね前月並みの伸びを維持したほか、医療・社会扶助サービスが前月比+9.3万人(前月:+7.5万人)と前月から伸びが加速した。

財生産部門は前月比+2.9万人(前月:▲1.0万人)とこちらは前月からプラスに転じた。建設業が+0.2万人(前月:+2.5万人)と前月から雇用の伸びが鈍化した一方、製造業が+2.8万人(前月:▲3.5万人)とプラスに転じたことが大きい。製造業の増加はUAWスト終結の影響で自動車・自動車部品が+3.0万人(前月:▲3.2万人)と増加に転じたことが大きい。

政府部門は前月比+4.9万人(前月:+6.5万人)と前月から伸びが鈍化した。内訳をみると、連邦政府が前月から横這い(前月:+0.4万人)、州・地方政府が+4.9万人(前月:+6.1万人)とそれぞれ前月から伸びが鈍化した。
前月(10月)と前々月(9月)の雇用増加数(改定値)は前月が+15.0万人(改定前:+15.0万人)と修正がなかった一方、前々月が+26.2万人(改定前:+29.7万人)と▲3.5万人下方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は▲3.5万人の下方修正となった(図表3)。
 
BLSの公表に先立って12月6日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増加数が前月比+10.3万人(前月改定値:+10.6万人、市場予想:+13.0万人)と+11.3万人から下方修正された前月を小幅に下回ったほか、市場予想も下回った。この結果、ADP社の統計は前月から雇用者数の伸びが加速した雇用統計とは不整合な動きとなった。もっとも、ADP社の統計も過去3ヵ月平均の月間雇用増加ペースが+9.9万人増と年初からの同+21.1万人増から大幅に伸びが鈍化しており、雇用統計と同様の傾向を示している。
 
11月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が34.10ドル(前月:33.98ドル)となり、前月から+12セント増加した。一方、週当たり労働時間は34.4時間(前月:34.3時間)とこちらは前月から+0.1時間増加した。この結果、週当たり賃金は1,173.04ドル(前月:1,165.51ドル)となり、前月から増加した(図表4)。
(図表3)前月分・前々月分の改定幅/(図表4)民間非農業部門の週当たり賃金伸び率(年率換算、寄与度)

4.家計調査の詳細:就業者数の大幅な増加を伴い労働参加率が上昇

家計調査のうち、11月の労働力人口は前月対比で+53.2万人(前月:▲20.1万人)と前月から大幅なプラスに転じた。内訳を見ると、失業者数が▲21.5万人(前月:+14.6万人)と前月からマイナスに転じたものの、就業者数が+74.7万人(前月:▲34.8万人)と失業者数の減少を上回る増加に転じて労働力人口全体を押し上げた。非労働力人口は▲35.2万人(前月:+41.6万人)と3ヵ月ぶりにマイナスに転じた。これらの結果、労働参加率は62.8%と前月から+0.1%ポイント上昇した(図表5)。

一方、プライムエイジと呼ばれる働き盛り(25~54歳)のみの労働参加率は11月が83.3%(前月:83.3%)と前月から横這いとなった。男女の内訳は、男性が89.3%(前月:89.0%)と前月から+0.3%上昇した一方、女性が77.4%(前月:77.6%)と前月から▲0.2%ポイント低下するなどまちまちの結果となった。

失業率は3.7%と前月からは▲0.2%ポイント低下したが、23年4月の3.4%からは明確に底打ちしており、大きな流れとして労働需給の緩和は続いているとみられる(図表6)。
(図表5)労働参加率の変化(要因分解)/(図表6)失業率の変化(要因分解)
11月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は115.0万人(前月:128.2万人)と前月から▲13.2万人の減少となった。一方、長期失業者の失業者全体に占めるシェアは18.3%(前月:19.8%)と前月から▲1.5%ポイント低下した(図表7)。平均失業期間は19.4週(前月:21.6週)と前月から▲2.2週短期化した。
 
最後に、周辺労働力人口(158.5万人)3や、経済的理由によるパートタイマー(398.8万人)も考慮した広義の失業率(U-6)4は、11月が7.0%(前月:7.2%)と前月から▲0.2%ポイント低下した(図表8)。この結果、通常の失業率(U-3)との乖離幅は+3.3%ポイント(前月:+3.3%ポイント)と前月から横這いとなった。
(図表7)失業期間の分布と平均失業期間/(図表8)広義失業率の推移
 
3 周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
4 U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2023年12月11日「経済・金融フラッシュ」)

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