2023年10月30日

米GDP(23年7-9月期)-前期比年率+4.9%と5期連続のプラス成長。前期から大幅に伸びが加速

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:成長率は5期連続のプラス成長。前期、市場予想を上回る

10月26日、米商務省の経済分析局(BEA)は23年7-9月期のGDP統計(1次速報値)を公表した。7-9月期の実質GDP成長率(以下、成長率)は、季節調整済の前期比年率1で+4.9%(前期:+2.1%)と5期連続のプラス成長となり、前期を大幅に上回ったほか、市場予想(Bloomberg集計の中央値、以下同様)の+4.5%も上回った(図表1・2)。成長率としては21年10-12月期(+7.0%)以来の水準となった。
(図表1)米国の実質GDP成長率(寄与度)/(図表2)米国のGDP(項目別)
7-9月期の成長率を需要項目別にみると、設備投資が前期比年率▲0.1%(前期:+7.4%)と僅かながら2年ぶりにマイナス成長に転じたほか、外需の成長率寄与度も▲0.08%ポイント(前期:+0.04%ポイント)と小幅ながら成長押し下げに転じた(図表2)。

一方、住宅投資が+3.9%(前期:▲2.2%)と10期ぶりにプラス成長に転じたほか、、在庫投資の成長率寄与度が+1.32%ポイント(前期:横這い)と前期から大幅な成長押上げに転じた。さらに、政府支出が前期比年率+4.6%(前期:+3.3%)、個人消費が+4.0%(前期:+0.8%)と前期から伸びが加速した。とくに、当期の成長率が大幅に上昇した要因は個人消費の増加によるところが大きい。

これらの結果、GDPから在庫投資と外需を除いた国内最終需要は前期比年率+3.5%(前期:+2.0%)となり、国内需要の伸びは前期から加速した。

このように、当期は成長率が前期から大幅に上昇し、2%弱程度とみられる潜在成長率の倍以上の高成長となった。在庫投資の成長押上げや政府支出の伸びが加速したのに加え、個人消費が大幅に加速したことが大きい。個人消費はFRBによる大幅な金融引締めにも関わらず、雇用者数の堅調な増加を背景に堅調となった。もっとも、個人消費の4%の伸びは持続困難とみられ、10-12月期には個人消費の大幅な伸び鈍化に伴う成長率の低下は不可避だろう。
 
1 以降、本稿では特に断りの無い限り季節調整済の実質値を指すこととする。

2.結果の詳細:

(個人消費・個人所得)財消費、サービス消費ともに増加
7-9月期の個人消費は、財消費が前期比年率+4.8%(前期:+0.5%)、サービス消費が+3.6%(前期:+1.0%)と財、サービスともに前期から伸びが加速した(図表3)。

財消費では、耐久財が+7.6%(前期:▲0.3%)と前期からプラスに転じたほか、非耐久財が+3.3%(前期:+0.9%)と前期から伸びが加速した。

耐久財では、自動車・自動車部品が+1.3%(前期:▲9.1%)と前期からプラスに転じたほか、家具・家電が+7.2%(前期:横這い)、娯楽・スポーツカーが+15.8%(前期:+11.2%)と前期から伸びが加速した。

非耐久財は、ガソリン・エネルギーが▲7.6%(前期:+8.9%)と前期からマイナスに転じた一方、衣料・靴が+6.7%(前期:▲7.1%)と前期からプラスに転じたほか、食料・飲料が+2.1%(前期:+1.0%)と前期から伸びが加速して非耐久財消費全体を押し上げた。

サービス消費は、娯楽サービスが+1.3%(前期:+1.5%)、輸送サービスが+2.9%(前期:+3.5%)と前期から伸びが鈍化した。一方、飲食・宿泊サービスが+5.6%(前期:▲0.9%)と前期からプラスに転じたほか、住宅・公共料金が+3.6%(前期:+0.7%)、医療サービスが+3.0%(前期:+2.5%)、金融サービスが+6.1%(前期:+4.5%)と前期から伸びが加速してサービス消費全体を押し上げた。

一方、実質可処分所得は前期比年率▲1.0%(前期:+3.5%)と5期ぶりにマイナスに転じた(図表4)。貯蓄率は3.8%(前期:5.2%)と5期ぶりに低下した。
(図表3)米国の実質個人消費支出(寄与度)/(図表4)米国の実質可処分所得伸び率と貯蓄率
(民間投資)設備機器投資が減少
7-9月期の民間設備投資は知的財産投資が前期比年率+2.6%(前期:+2.7%)とほぼ前期並みの伸びを維持した一方、建設投資が+1.6%(前期:+16.1%)と前期から伸びが大幅に鈍化したほか、設備機器投資が▲3.8%(前期:+7.7%)とマイナスに転じて設備投資全体を押し下げた(図表5)。
(図表5)米国の実質設備投資(寄与度)と実質住宅投資 建設投資では、商業・医療が前期比年率+3.1%(前期:+3.8%)と前期から小幅な鈍化に留まった一方、製造業が+18.8%(前期:+86.5%)と前期から大幅に伸びが鈍化した。さらに、資源関連が▲27.4%(前期:▲14.7%)、電力・通信も▲4.0%(前期:▲3.3%)と前期からマイナス幅が拡大して建設投資全体の足を引っ張った。

設備機器投資は、情報処理関連が▲5.4%(前期:▲6.1%)、産業機器が▲3.4%(前期:▲5.1%)と、マイナス成長となったものの、マイナス幅が前期から縮小した一方、輸送機器が▲1.4%(前期:+66.0%)と前期の大幅な伸びとなった反動もあって小幅ながらマイナスに転じた。

知的財産投資では、研究・開発が+0.8%(前期:+0.1%)と前期から小幅ながら伸びが加速した一方、娯楽・文学等が+0.8%(前期:+2.4%)、ソフトウエアが+5.0%(前期:+5.7%)と前期から伸びが鈍化するなど、マチマチとなった。

最後に住宅投資は、戸建てが前期比年率+21.6%(前期:+1.2%)と前期から伸びが大幅に加速した一方、集合住宅が+4.5%(前期:+11.4%)と前期から伸びが鈍化した。
(図表6)米国の実質政府支出(寄与度) (政府支出)国防関連支出が大幅に増加
7-9月期の政府支出は、州・地方政府が前期比年率+3.7%(前期:+4.7%)と前期から伸びが鈍化した一方、連邦政府が+6.2%(前期:+1.1%)と前期から伸びが加速して政府支出全体を押し上げた(図表6)。

連邦政府支出では、国防関連支出が+8.0%(前期:+2.3%)と前期から大幅に伸びが加速したほか、非国防支出も+3.9%(前期:▲0.4%)と前期からプラスに転じた。
(貿易)輸出入ともに前期からプラスに転じた
7-9月期の輸出入は輸出が前期比年率+6.2%(前期:▲9.3%)、輸入が+5.7%(前期:▲7.6%)といずれも前期からプラスに転じる中、輸入額の増加が輸出額の増加を上回って外需の成長率寄与度を押し下げた。

輸出を仔細にみると、サービス輸出が+3.7%(前期:+6.2%)と前期から伸びが鈍化したものの、財輸出が+7.5%(前期:▲16.0%)と前期の大幅なマイナスからプラスに転じて輸出全体を押し上げた(図表7)。

財輸出では、工業用原料が前期比年率▲0.7%(前期:▲19.6%)と前期に続きマイナスとなったものの、マイナス幅が大幅に縮小した。一方、食料・飲料が+3.3%(前期:▲31.2%)、資本財(自動車関連除く)が+9.1%(前期:▲4.8%)、消費財(食料、自動車関連除く)が+24.1%(前期:▲28.8%)と前期からプラスに転じたほか、自動車関連が+29.7%(前期:+11.3%)と前期から伸びが加速した。

サービス輸出では、旅行が+40.9%(前期:+30.3%)と前期から伸びが加速した一方、輸送が+6.5%(前期:+23.4%)と前期から伸びが鈍化した。

一方、輸入は財輸入が+5.9%(前期:▲6.5%)、サービス輸入が+4.8%(前期:▲12.2%)といずれも前期からプラスに転じた(図表8)。

財輸入では、工業用原料が▲7.4%(前期:▲7.0%)と前期から小幅ながらマイナス幅が拡大した一方、食料・飲料が+5.7%(前期:▲15.3%)、資本財(自動車関連除く)が+2.6%(前期:▲7.5%)、消費財(食料、自動車関連除く)が+8.5%(前期:▲12.3%)と前期からプラスに転じたほか、自動車関連が+17.2%(前期:+13.5%)と前期から伸びが加速して財輸入全体を押し上げた。

サービス輸入は、旅行が+11.1%(前期:▲8.3%)、輸送が+27.4%(前期:▲19.7%)といずれも前期からプラスに転じた。
(図表7)米国の実質輸出(寄与度)/(図表8)米国の実質輸入(寄与度)
(物価・名目値)PCE価格のコア指数は前期比、前年同期比ともに低下
7-9月期のGDP価格指数は前期比年率+3.5%(前期:+1.7%)と前期、市場予想(同+2.7%)を上回った。この結果、名目GDP成長率は前期比年率+8.5%(前期:+3.8%)と実質GDP成長率を上回り、前期から伸びが大幅に加速した(図表9)。

一方、FRBが物価の指標として注目するPCE価格指数2は、前期比年率+2.9%、前年同期比+3.4%(前期:+2.5%、+3.9%)と前期比は上昇したものの、前年同期比は低下した(図表10)。また、物価の基調を示す食料品とエネルギーを除いたコアPCE価格指数は、前期比年率+2.4%、前年同期比+3.9%(前期:+3.7%、+4.6%)となり、こちらは前期比、前年同期比ともに低下した。このため、物価の基調を示すコア指数の低下はインフレ圧力が緩和していることを示している。
(図表9)米国の名目と実質の成長率/(図表10)米国のPCE価格指数伸び率
 
2 現在、FOMCのメンバーは四半期に一度物価見通しを公表しており、そこで物価の指標として採用されている指数がPCE価格指数とコアPCE価格指数である。見通しは年単位で、各年の10-12月期における前年同期比が公表されている。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2023年10月30日「経済・金融フラッシュ」)

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