2023年10月10日

米雇用統計(23年9月)-非農業部門雇用者数は市場予想を大幅に上回る増加

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:雇用者数が市場予想を上回った一方、失業率は低下予想に反して横這い

10月6日、米国労働統計局(BLS)は9月の雇用統計を発表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+33.6万人の増加1 (前月改定値:+22.7万人)と+18.7万人から上方修正された前月、市場予想の+17.0万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)を大幅に上回った(後掲図表2参照)。

失業率は3.8%(前月:3.8%、市場予想:3.7%)と前月に一致、低下を見込んだ市場予想を上回った(後掲図表6参照)。労働参加率2 は62.8%(前月:62.8%、市場予想:62.8%)と前月、市場予想に一致した(後掲図表5参照)。
 
1 季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
2 労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。

2.結果の評価:雇用者数の伸びが大幅に加速も、賃金上昇率は低下

9月の非農業部門雇用者数は市場予想の倍の増加を示したほか、後述するように過去2ヵ月分が合計で+11.9万人の大幅な上方修正となった結果、23年7-9月期の月間平均増加ペースは+26.6万人増と23年4-6月期の同+20.1万人増、23年初からの同+26.0万人増を上回っており、足元で雇用増加ペースが再び加速していることを示した。

一方、労働参加率は20年2月以来となった8月の水準を維持しており、人口動態から構造的に低下基調となる傾向を考慮すれば、水準を維持しただけで労働供給の回復継続を確認したと言えよう。
(図表1)時間当たり賃金の伸び率 時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比+0.2%(前月:+0.2%、市場予想:+0.3%)と前月に一致、市場予想を下回った。これで前月比は22年2月以来の低水準が2ヵ月継続した。

前年同月比は+4.2%(前月:+4.3%、市場予想:+4.3%)とこちらは前月、市場予想を下回り、21年6月以来の水準に低下した(図表1)。

このようにみると、9月の雇用統計は非農業部門雇用者数の増加ペースが再加速するなど労働需要の高まりがみられるものの、労働供給の回復が継続しているほか、賃金上昇圧力は緩和しているため、労働需給の一段の逼迫を示すものではない。もっとも、賃金上昇率は依然として物価目標と整合的とみられる3%台半ばの水準を超えているほか、足元の雇用増加数が再加速しているため、今回の指標を受けてもFRBは年内の追加利上げスタンスを維持するだろう。

3.事業所調査の詳細:広範なサービス分野で雇用の伸びが加速

事業所調査のうち、民間サービス部門は前月比+23.4万人(前月:+13.0万人)と前月から雇用の伸びが大幅に加速した(図表2)。
(図表2)非農業部門雇用者数の増減(業種別) 民間サービス部門の中では、医療・社会扶助サービスが前月比+6.6万人(前月:+9.4万人)と前月から伸びが鈍化した一方、運輸・倉庫が+0.9万人(前月:▲1.9万人)と前月から増加に転じた。また、娯楽・宿泊業が+9.6万人(前月:+4.4万人)、専門・ビジネスサービスが+2.1万人(前月:+1.1万人)、小売業が+2.0万人(前月:+0.0万人)、卸売業が+1.2万人(前月:横這い)と前月から伸びが加速した。

財生産部門は前月比+2.9万人(前月:+4.7万人)とこちらは前月から伸びが鈍化した。製造業が+1.7万人(前月:+1.1万人)と前月から伸びが加速した一方、建設業が+1.1万人(前月:+3.6万人)と前月から伸びが鈍化した。

政府部門は前月比+7.3万人(前月:+5.0万人)と前月から伸びが加速した。内訳をみると、連邦政府が+0.6万人(前月:+1.1万人)と前月から伸びが鈍化した一方、州・地方政府が+6.7万人(前月:+3.9万人)と前月から大幅に伸びが加速して政府部門全体を押し上げた。
前月(8月)と前々月(7月)の雇用増加数(改定値)は前月が+22.7万人(改定前:+18.7万人)と+4.0万人上方修正されたほか、前々月が+23.6万人(改定前:+15.7万人)と+7.9万人上方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は+11.9万人の大幅な上方修正となった(図表3)。
 
BLSの公表に先立って10月4日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増加数が前月比+8.9万人(前月改定値:+18.0万人、市場予想:+15.0万人)と+17.7万人から小幅上方修正された前月、市場予想を大幅に下回った。この結果、ADP社の統計は前月から大幅に伸びが加速した雇用統計と不整合な動きとなった。
 
9月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が33.88ドル(前月:33.81ドル)となり、前月から+7セント増加した。一方、週当たり労働時間は34.4時間(前月:34.4時間)とこちらは前月から横這いとなった。この結果、週当たり賃金は1,165.47ドル(前月:1,163.06ドル)となり、前月から増加した(図表4)。
(図表3)前月分・前々月分の改定幅/(図表4)民間非農業部門の週当たり賃金伸び率(年率換算、寄与度)

4.家計調査の詳細:労働参加率は20年2月以来の水準を維持

家計調査のうち、9月の労働力人口は前月対比で+9.0万人(前月:+73.6万人)と増加したものの、前月からは大幅に伸びが鈍化した。内訳を見ると、就業者数が+8.6万人(前月:+22.2万人)、失業者数が+0.5万人(前月:+51.4万人)といずれも前月から大幅に伸びが鈍化した。非労働力人口は+12.4万人(前月:▲52.5万人)と前月から増加に転じた。これらの結果、労働参加率は62.8%と20年2月以来となった前月の水準を維持した(図表5)。

一方、プライムエイジと呼ばれる働き盛り(25~54歳)のみの労働参加率は9月が83.5%(前月:83.5%)と02年5月以来となった前月の水準を維持した。男女の内訳は、男性が89.6%(前月:89.3%)と前月から+0.3%ポイント上昇した一方、女性が77.4%(前月:77.6%)と▲0.2%ポイント低下するなどまちまちの結果となった。

失業率は9月が3.8%と前月に続き22年2月以来の水準となったものの、過去の水準と比較して依然として最低水準に近く、引き続き労働需給が逼迫していることを示している(図表6)。
(図表5)労働参加率の変化(要因分解)/(図表6)失業率の変化(要因分解)
9月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は121.6万人(前月:129.6万人)と前月から▲8.0万人の減少となった。一方、長期失業者の失業者全体に占めるシェアは19.1%(前月:20.3%)と前月から▲1.2%ポイント低下した(図表7)。平均失業期間は21.5週(前月:20.4週)と前月から+1.1週長期化した。
 
最後に、周辺労働力人口(145.7万人)3や、経済的理由によるパートタイマー(406.5万人)も考慮した広義の失業率(U-6)4は、9月が7.0%(前月:7.1%)と前月から▲0.1%ポイント低下した(図表8)。この結果、通常の失業率(U-3)との乖離幅は+3.2%ポイント(前月:+3.3%ポイント)と前月から▲0.1%ポイント縮小した。
(図表7)失業期間の分布と平均失業期間/(図表8)広義失業率の推移
 
3 周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
4 U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2023年10月10日「経済・金融フラッシュ」)

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