2023年10月02日

米個人所得・消費支出(23年8月)-実質個人消費(前月比)は+0.1%と市場予想(横這い)は上回ったものの、5ヵ月ぶりの低水準

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

文字サイズ

1.結果の概要:個人所得は市場予想に一致した一方、個人消費は市場予想を下回る

9月29日、米商務省の経済分析局(BEA)は8月の個人所得・消費支出統計を公表した。個人所得(名目値)は前月比+0.4%(前月:+0.2%)と前月を上回った一方、市場予想(Bloomberg集計の中央値、以下同様)の+0.4%に一致した(図表1)。個人消費支出は前月比+0.4%(前月改定値:+0.9%)と+0.8%から小幅上方修正された前月、市場予想の+0.5%を下回った。価格変動の影響を除いた実質個人消費支出(前月比)は+0.1%(前月:+0.6%)と前月を下回った一方、市場の横這い予想は上回った(図表5)。実質個人消費は5ヵ月ぶりの低水準。貯蓄率1は3.9%(前月:4.1%)と前月から▲0.2%ポイントの低下となった。

価格指数は、総合指数が前月比+0.4%(前月:+0.2%)と前月を上回った一方、市場予想(+0.5%)は下回った。変動の大きい食料品・エネルギーを除いたコア指数は前月比+0.1%(前月:+0.2%)と前月、市場予想(+0.2%)を下回った(図表6)。前年同月比は総合指数が+3.5%(前月改定値:+3.4%)と+3.3%から小幅上方修正された前月を上回った一方、市場予想(+3.5%)に一致した。コア指数は+3.9%(前月改定値:+4.3%)と+4.2%から小幅上方修正された前月を下回った一方、市場予想(+3.9%)に一致した(図表7)。
 
1 可処分所得に対する貯蓄(可処分所得-個人支出)の比率。

2.結果の評価:PCE価格のコア指数(前月比)は20年11月以来の水準に低下

個人消費(前月比)は名目ベースでは高い伸びとなった7月の+0.9%からは低下したものの、8月も+0.4%と堅調を維持した(図表1)。
(図表1)個人所得・消費支出、貯蓄率 個人所得(前月比)も8月が+0.4%と労働需給の逼迫を背景にした賃金・給与の堅調な伸びなどを背景に堅調を維持している。

もっとも、足元でエネルギー価格の上昇などを背景にインフレが加速した結果、後述するように実質ベースでは可処分所得が前月比で減少したほか、個人消費も僅か+0.1%と5ヵ月ぶりの低い伸びに留まるなど、実質ベースの個人消費には弱さがみられている。

一方、FRBが物価指標としているPCE価格指数の前月比は、総合指数ではエネルギー価格の上昇もあって前月から伸びが加速したものの、物価の基調を示すコア指数は+0.1%と20年11月以来の低い伸びに留まるなど、物価上昇圧力が緩和してきていることを確認した。もっとも、コア指数は前年同月比で+3.9%と依然としてFRBの物価目標(2%)を大幅に上回る状況が続いている。

3.所得動向:賃金・給与、利息配当収入が堅調

8月の個人所得(前月比)は労働需給の逼迫を背景に賃金・給与が+0.5%(前月:+0.4%)となったほか、利息配当収入が+0.5%(前月:+0.3%)と前月から伸びが加速するなど堅調を維持した(図表2)。また、自営業者所得が+0.4%(前月:+0.4%)と前月並みの堅調な伸びを維持した。一方、移転所得は▲0.2%(前月:▲0.5%)と3ヵ月連続でマイナスとなった。

個人所得から税負担などを除いた可処分所得(前月比)は、8月の名目が+0.2%(前月:横這い)と前月から伸びが加速した(図表3)。一方、価格変動の影響を除いた実質ベース(前月比)は▲0.2%(前月:▲0.2%)と2ヵ月連続でマイナスとなり、可処分所得の伸びがインフレに追いついていない状況を示した。
(図表2)名目個人所得(前月比寄与度)/(図表3)可処分所得(名目、実質)

4.消費動向:ガソリン・エネルギー消費が大幅に増加

8月の名目個人消費(前月比)は、財消費が+0.6%(前月:+0.5%)と前月から伸びが加速した一方、サービス消費が+0.4%(前月:+1.0%)と前月から伸びが鈍化した(図表4)。

財消費は、耐久財が▲0.6%(前月:+0.5%)と前月からマイナスに転じた一方、非耐久財が+1.3%(前月:+0.5%)と前月から大幅に伸びが加速して財消費全体を押し上げた。

耐久財では、自動車・自動車部品が▲1.1%(前月:+0.6%)、家具・家電が▲0.2%(前月:+0.1%)、娯楽財・スポーツカーが▲0.5%(前月:+0.8%)と前月からマイナスに転じた。

非耐久財では食料・飲料が+0.1%(前月:+0.6%)、衣料・靴が+0.3%(前月:+1.4%)と前月から伸びが鈍化した一方、ガソリン・エネルギーが+9.8%(前月:▲1.6%)と前月から大幅なプラスに転じて非耐久財消費全体を押し上げた。

サービス消費は、輸送サービスが+1.6%(前月:+1.5%)と概ね前月並みの伸びを維持した一方、住宅・公共料金が+0.3%(前月:+1.4%)、医療サービスが+0.3%(前月:+0.6%)、娯楽サービスが+0.7%(前月:+1.0%)、外食・宿泊が横這い(前月:+0.8%)、金融サービスが+0.6%(前月:+2.9%)といずれも前月から伸びが鈍化した。
(図表4)名目個人消費(前月比寄与度)/(図表5)

5.価格指数:エネルギー価格が前月比で大幅に伸びが加速

価格指数(前月比)の内訳をみると、エネルギー価格指数が+6.1%(前月:+0.1%)と3ヵ月連続でプラスとなったほか、前月からプラス幅が大幅に拡大した(図表6)。一方、食料品価格指数は+0.3%(前月:+0.2%)と前月から小幅に伸びが加速した。

前年同月比は、エネルギー価格指数が▲3.6%(前月:▲13.0%)と6ヵ月連続のマイナスとなったものの、前月からマイナス幅が大幅に縮小した(図表7)。食料品価格指数は+3.1%(前月:+3.7%)とこちらは74ヵ月連続のプラスとなったものの、前月から伸びは鈍化した。
(図表6)PCE価格指数(前月比)/(図表7)PCE価格指数(前年同月比)
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
Xでシェアする Facebookでシェアする

経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2023年10月02日「経済・金融フラッシュ」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【米個人所得・消費支出(23年8月)-実質個人消費(前月比)は+0.1%と市場予想(横這い)は上回ったものの、5ヵ月ぶりの低水準】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

米個人所得・消費支出(23年8月)-実質個人消費(前月比)は+0.1%と市場予想(横這い)は上回ったものの、5ヵ月ぶりの低水準のレポート Topへ