2023年12月01日

米個人所得・消費支出(23年10月)-PCE価格指数は総合指数、コア指数ともに前月比、前年同月比が低下し、インフレ鈍化を示唆

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:個人所得、個人消費(前月比)ともに前月から低下、市場予想に一致

11月30日、米商務省の経済分析局(BEA)は10月の個人所得・消費支出統計を公表した。個人所得(名目値)は前月比+0.2%(前月改定値:+0.4%)と+0.3%から小幅上方修正された前月を下回った一方、市場予想(Bloomberg集計の中央値、以下同様)の+0.2%に一致した(図表1)。個人消費支出は前月比+0.2%(前月:+0.7%)と前月を大幅に下回った一方、市場予想の+0.2%に一致した。価格変動の影響を除いた実質個人消費支出(前月比)は+0.2%(前月改定値:+0.3%)と+0.4%から小幅下方修正された前月を下回った一方、市場予想の+0.1%を上回った(図表5)。貯蓄率1は3.8%(前月:3.7%)と前月から+0.1%ポイント上昇した。

価格指数は、総合指数が前月比横這い(前月:+0.4%)と前月、市場予想(+0.1%)を下回った。変動の大きい食料品・エネルギーを除いたコア指数は前月比+0.2%(前月:+0.3%)とこちらは前月を下回った一方、市場予想(+0.2%)に一致した(図表6)。前年同月比は総合指数が+3.0%(前月:+3.4%)と前月、市場予想(+3.4%)を下回った。コア指数は+3.5%(前月:+3.7%)と前月を下回った一方、市場予想(+3.5%)に一致した(図表7)。
 
1 可処分所得に対する貯蓄(可処分所得-個人支出)の比率。

2.結果の評価:個人消費の伸びが鈍化する中、インフレ率の低下基調が持続

(図表1)個人所得・消費支出、貯蓄率 個人消費(前月比)の名目ベースは23年7月に次いで高い伸びとなった前月からは伸びが大幅に鈍化した(図表1)。後述するようにサービス消費が前月から伸びが鈍化したほか、財消費が高い伸びとなった前月の反動もあって23年3月以来の減少となったことが大きい。

また、所得対比では個人所得の賃金・給与の伸びが鈍化したものの、利息配当収入の増加などから可処分所得(前月比)が+0.3%と個人消費の伸びを上回ったことから、貯蓄率は小幅ながら5ヵ月ぶりに上昇に転じた。

一方、10月はFRBが物価指標としているPCE価格指数の総合指数、コア指数ともに前月比、前年同月比のいずれも前月から伸びが鈍化しており、個人消費の伸びが鈍化する中で物価上昇圧力が緩和していることを確認した。もっとも、前年同月比の水準はFRBが物価目標とする2%を依然大幅に上回っていることから、FRBはインフレ率が今後順調に低下していくか引き続き慎重に見極める姿勢を維持しよう。

3.所得動向:賃金・給与の伸びが鈍化

10月の個人所得(前月比)は賃金・給与が+0.1%(前月:+0.5%)と22年12月以来の水準に低下した(図表2)。10月の雇用統計は雇用の伸びの大幅な鈍化や失業率の上昇を示していたことから、労働需給の緩和が賃金上昇圧力を緩和させている状況を示す結果と言えよう。その他の所得項目では、利息配当収入が+0.8%(前月:+0.5%)と前月から伸びが加速した一方、移転所得が▲0.1%(前月:▲0.3%)と5ヵ月連続でマイナスとなるなど所得を押し下げた。

個人所得から税負担などを除いた可処分所得(前月比)は、10月の名目が+0.3%(前月:+0.4%)と前月から小幅ながら伸びが鈍化した(図表3)。一方、価格変動の影響を除いた実質ベース(前月比)は+0.3%(前月:横這い)と、こちらはインフレの落ちつきを背景に前月から伸びが加速した。
(図表2)名目個人所得(前月比寄与度)/(図表3)可処分所得(名目、実質)

4.消費動向:自動車関連、家具・家電が減少

10月の名目個人消費(前月比)は、財消費が▲0.2%(前月:+0.7%)と23年3月以来のマイナスに転じたほか、サービス消費が+0.4%(前月:+0.7%)と前月から伸びが鈍化した(図表4)。

財消費は、耐久財が▲0.5%(前月:+1.1%)と高い伸びとなった反動もあってマイナスに転じたほか、非耐久財が横這い(前月:+0.5%)と前月から伸びが鈍化した。

耐久財では、自動車・自動車部品が▲1.2%(前月:+1.2%)、家具・家電が▲0.8%(前月:+0.1%)と前月から大幅なマイナスに転じたほか、娯楽財・スポーツカーが+0.1%(前月:+1.8%)と伸びが大幅に鈍化した。。

非耐久財では食料・飲料が+0.3%(前月:+0.4%)と前月から小幅ながら伸びが鈍化したほか、衣料・靴が▲0.4%(前月:+0.2%)とマイナスに転じた。さらに、ガソリン・エネルギーが▲1.8%(前月:▲1.6%)と2ヵ月連続でマイナスとなり、非耐久財消費を押し下げた。

サービス消費は、医療サービスが+0.7%(前月:+0.6%)、住宅・公共料金が+0.5%(前月:+0.6%)と概ね前月並みの伸びを維持した一方、輸送サービスが+0.9%(前月:+2.8%)、外食・宿泊が+0.4%(前月:+1.9%)と前月から大幅に伸びが鈍化した。さらに、娯楽サービスが▲0.4%(前月:▲0.5%)、金融サービスが▲0.7%(前月:▲0.6%)と前月に続いてマイナスとなるなどマチマチの結果となった。
(図表4)名目個人消費(前月比寄与度)/(図表5)個人消費支出(名目、実質)

5.価格指数:エネルギーが前月比、前年同月比ともにマイナス

価格指数(前月比)の内訳をみると、エネルギー価格指数が▲2.6%(前月:+1.7%)と5ヵ月連続ぶりのマイナスとなった(図表6)。一方、食料品価格指数は+0.3%(前月:+0.3%)とほぼ前月並みの伸びとなった。これで食料品価格は4ヵ月連続のプラスとなった。

前年同月比は、エネルギー価格指数が▲4.8%(前月:横這い)と前月からマイナスに転じた(図表7)。食料品価格指数は+2.4%(前月:+2.7%)とこちらは76ヵ月連続のプラスとなったものの、前月から伸びは小幅に鈍化した。
(図表6)PCE価格指数(前月比)/(図表7)PCE価格指数(前年同月比)
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2023年12月01日「経済・金融フラッシュ」)

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