2023年11月06日

米雇用統計(23年10月)-非農業部門雇用者数、失業率、賃金上昇率ともに労働市場の減速を示す結果

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:雇用者数が市場予想を下回ったほか、失業率は市場予想を上回る

11月3日、米国労働統計局(BLS)は10月の雇用統計を発表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+15.0万人の増加1(前月改定値:+29.7万人)と+33.6万人から下方修正された前月、市場予想の+18.0万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)を下回った(後掲図表2参照)。

失業率は3.9%(前月:3.8%、市場予想:3.8%)と前月から+0.1%ポイント上昇、横這いを見込んだ市場予想を上回った(後掲図表6参照)。労働参加率2は62.7%(前月:62.8%、市場予想:62.8%)と前月から▲0.1%ポイント低下、横這いを見込んだ市場予想を下回った(後掲図表5参照)。
 
1 季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
2 労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。

2.結果の評価:雇用者数、失業率、賃金上昇率ともに労働市場の減速を示す結果

10月の非農業部門雇用者数はUAWのストライキの影響に伴い製造業で▲3万人程度雇用が押し下げられているとみられ、ストライキの終結により来月は相当程度減少分が回復すると見込まれている。しかしながら、これらを考慮しても10月は市場予想を下回ったほか、後述するように過去2ヵ月分が合計で▲10.9万人の大幅な下方修正となった結果、23年8-10月期の月間平均増加ペースは+20.4万人増と、23年初からの同+23.9万人増を明確に下回り、足元で雇用増加ペースが鈍化していることを示した。

また、労働参加率が上昇に転じるなど労働供給の回復が一服したものの、失業率は、大幅な就業者数の減少を伴って上昇しており、労働需要の低下による労働需給の緩和を示した。

一方、時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比+0.2%(前月改定値:+0.3%、市場予想:+0.3%)と+0.2%から上方修正された前月、市場予想を下回った。前月比は22年2月以来の低水準となった。
(図表1)時間当たり賃金の伸び率 前年同月比は+4.1%(前月改定値:+4.3%、市場予想:+4.0%)とこちらは+4.2%から上方修正された前月を下回った一方、市場予想を上回った(図表1)。前年同月比は低下基調が持続しているほか、21年6月以来の低水準となった。

このようにみると、10月の雇用統計は非農業部門雇用者数、失業率、賃金上昇率ともに労働市場が減速していることを確認する結果となった。とくに、賃金上昇率が低下したことはインフレ抑制のために金融引締めを継続しているFRBにとって心強い結果と言えよう。

3.事業所調査の詳細:広範なサービス分野で雇用の伸びが鈍化

事業所調査のうち、民間サービス部門は前月比+11.0万人(前月:+21.8万人)と前月から雇用の伸びが大幅に鈍化した(図表2)。
(図表2)非農業部門雇用者数の増減(業種別) 民間サービス部門の中では、医療・社会扶助サービスが前月比+7.7万人(前月:+6.9万人)と前月から伸びが加速したほか、専門・ビジネスサービスが+1.5万人(前月:+1.7万人)と前月並みの伸びを維持した。一方、娯楽・宿泊が+1.9万人(前月:+7.4万人)、小売が+0.0万人(前月:+1.3万人)、卸売業が+0.9万人(前月:+1.6万人)と前月から雇用の伸びが鈍化したほか、運輸・倉庫が▲1.2万人(前月:+1.3万人)と前月から減少に転じた。

財生産部門は前月比▲1.1万人(前月:+2.8万人)とこちらは前月から減少に転じた。建設業が+2.3万人(前月:+1.3万人)と前月から雇用の伸びが加速した一方、製造業が▲3.5万人(前月:+1.4万人)と減少した。製造業の減少はUAWストの影響で自動車・自動車部品が▲3.3万人(前月:+0.9万人)と減少したことが大きい。

政府部門は前月比+5.1万人(前月:+5.1万人)と前月並みの堅調な伸びを維持した。内訳をみると、連邦政府が+0.3万人(前月:+0.4万人)、州・地方政府が+4.8万人(前月:+4.7万人)とそれぞれ前月並みの堅調な伸びを維持した。
前月(9月)と前々月(8月)の雇用増加数(改定値)は前月が+29.7万人(改定前:+33.6万人)と▲3.9万人下方修正されたほか、前々月が+16.5万人(改定前:+22.7万人)と▲6.2万人下方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は▲10.1万人の大幅な下方修正となった(図表3)。
 
BLSの公表に先立って11月1日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増加数が前月比+11.3万人(前月:+8.9万人、市場予想:+15.0万人)と前月を上回った一方、市場予想を下回った。この結果、ADP社の統計は雇用の伸びが前月から加速しており、前月から大幅に鈍化した雇用統計とは不整合な動きとなった。もっとも、ADP社の統計も23年8月-10月の月間平均増加ペースが+12.7万人増と23年初来の22.3万人増を明確に下回っており、雇用統計同様足元で雇用増加ペースが鈍化していることを示している。

10月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が34.00ドル(前月:33.93ドル)となり、前月から+7セント増加した。一方、週当たり労働時間は34.3時間(前月:34.4時間)とこちらは前月から▲0.1時間減少した。この結果、週当たり賃金は1,166.20ドル(前月:1,167.19ドル)となり、前月から増加した(図表4)。
(図表3)前月分・前々月分の改定幅/(図表4)民間非農業部門の週当たり賃金伸び率(年率換算、寄与度)

4.家計調査の詳細:失業率は22年1月以来の水準に上昇

家計調査のうち、10月の労働力人口は前月対比で▲20.1万人(前月:+9.0万人)と前月から大幅な減少に転じた。内訳を見ると、失業者数が+14.6万人(前月:+0.5万人)と前月から伸びが加速した一方、就業者数が▲34.8万人(前月:+8.6万人)と前月から大幅な減少に転じて労働力人口全体を押し下げた。非労働力人口は+41.6万人(前月:+12.4万人)と前月から伸びが大幅に加速した。これらの結果、労働参加率は62.7%と前月から▲0.1%ポイント低下した(図表5)。

一方、プライムエイジと呼ばれる働き盛り(25~54歳)のみの労働参加率は10月が83.3%(前月:83.5%)と前月から▲0.2%ポイント低下した。男女の内訳は、女性が77.6%(前月:77.4%)と前月から+0.2%ポイント上昇した一方、男性が89.0%(前月:89.6%)と前月から▲0.6%ポイント低下して全体を押し下げた。

失業率は10月が3.9%と前月から+0.1%ポイント上昇し、22年1月以来の水準となるなど、23年7月の3.5%を底に上昇基調が持続している(図表6)。
(図表5)労働参加率の変化(要因分解)/(図表6)失業率の変化(要因分解)
10月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は128.2万人(前月:121.6万人)と前月から+6.6万人の増加となった。一方、長期失業者の失業者全体に占めるシェアは19.8%(前月:19.1%)と前月から+0.7%ポイント増加した(図表7)。平均失業期間は21.6週(前月:21.5週)と前月から+0.1週長期化した。
 
最後に、周辺労働力人口(141.7万人)3や、経済的理由によるパートタイマー(428.3万人)も考慮した広義の失業率(U-6)4は、10月が7.2%(前月:7.0%)と前月から+0.2%ポイント上昇した(図表8)。この結果、通常の失業率(U-3)との乖離幅は+3.3%ポイント(前月:+3.2%ポイント)と前月から+0.1%ポイント拡大した。
(図表7)失業期間の分布と平均失業期間/(図表8)広義失業率の推移
 
3 周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
4 U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2023年11月06日「経済・金融フラッシュ」)

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