2023年12月08日

2023~2025年度経済見通し-23年7-9月期GDP2次速報後改定

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1.2023年7-9月期の実質GDPは前期比年率▲2.9%へ下方修正

12/8に内閣府が公表した2023年7-9月期の実質GDP(2次速報値)は前期比▲0.7%(年率▲2.9%)となり、1次速報の前期比▲0.5%(年率▲2.1%)から下方修正された。

設備投資は1次速報の前期比▲0.6%から同▲0.4%へ上方修正されたが、民間消費(前期比▲0.0%→同▲0.2%)、民間在庫変動(前期比・寄与度▲0.3%→同▲0.5%)、公的固定資本形成(前期比▲0.5%→同▲0.8%)が下方修正されたため、成長率のマイナス幅は1次速報から拡大した。

マイナス成長自体は4-6月期の高成長(前期比年率3.6%)の反動という側面もあり、悲観する必要はないが、懸念されるのは社会経済活動の正常化が進む中でも消費、設備などの国内民間需要が停滞していることである。
2022年度GDP年次推計の結果 2023年7-9月期の2次速報と同時に2022年度の第一次年次推計値が公表され、実質GDP成長率は速報値の1.3%から1.5%へ上方修正された。公的固定資本形成(前年比▲3.2%→同▲6.1%)は大幅に下方修正されたが、民間消費(前年比2.5%→同2.7%)、設備投資(前年比3.0%→同3.4%)、政府消費(前年比0.7%→同1.4%)が上方修正された。

また、2021年度の第一次年次推計値が第二次年次推計値となり、実質GDP成長率は2.6%から2.8%へ上方修正された。設備投資(前年比2.3%→同1.7%)は下方修正されたが、民間消費(前年比1.5%→同1.8%)、住宅投資(前年比▲0.6%→同0.1%)が上方修正された。
四半期毎の成長率も過去に遡って改定された。2023年度入り後の成長率は下方修正されたが、2022年度後半の成長率は大きめの上方修正となり、2022年10-12月期は前期比年率▲0.2%のマイナス成長から同1.0%のプラス成長へと改められた。また、1次速報時点では2023年7-9月期の実質GDPはコロナ禍前のピーク(2019年7-9月期)を▲0.4%下回っていたが、遡及改定を受けて+0.2%と小幅ながらコロナ禍前のピークを上回った。
過去に遡って改定された実質GDP成長率/実質GDPはコロナ禍前のピークを上回る
経常利益(季節調整値)の推移 (経常利益は3四半期連続で過去最高を更新)
財務省が12月8日に公表した法人企業統計によると、2023年7-9月期の全産業(金融業、保険業を除く、以下同じ)の経常利益は前年比20.1%(4-6月期:同11.6%)と3四半期連続の増益となり、前期から伸びを高めた。製造業は前年比▲0.9%(4-6月期:同0.4%)と2四半期ぶりの減益となったが、非製造業が前年比40.0%(4-6月期:同19.0%)と11四半期連続の増益となり、前期から伸びを急速に高めた。

季節調整済の経常利益は27.2兆円となり、3四半期連続で過去最高水準を更新した。企業収益は、非製造業は社会経済活動の正常化、製造業は円安の恩恵を背景に好調を維持している。
(2024年の春闘賃上げ率は前年を上回る見通し)
2023年の春闘賃上げ率は3.60%(厚生労働省の「民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」)と30年ぶりの高水準となった。2024年の春闘を取り巻く環境を確認すると、有効求人倍率は引き続き1倍を大きく上回る水準となっており、失業率が2%台半ばで推移するなど、労働需給は引き締まった状態が続いている。また、法人企業統計の経常利益(季節調整値)は過去最高水準にあり、消費者物価上昇率は高止まりしている。

賃上げの環境を過去と比較するために、労働需給(有効求人倍率)、企業収益(売上高経常利益率)、物価(消費者物価上昇率(除く生鮮食品))について、過去平均(1985年~)からの乖離幅を標準偏差で基準化してみると、3指標がいずれもプラスとなっており、その合計は過去最高となった2022年を上回る水準となっている。賃上げの環境は引き続き良好と判断される。
賃上げを巡る環境の推移/名目賃金と実質賃金
連合は、2023年春闘の賃上げ要求を2015年以降掲げてきた4%程度(定期昇給相当分を含む)から5%程度に引き上げたが、2024年春闘の基本構想では、要求水準を5%以上へと若干引き上げた。また、自動車、電機などの産業別労働組合で構成される金属労協は、ベースアップの要求水準を2023年の「6,000円以上」から「10,000円以上」へと大きく引き上げた。

こうした状況を踏まえ、今回の見通しでは、2024年の春闘賃上げ率を4.00%と前年を0.40ポイント上回り、1992年以来の4%台となることを想定した。

実質賃金は消費者物価の上昇ペース加速を主因として2022年4月以降、前年比でマイナスが続いている。今後、名目賃金の伸びは高まるものの、消費者物価上昇率が高止まりするため、実質賃金の下落はしばらく続く可能性が高い。実質賃金上昇率がプラスに転じるのは、消費者物価上昇率が2%を割り込むことが見込まれる2024年度後半と予想する。

2.実質成長率は2023年度1.5%

2.実質成長率は2023年度1.5%、2024年度1.3%、2025年度1.1%を予想

2023年7-9月期のGDP2次速報を受けて、11/16に発表した経済見通しを改定した。実質GDP成長率は2023年度が1.5%、2024年度が1.3%、2025年度が1.1%と予想する。2023年7-9月期は下方修正されたが、2022年度下期の成長率が上振れ、2022年度から2023年度への発射台(ゲタ)が1次速報時点の0.6%から1.0%へ上方修正されたことが2023年度見通しの上振れにつながった。2024年度、2025年度の見通しは修正していない。
(国内需要中心の成長が続く)
2023年7-9月期は内外需ともに低迷したことから、前期比年率▲2.9%と4四半期ぶりのマイナス成長となった。2023年度後半はインバウンド需要を中心にサービス輸出の増加が続くものの、海外経済の減速を背景に財輸出は低迷する可能性が高い。輸出が景気の牽引役となることは当面期待できないだろう。一方、民間消費は雇用所得環境の改善や社会経済活動の正常化を受けて、対面型サービスを中心に回復し、設備投資は高水準の企業収益を背景に増加が続くだろう。日本経済は内需中心の成長が続くことが予想される。

実質GDPは2023年10-12月期に前期比年率1.5%とプラス成長に復帰するが、2024年1-3月期は輸出の減少を主因として同0.8%とゼロ%台の低成長となるだろう。今回の経済対策に盛り込まれた減税は2024年6月に実施されることが予定されており、主として7-9月期の民間消費を押し上げる。2024年7-9月期は民間消費の高い伸びを主因として前期比年率2.8%の高成長となるが、減税の効果は一時的なものにとどまり、10-12月期以降は年率1%前後の成長が続くだろう。
実質GDP成長率の推移(年度)/実質GDP成長率の推移(四半期)
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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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