2023年12月07日

東京オフィス賃料は下落継続。物流市場は大量供給の影響で空室率が上昇-不動産クォータリー・レビュー2023年第3四半期

基礎研REPORT(冊子版)12月号[vol.321]

金融研究部 主任研究員 吉田 資

文字サイズ

2023年7-9月期の実質GDPは、3四半期ぶりのマイナス成長になった。

住宅市場では、価格が上昇するなか、前期まで低調であった販売状況は回復に向かっている。地価は住宅地、商業地ともに上昇している。

オフィス賃貸市場は、東京Aクラスビルの成約賃料(月坪)が前期比▲3.9%下落した。東京23区のマンション賃料は全ての住居タイプが前年比でプラスとなった。ホテル市場は7-9月の延べ宿泊者数がコロナ禍前の水準を回復した。物流賃貸市場は、新規供給の影響を受けて首都圏・近畿圏ともに空室率が上昇している。第3四半期の東証REIT指数は▲0.1%下落した。

1―経済動向と住宅市場

2023年7-9月期の実質GDPは、前期比▲0.5%(前期比年率▲2.1%)と3四半期ぶりのマイナス成長になった。前期の高成長の反動に加えて、輸入が輸出の伸びを上回り、外需が成長率を押し下げた。

ニッセイ基礎研究所は、9月に経済見通しの改定を行った。実質GDP成長率は2023年度+1.5%、2024年度+1.4%を予想する。海外経済の減速から輸出が景気の牽引役となることは当面期待できないものの、内需中心の成長が続く見通しである。

7-9月の首都圏のマンション新規発売戸数は累計では6,180戸(前年同期比+13.1%)となり5四半期ぶりに増加した[図表1]。9月の平均価格は6,727万円(前年同月比+1.1%)、初月契約率は67.7%(同+6.1%)で、価格が上昇基調で推移するなか、初月契約率は前年同期を上回った。

7-9月の首都圏の中古マンション成約件数は8,794件(前年同期比+4.2%)となり、9四半期ぶりに増加した。9月の中古マンション平均価格は4,618万円(前年同月比+4.5%)、となった。中古マンション市場では取引価格の上昇が続いている。
[図表1]分譲マンション新規発売戸数暦年比較(首都圏)

2―地価動向

地価は住宅地、商業地ともに上昇している。国土交通省の「地価LOOKレポート(2023年第2四半期)」によると、全国80地区のうち上昇が「74」(前回73)、横ばいが「6」(7)、下落が「0」(0)で、住宅地では5期連続で全ての地区が上昇となった。同レポートでは、「住宅地では、マンション需要に引き続き堅調さが認められたことから上昇が継続。商業地では、人流の回復傾向を受け、店舗需要の回復が見られたことなどから上昇傾向が継続した」としている。

3―不動産サブセクターの動向

1│オフィス
三幸エステート公表の「オフィスレント・インデックス」によると、2023年第3四半期の東京都心部Aクラスビル賃料(月坪)は24,652円(前期比▲3.9%)に下落し、空室率は6.7%(前期比+0.8%)に上昇した[図表2]。三幸エステートは、「新規供給のピークは過ぎたものの、新築ビルや建築中ビルがテナント誘致に時間を要する傾向は続いている」としている。

ニッセイ基礎研究所は、東京都心部Aクラスビルの賃料見通しを9月に改定した。空室率は、新規供給が一旦落ち着く2024 年にやや改善した後、6%前後で推移すると予測する。また、成約賃料は、現時点とほぼ同水準となる2万6千円近辺で推移する見通しである。
[図表2]東京都心部Aクラスビルの空室率と成約賃料
2│賃貸マンション
東京23区のマンション賃料は、全ての住居タイプが前年比でプラスとなった。三井住友トラスト基礎研究所・アットホームによると、2023年第2四半期は前年比でシングルタイプが+2.0%、コンパクトタイプが+3.3%、ファミリータイプが+1.3%となった[図表3]。
[図表3]東京23区のマンション賃料
3│商業施設・ホテル・物流施設
商業セクターは、百貨店を中心にインバウンド消費が好調で売上が増加している。商業動態統計などによると、7-9月の小売販売額(既存店、前年同期比)は百貨店が+10.0%、コンビニエンスストアが+4.9%、スーパーが+3.8%となった。

ホテル市場は、日本人の宿泊需要に頭打ち感がみられるもののインバウンド需要が牽引し、コロナ禍前の水準を回復している。宿泊旅行統計調査によると、2023年7-9月累計の延べ宿泊者数は2019年と同水準(2019年同期比+0.04%)となり、このうち日本人が▲1.4%、外国人が+6.6%となった[図表4]。
[図表4]延べ宿泊者数の推移(2019年同期比、2020年1月~2023年9月)
シービーアールイー(CBRE)によると、首都圏の大型マルチテナント型物流施設の空室率(2023年9月末)は8.9%(前期比+0.7%)となった[図表5]。今期は、新規需要が17.1万坪と昨年の四半期平均(12.2万坪)を上回ったものの、新規供給が23.4万坪と引き続き高水準で、空室面積は1年前から倍増し約55万坪となった。近畿圏についても空室率は4.5%(前期比+1.3%)に上昇した。
[図表5]大型マルチテナント型物流施設の空室率

4―J -REIT(不動産投信)市場

2023年第3四半期の東証REIT指数(配当除き)は6月末比▲0.1%下落した。業種別指数では、オフィスが+2.5%、住宅が▲2.2%、商業・物流等が▲2.1%となり、オフィスやホテルが上昇する一方、住宅や物流が軟調な動きであった[図表6]。
[図表6]東証REIT指数の推移(2022年12月末=100)
J-REITによる第3四半期の物件取得額は2,985億円(前年同期比+186%)、1-9月累計では9,057億円( 同+57%)となり、昨年から大幅に増加した。アセットタイプ別では、オフィスビル(32%)・物流施設(27%)・ホテル(20%)・住宅(13%)・商業施設(7%)・底地ほか(1%)となった。コロナ禍以降の(20年~23年)の東証REIT指数の騰落率について、(1)分配金、(2)10年金利、(3)リスクプレミアム(分配金利回り-10年金利)の3つの要因に分解し、それぞれの寄与度を確認すると、(1)分配金は21年から回復に向かい累計で1%のプラス寄与。(3)リスクプレミアムは3.6%から3.4%へ縮小し累計で4%のプラス寄与。一方、(2)10年金利は22年から上昇ピッチを強め累計で▲18%のマイナス寄与となった[図表7]。こうしてみると、金利上昇がJリート市場に重くのしかかっていることが分かる。

もっとも、金利上昇が即、価格下落につながるわけではない。例えば、米国リート市場は10年金利が年初より0.7%上昇した一方、リスクプレミアムが0.4%縮小し金利上昇の痛みを緩和する効果をもたらしている。また、日本では現状、金利の先高観が強いものの、Jリート市場のリスクプレミアム(3.4%)は米国(▲0.1%)と比べて十分に厚く、ある程度金利上昇への備えができていると言える。引き続き、市場金利とあわせてリスクプレミアムの動向にも注意を払う必要がありそうだ。
[図表7]東証REIT指数の寄与度分解
Xでシェアする Facebookでシェアする

金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

(2023年12月07日「基礎研マンスリー」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【東京オフィス賃料は下落継続。物流市場は大量供給の影響で空室率が上昇-不動産クォータリー・レビュー2023年第3四半期】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

東京オフィス賃料は下落継続。物流市場は大量供給の影響で空室率が上昇-不動産クォータリー・レビュー2023年第3四半期のレポート Topへ