2023年11月30日

わが国のサードプレイスオフィス市場の現況 -2023年-(1)~東京23区での集積が進む一方、主要政令指定都市以外の割合も4割に達する

金融研究部 主任研究員 吉田 資

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1.はじめに

新型コロナウィルス感染拡大を契機として、テレワークが急速に普及し、働き方の多様化を進んだ結果、「サテライトオフィス1」を設置する企業が増加している。ザイマックス不動産総合研究所「大都市圏オフィス需要調査2」によれば、大都市圏3における「サテライトオフィス」の導入率は、2017年の11%から2023年の30%へと約3倍に増加した(図表-1)。

また、政府は、都市部から地方へのヒト・情報の流れを創出する目的で、地方公共団体のサテライトオフィス誘致の取組を「お試しサテライトオフィス」事業などにより支援を行っている。総務省の調査によれば、地方公共団体が誘致又は関与したサテライトオフィスの開設数は、2017年度の429拠点から2021年度の1,348拠点へと約3倍に増加した4(図表-2)。

このように、大都市圏、地方の両方において、「サテライトオフィス」が増加している。「サテライトオフィス」を開設する場所として、「レンタルオフィス5」や「シェアオフィス6」、「コワーキングスペース7」等の「サードプレイスオフィス」を利用するケースが増えている。
図表-1 大都市圏におけるサテライトオフィスの導入率/図表-2 地方公共団体が誘致又は関与したサテライトオフィスの開設数
そこで、本稿では、全国的に需要が高まっているサードプレイスオフィスの現状について、2回に分けて概観した上で、今後のオフィス市場に及ぼす影響等について考えたい。第1回は、サードプレイスオフィスの拠点展開や提供サービス内容等について確認する。
 
1 企業または団体の本社、本拠から離れた所に設置されたオフィス(支社や支店、営業所等)。
2 調査対象企業の従業員規模は、「100人未満」の企業が50%、「100人以上1000人未満」が33%、「1000人以上」が17%。
3 東京都、大阪府、愛知県、福岡県、神奈川県、埼玉県、千葉県
4 同調査によれば、新規開設したサテライトオフィスの64%が独自事務所、34%がシェアオフィスであったとのことである。
5 会議室などを共用部分に設置して共有し、専用の個室をそれぞれ持つ、いわば合同事務所のようなオフィス形態。
6 フリーアドレスでデスクを共有して利用するオフィス形態。
7 オープンなワークスペースを共用し、各自が自分の仕事をしながらも、自由にコミュニケーションを図ることで情報や知見を共有し、協業パートナーを見つけ、互いに貢献しあう「ワーキング・コミュニティ」の概念およびそのスペース(コワーキング協同組合による定義)。

2.サードプレイスオフィスの現況

2.サードプレイスオフィスの現況

(1) サードプレイスオフィスの拠点展開
日本全国のサードプレイスオフィス拠点数(2023年10月時点)は、3,918拠点であった8。都道府県別にみると、「東京都」(1,561拠点・占率40%)が最も多く、次いで「神奈川県」(326拠点・8%)、「大阪府」(306拠点・8%)の順に多かった。100拠点を超えた都道府県の数は「8」(埼玉県・千葉県・愛知県・兵庫県・福岡県)であった(図表-3)。

先行研究(2014年時点)によれば、東京都に全国の37%、三大都市圏9には約三分の二(66%)の拠点が立地していた。本調査においても、東京都が全国の4割、三大都市圏が約4分の3(72%)を占めており、三大都市圏に集中している傾向に変化はないようだ。
図表-3 全国のサードプレイスオフィス拠点数(都道府県別)
次に、主要政令指定都市別にみると、東京23区(1,428拠点・占率37%)が最も多く、次いで大阪市(251拠点・12%)、横浜市(160拠点・4%)、福岡市(98拠点・3%)、名古屋市(86拠点・3%)の順に多かった。「三大都市10」が占める割合は45%(東京23区:36%、大阪市:6%、名古屋市:2%)「主要都市11」の割合は16%、「その他の地域」の割合は40%であった(図表-4)。

日本不動産研究所「全国オフィスビル調査」によれば、全国のオフィスビルストック(棟数ベース)において、「三大都市」が占める割合は64%(東京23区:47%、大阪市:12%、名古屋市:5%)、「主要都市」の割合は18%、「その他の地域」の割合は18%であった。サードプレイスオフィスは、三大都市圏の郊外部(東京23区、大阪市、名古屋市以外)や地方都市において、オフィスビルのストック分布に比して多く供給されているようだ。
図表-4 オフィスビルストック(棟数ベース)との比較
首都圏に関して市区町村別にみると、「港区」(261拠点)が最も多く、次いで「千代田区」(210拠点)、「渋谷区」(179拠点)が多かった。「中央区」と「新宿区」も100拠点を超えており、東京都心5区合計で、全国の約4分の1(24%)を占めている(図表-5)。

東京都心5区以外で20拠点が超える市区町村は、都区部で「11」(台東区・墨田区・江東区・品川区・目黒区・大田区・世田谷区・中野区・杉並区・豊島区・足立区)、都下で「2」(武蔵野市、町田市)、神奈川県では「4」(横浜市中区・西区・港北区、藤沢市)、千葉県で「1」(船橋市)であった。
図表-5 首都圏のサードプレイスオフィス拠点
続いて、京阪神(京都府・大阪府・兵庫県)について市区町村別にみると、「大阪市中央区」(102拠点)が最も多く、次いで「大阪市北区」(76拠点)が多かった。その他に20拠点が超える市区町村は、「大阪市西区」、「京都市下京区」、「神戸市中央区」であった(図表-6)。
図表-6 京阪神(京都府・大阪府・兵庫県) サードプレイスオフィス拠点
 
8 サードプレイスオフィスのポータルサイト、サードプレイスオフィスの運用会社HPに公表している情報を集計。鉄道駅等に設置されている一人用の個室ボックスは調査対象から除外している。
9 首都圏が東京都,神奈川県,埼玉県,千葉県,中京圏 が 愛知県,岐阜県,三重県,近畿圏が 大阪府,京都府,兵庫県,滋 賀県,奈良県,和歌山県
10 東京23区、大阪市、名古屋市
11 札幌市、仙台市、さいたま市、千葉市、横浜市、京都市、神戸市、広島市、福岡市
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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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