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シングル高齢者の相続と金銭管理の準備状況~相続準備は未婚女性が進行、認知能力低下後の金銭管理準備は未婚男女とも遅れ

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子
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次に、「将来、判断能力が不十分になったときにどのような相談相手がいますか」(複数回答)との問いに対する回答を性・配偶関係別に比較したものが、図表3である。
まず男性についてみると、「全体」では、回答割合がダントツで高いのが「子ども」(約8割)と「配偶者」(約7割)の二つであり、他には「その他親族」(約2割)、「友人」(約1割)などがある。配偶関係別にみると、子や孫がいない「未婚」では、「その他親族」が最大の約7割に上った他、「友人」(約3割)は全体より20ポイント以上高かった。「地域包括支援センター」(約2割)も全体より高かった。
別稿「シングル高齢者の住宅と生活~未婚女性の6割は1日60分以上歩くアクティブ層、未婚男性と離別・死別男女の1割弱は殆ど歩かない不活発層」では、未婚の高齢者は、男女ともに、配偶者や子がいない代わりに、兄弟姉妹との結びつきが強いことを報告した。そのため、当設問でも未婚の多くが挙げた「その他親族」には、兄弟姉妹が多く含まれると考えられる。「地域包括支援センター」との回答が高い理由は当調査からは明らかではないが、日常生活や介護に関する相談等を通じて、関係性が強いのかもしれない7。いずれにせよ、血縁者以外の回答割合が、全体に比べて高かった。
次に女性についてみると、「全体」で回答割合が最大だったのは「子ども」(約9割)で、男性よりも10ポイント高かった。回答者のうち「配偶者あり」の割合が男性に比べて小さいことなどから、当設問では「配偶者」を選択した割合は約5割にとどまった。配偶関係別にみると、「未婚」では、「その他親族」が約8割に上り、未婚男性以上に、配偶者や子以外の親族との結びつきの強さを示唆していた。「友人」(約2割)や「弁護士」(約1割)も全体より高く、未婚男性同様に、血縁者以外の回答割合が、全体よりも高かった。
7 筆者による同調査の分析では、未婚男性では「現在介護を受けている」と回答した人は8.8%で、男性全体(5.2%)と比べて有意差は無かった。
最後に、「将来、判断能力が不十分になったときに株や証券などの金融資産を家族や成年後見人にどのように扱って欲しいですか」との問いに対し、回答を性・配偶関係別に比較したものが図表4である(グラフは略)。
まず男性についてみると、「全体」のうち、そもそも金融資産を「保持していない」との回答が約5割弱で、最も多かった。保持している層では、「適切に運用する」(約2割)、「売却して現金資産にする」(1割強)、「そのまま保持する」(1割弱)の順に多かった。配偶関係別にみると、「未婚」で「そのまま保持する」が全体より低かったが、その他には大きな差はなかった。
次に女性についてみると、「全体」の傾向は男性と類似していた。そもそも金融資産を「保持していない」との回答が約4割で、最も多かった。保持している層では、「適切に運用する」(約2割)、「売却して現金資産にする」(約1割)、「そのまま保持する」(約1割)の順に多かった。配偶関係別にみると、「未婚」では「保持していない」が約2割で、全体より20ポイント以上低く、すべての性・配偶関係の中でも、保持している人の割合が最も大きかった。また「適切に運用する」も4割弱に上り、すべての性・配偶関係の中で最も大きかった。
前稿「人生100年時代のシングル高齢者の不安と備え~未婚女性はポジティブで備えも進み、未婚男性はネガティブで備え不足」では、未婚女性は、老後に向けて、預貯金を所有する割合が大きいだけでなく、4人に1人がNISA(小型投資非課税制度)を保有するなど、金融リテラシーが高く、投資に対しても積極的であることを紹介したが、当設問でも、そもそも金融資産の保有割合が高く、自身が判断能力低下した後についても「運用」という希望が大きいことが分かり、改めて金融行動の積極性を示唆する結果となった。
女性のうち「配偶者あり」や「離別・死別」は、全体と比べて有意な差は見られなかった。
4――終わりに
当シリーズのこれまでのレポートで、未婚女性は、長い老後を見据えて、金銭的備えが最も進んでいることを紹介してきたが、相続についても、すべての性・配偶関係の中で、最も計画的に準備を進めていることが分かった。「相続」と言えばこれまで、子や孫がいる高齢者が、最も準備が進んでいるというイメージを持っていた人もいるかもしれないが、本稿の分析からは、資産状況や本人の意識との関連が強いと言えるだろう。
次に、判断能力低下後に向けた準備状況としては、男女とも、未婚で「特に準備はしていない」と回答した割合が7~8割に上り、いずれも全体より高かった。いざという時に身近で助けてくれる家族がいないシングル高齢者の場合は、認知能力が低下した時に備えて、「任意後見制度」などの制度を利用することは、有効な選択肢の一つになると考えられるが、現状では、未婚男性を除いて、利用が低迷していることが分かった。計画的な未婚女性でさえも、利用が低迷しているということは、まだまだ制度の周知不足、理解不足が背景にあると考えられる。
判断能力低下時の相談相手としては、未婚では男女いずれも、配偶者と子を除く「その他親族」が多く、兄弟姉妹との関係性の深さが改めて推察された。また、「友人」など、血縁者以外の回答も目立っており、子や孫のいないシングル高齢者にとって、身の回りで頼れる知り合いを増やし、いざという時のネットワークを築いておく重要性を示唆していると言える。
判断能力低下時の金融資産の取り扱いについては、未婚女性の金融資産の保持割合の高さと、運用への希望が目立つ格好となった。既出レポートで報告してきた、「未婚女性は金融に関する知識や行動力が旺盛」という仮説を改めて裏付ける結果となった。
以上のことをまとめると、「終活」のうち、相続に関しては、未婚女性が最も準備が進んでいるが、判断能力低下時の金銭管理については、未婚は男女いずれも準備が遅れていることが分かった。シングルだと身近に頼れる家族がいないこと、一定割合の高齢者が認知症になることを考えると、シングル高齢者をサポートする任意後見制度等の社会的な仕組みを、もっと機能させていく必要があるだろう。未婚率や長寿化の進行を考えれば、今後もシングル高齢者は増えると予想される。いざという時に、日常生活に支障を来して本人も周囲も困ることがないように、また、シングルであっても安心してエンディングを迎えられるように、高齢者を支える社会の仕組みについて、もっと周知を図っていくことが必要ではないだろうか。
(2023年11月10日「基礎研レポート」)
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03-3512-1821
- 【職歴】
2002年 読売新聞大阪本社入社
2017年 ニッセイ基礎研究所入社
【委員活動】
2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
2023年度 日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員
坊 美生子のレポート
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