2023年10月10日

コロナ禍における賃貸マンション市場の動向-賃貸管理データより算出された空室率に基づく分析

金融研究部 主任研究員 佐久間 誠

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3――地域別の単身向け賃貸マンション市場動向:地域毎の変化はまちまち

次に、日本全国、東京圏、東京都の順に、単身向け賃貸マンションの空室率の地域別動向を比較する。

まず、日本全国について、主要都道府県別の空室率を見ると、全ての地域で2020年後半から2022年前半にかけて上昇し、2022年後半から低下する傾向となった(図4)。空室率の上昇が特に顕著だったのは、愛知県と東京都であり、両地域とも2020年8月からコロナ禍のピークまで+6.2%上昇した5。この背景として、愛知県では供給制約などにより基幹産業である製造業が停滞したこと、東京都ではリモートワークやオンライン授業の影響を最も受けたことが挙げられる。一方、空室率がピークアウトした後の低下ペースは両地域で異なり、東京都は▲3.8%低下したのに対し、愛知県は▲1.8%の低下と改善ペースが鈍い6。これは、東京一極集中が再開し、東京への人口流入が再び勢いを取り戻しつつあるためだと考えられる。また、宮城県はピークアウト後の空室率低下幅は▲5.4%と最も早く、空室率はすでにコロナ禍前の水準を下回っている。
図4 主要都道府県の単身向け賃貸マンションの空室率
東京圏内の単身向け賃貸マンションの空室率の動向を見ると、地域毎の傾向が異なる。2020年8月からコロナ禍におけるピークまでの空室率上昇幅は、神奈川県が+7.1%、東京都下が+6.3%、東京+23区が+6.2%と大きかった7。ただし、空室率がピークアウトを迎えた後は早いペースで低下し、コロナ禍におけるピークから2023年7月までの空室率低下幅は東京23区が▲4.0%、神奈川県が▲3.9%、東京都下が▲3.3%となっている8。なお、埼玉県と千葉県はコロナ禍の影響が比較的軽微で、空室率の上昇も小幅であったことがわかる。
図5 東京圏の単身向け賃貸マンションの空室率
東京都内の単身向け賃貸マンションの空室率の動向について、各市区町村を都心からの距離に基づき4つのカテゴリ、つまり都心に近い順から東京23区A、東京23区B、東京23区C、東京都下に分類して分析した9。2020年8月からコロナ禍のピークまでの空室率の上昇幅を見ると、東京23区Aが+8.1%と最も大きく上昇し、次に東京23区Bが+6.8%、東京都下が+6.1%、そして東京23区Cが+5.6%の上昇を示した。一方、コロナ禍におけるピークから2023年7月までの空室率の低下幅は、東京23区Bが最も大きく▲5.7%低下した。続いて、東京都下が▲4.2%、東京23区Aが▲4.0%、東京23区Cが▲4.0%の低下を示した。最も都心に近い東京23区Aでは、空室率がピークアウトした後も相対的に需給改善が鈍く、2023年7月の空室率はコロナ禍の影響が顕在化する前の2020年8月と比べて+4.2%高い状態が続いている。それに対して、他のエリアでは空室率はコロナ禍前より+1~2%高い水準にとどまり、全般的に需給が改善してきていることが確認できる。東京都の単身向け賃貸マンションは、リモートワークやオンライン授業の影響を受け、なかでも都心に近い地域においてその影響が強く見られたが、それ以外の地域では概ねコロナ禍前の状況に戻りつつある。
図6 東京都の単身向け賃貸マンションの空室率
 
5 2020年8月からコロナ禍におけるピークまでの空室率の上昇幅: 愛知県(+6.2%)、東京都(+6.2%)、広島県(+5.7%)、宮城県(+5.1%)、福岡県(+4.6%)、大阪府(+4.3%)、北海道(+3.7%)
6 コロナ禍におけるピークから2023年7月までの空室率の低下幅: 宮城県(▲5.4%)、東京都(▲3.8%)、広島県(▲2.9%)、福岡県(▲2.8%)、大阪府(▲2.2%)、愛知県(▲1.8%)、北海道(▲1.2%)
7 2020年8月からコロナ禍におけるピークまでの空室率の上昇幅: 神奈川県(+7.1%)、東京都下(+6.3%)、東京23区(+6.2%)、千葉県(+3.0%)、埼玉県(+2.0%)
8 コロナ禍におけるピークから2023年8月までの空室率の低下幅: 東京23区(▲4.0%)、神奈川県(▲3.9%)、東京都下(▲3.3%)、千葉県(▲1.1%)、埼玉県(▲0.4%)
9 東京23区A: 千代田区、中央区、港区、新宿区、文京区、渋谷区
東京23区B: 品川区、目黒区、台東区、豊島区、北区、荒川区
東京23区C: 大田区、世田谷区、墨田区、江東区、中野区、杉並区、板橋区、練馬区、足立区、葛飾区、江戸川区
東京23区D: 八王子市、立川市、三鷹市、青梅市、府中市、調布市、町田市、日野市、国分寺市、福生市、多摩市

4――おわりに

4――おわりに

コロナ禍は全世界に猛威を振るい、経済や社会の様々な側面に顕著な影響をもたらした。不動産市場においても多くのセクターが打撃を受けるなか、安定性が高いと評価されてきた日本の賃貸住宅市場にもその影響は及んだ。特に、単身世帯向けの賃貸マンションは相対的に大きな影響を受けた。東京都や愛知県をはじめ、また東京においては特に都心に近い地域で、空室率は相対的に大きく上昇した。

しかし、2022年後半から賃貸住宅市場は回復の兆しを見せ始めている。現在はポストコロナに移行するなか、再び都心は賑わいを取り戻しつつある。今後の市場動向は依然として流動的であり、先々の変化を的確に捉えるためには、継続的かつ丹念なデータ収集と分析が重要である。
 
 

(ご注意)本稿記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本稿は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものでもありません。
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金融研究部   主任研究員

佐久間 誠 (さくま まこと)

研究・専門分野
不動産市場、金融市場、不動産テック

経歴
  • 【職歴】  2006年4月 住友信託銀行(現 三井住友信託銀行)  2013年10月 国際石油開発帝石(現 INPEX)  2015年9月 ニッセイ基礎研究所  2019年1月 ラサール不動産投資顧問  2020年5月 ニッセイ基礎研究所  2022年7月より現職 【加入団体等】  ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター  ・日本証券アナリスト協会検定会員

(2023年10月10日「不動産投資レポート」)

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