2023年10月10日

2023・2024年度経済見通し

基礎研REPORT(冊子版)10月号[vol.319]

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

このレポートの関連カテゴリ

文字サイズ

1―GDPがコロナ禍前のピークを上回る

2023年4-6月期の実質GDPは、前期比1.2%(前期比年率4.8%)と3四半期連続のプラス成長となった。

輸出が前期比3.1%の増加となる一方、輸入が同▲4.4%の減少となったことから、外需が前期比・寄与度1.8%(年率7.1%)と成長率を大きく押し上げた。

一方、物価高の影響などから、民間消費が前期比▲0.6%と3四半期ぶりに減少し、設備投資も同▲1.0%の減少となったことから、国内需要は2四半期ぶりに減少した。2023年4-6月期は事前の予想を上回る高成長となったが、輸出の増加は1-3月期の反動による部分が大きく、輸入の大幅減少は内需の低迷を反映したものと捉えることができる。成長率が示すほど景気の実勢は強くない。

2023年4-6月期の実質GDPの水準はコロナ禍前のピーク(2019年7-9月期)を0.2%上回った。また、名目GDPは2022年10-12月期(前期比年率5.0%)、2023年1-3月期( 同9.0%)、4-6月期( 同11.4%)と3四半期連続で実質の伸びを大きく上回り、2023年4-6月期はコロナ禍前のピーク(2019年7-9月期)を5.0%上回った[図表1]。
[図表1]名目GDPと実質GDPの推移

2―インバウンド需要が急回復

インバウンド需要はコロナ禍でほぼ消失した状態が続いていたが、水際対策が2022年10月から段階的に緩和され、2023年4月末に撤廃されたことを受けて、急回復が続いている。2023年7月の訪日外客数は232万人、2019年同月比▲22.4%となり、コロナ禍前(2019年平均)の約8割の水準まで回復した。

インバウンド需要がコロナ禍前の水準に戻るなかで、今後より深刻となる恐れがあるのが人手や宿泊施設の不足など供給体制の問題だ。経済産業省の「第3次産業活動指数」によれば、宿泊業の活動指数は緊急事態宣言が最初に発令された2020年4-6月期にコロナ禍前の2割程度の水準まで急速に落ち込んだ後、徐々に持ち直し、足もとではコロナ禍前の水準を上回っている。一方、宿泊業の就業者数は、需要の落ち込みを受けて大幅に減少した後、横ばい圏の動きが続いており、2023年4-6月期時点でも2019年比で8割程度の水準にとどまっている[図表2]。供給制約によって需要の回復が阻害されるリスクがあることに加え、すでに上昇が顕著となっている宿泊料のさらなる高騰につながる可能性もある。
[図表2]需要の回復に追いつかない宿泊業の就業者

3―家計貯蓄率は平常時の水準に近づく

2023年4-6月期の民間消費は前期比▲0.6%と3四半期ぶりに減少した。物価高による実質購買力の低下に加え、家計貯蓄率が平常時の水準に近づき、貯蓄率の引き下げによる押し上げ効果が一巡したことも消費の停滞につながったとみられる。

家計貯蓄率はコロナ禍前の2015~2019年平均で1.2%だったが、2020年4月の緊急事態宣言の発令によって消費が急激に落ち込んだこと、特別定額給付金の支給によって可処分所得が大幅に増加したことから、2020年4-6月期に21.4%へと急上昇した。その後、行動制限の緩和によって消費が持ち直したこと、物価高によって消費金額が膨らんだことから、家計貯蓄率は2023年1-3月期には1.6%まで低下した。

2023年1-3月期の家計貯蓄額の平常時(2015~2019年平均)からの乖離幅を所得要因(可処分所得等)、消費要因(実質家計消費支出)、物価要因(家計消費デフレーター)に分けてみると、政府の各種支援策や雇用者報酬の増加によって、可処分所得が16.6兆円増えていることが貯蓄の押し上げ要因となっている。また、実質家計消費支出の水準低下が貯蓄を4.3兆円押し上げている。一方、物価上昇ペースが大きく加速したことが貯蓄を▲20.1兆円減少させている。この結果、2020年4-6月期に72.9兆円(季節調整済・年率換算値)まで増加した家計貯蓄は、2023年1-3月期には5.0兆円(2015~2019年平均は3.5兆円)と平常時に近い水準まで減少している[図表3]。

先行きについては、物価高の継続が引き続き貯蓄率の低下要因となるが、賃上げが進み可処分所得の伸びが高まることが消費を下支えするだろう。今回の見通しでは、家計貯蓄率は2024年度末にかけて平常時とほぼ同水準まで低下すると想定している。
[図表3]物価高の影響で家計貯蓄率は大幅に減少

4―GDP成長率の見通し

2023年4-6月期は外需が成長率を大きく押し上げたが、輸出の高い伸びは1-3月期の落ち込みの反動による部分も大きい。7-9月期以降はインバウンド需要を中心にサービス輸出の増加が続くものの、海外経済の減速を背景に財輸出は低迷する可能性が高い。輸出が景気の牽引役となることは当面期待できないだろう。

一方、民間消費は社会経済活動の正常化を受けて、対面型サービスを中心に回復し、設備投資は高水準の企業収益を背景に増加傾向が続くだろう。日本経済は内需中心の成長が続くことが予想される。

実質GDP成長率は、2023年度が1.5%、2024年度が1.4%と予想する。

名目GDPは実質GDPを上回る高い伸びが続いている。輸入物価の上昇を国内に価格転嫁する動きが広がり、国内需要デフレーターが上昇するもとで、GDPの控除項目である輸入デフレーターが低下しているため、GDPデフレーターが大幅に上昇している。2023年度のGDPデフレーターは前年比3.2%となり、2022年度の同0.7%から大きく加速するだろう。この結果、2023年度の名目GDP成長率は4.7%となり、1991年度 (5.3%)以来、32年ぶりの高い伸びとなることが予想される[図表4]。
[図表4]名目・実質GDP成長率の推移

5―消費者物価の見通し

消費者物価(生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)は、2023年1月に前年比4.2%と1981年9月以来41年4ヵ月ぶりの高い伸びとなった後、政府による電気・都市ガス代の負担緩和策の影響で2月以降は3%台前半で推移している。しかし、コアコアCPI(生鮮食品及びエネルギーを除く総合)は4%台前半まで伸びを高めており、基調的な物価上昇圧力は一段と高まっている。

物価高の主因となっていた輸入物価の上昇には歯止めがかかっている。このため、今後は原材料コストを価格転嫁する動きが徐々に弱まり、財価格の上昇率は鈍化することが見込まれる。

一方、サービス価格は2023年7月に前年比2.0%となり、2023年のベースアップと同程度まで伸びを高めた。サービス価格は、長期にわたって価格が据え置かれてきたこともあり、上昇率が一段と高まる可能性が高い。

コアCPI上昇率は2023年秋に2%台後半まで鈍化するが、日銀が物価安定の目標としている2%を割り込むのは、輸入物価下落の影響が波及することにより財価格の上昇ペース鈍化が明確となる2024年度入り後となるだろう。

財・サービス別には、2022年度は物価上昇のほとんどがエネルギー、食料(除く生鮮食品、外食)を中心とした財の上昇によるものだったが、2023年度から2024年度にかけては、物価上昇の中心が財からサービスへ徐々にシフトしていくだろう。

コアCPIは、2022年度の前年比3.0%の後、2023年度が同2.8%、2024年度が1.6%と予想する[図表5]。
[図表5]消費者物価(生鮮食品を除く総合)の予測
Xでシェアする Facebookでシェアする

このレポートの関連カテゴリ

経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2023年10月10日「基礎研マンスリー」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【2023・2024年度経済見通し】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

2023・2024年度経済見通しのレポート Topへ