2023年09月20日

貿易統計23年8月-景気停滞に政治問題が加わり、中国向け輸出が低迷

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1.輸出入ともに弱い動き

財務省が9月20日に公表した貿易統計によると、23年8月の貿易収支は▲9,305億円の赤字となり、事前の市場予想(QUICK集計:▲6,431億円、当社予想は▲8,565億円)を下回る結果となった。輸出が前年比▲0.8%(7月:同▲0.3%)と2ヵ月連続で減少したが、輸入が前年比▲17.8%(7月:同▲13.6%)と減少幅が拡大したため、貿易収支は前年に比べ18,599億円の改善となった。

輸出の内訳を数量、価格に分けてみると、輸出数量が前年比▲5.3%(7月:同▲3.2%)、輸出価格が前年比4.7%(7月:同3.0%)、輸入の内訳は、輸入数量が前年比▲7.3%(7月:同▲4.4%)、輸入価格が前年比▲11.2%(7月:同▲9.6%)であった。
貿易収支の推移/貿易収支(季節調整値)の推移
輸出金額の要因分解/輸入金額の要因分解
季節調整済の貿易収支は▲5,557億円と27ヵ月連続の赤字となったが、7月の▲6,002億円から赤字幅が若干縮小した。輸出が前月比▲1.7%の減少となったが、輸入の減少幅(同▲2.1%)がそれを上回った。
原油価格(ドバイと入着ベース)の推移 23年8月の通関(入着)ベースの原油価格は1バレル=82.2ドル(当研究所による試算値)と、7月の80.6ドルから上昇した。足もとの原油価格(ドバイ)は90ドル台半ばまで上昇しており、長期契約で販売する際に指標価格に上乗せされる調整金、船賃、保険料などを含めた通関ベースの原油価格は、9月以降は90~100ドル程度まで上昇することが見込まれる。

22年秋以降、原油価格の下落に伴う輸入価格の低下が貿易赤字縮小につながっていたが、円安が再び進行していることもあり、先行きについては輸入価格上昇が貿易赤字の拡大要因となる可能性が高い。

2.中国向け輸出が低調

23年8月の輸出数量指数を地域別に見ると、米国向けが前年比▲3.6%(7月:同2.5%)、EU向けが前年比1.5%(7月:同▲0.4%)、アジア向けが前年比▲10.4%(7月:同▲10.7%)、うち中国向けが前年比▲15.5%(7月:同▲15.9%)となった。
地域別輸出数量指数(季節調整値)の推移 23年8月の地域別輸出数量指数を季節調整値(当研究所による試算値)でみると、米国向けが前月比0.5%(7月:同1.8%)、EU向けが前月比▲10.1%(7月:同7.3%)、アジア向けが前月比▲2.0%(7月:同0.8%)、うち中国向けが前月比▲0.6%(7月:同▲0.8%)、全体では前月比▲3.3%(7月:同1.8%)となった。

23年7、8月の平均を23年4-6月期と比較すると、米国向けが1.7%、EU向けが3.7%、アジア向けが1.1%高いが、中国向けが▲0.8%低くなっている(全体は1.1%高い)。

中国向け輸出は、中国経済が停滞していることに加え、ALPS処理水放出に伴う日本の水産物に対する通関手続きの厳格化、日本の半導体装置の輸出管理強化などの政治的な要因が下押ししている。23年8月の中国向け輸出のうち、食料品は前年比▲41.2%の大幅減少(7月:同▲23.9%)、半導体製造装置は前年比0.9%(7月:同13.7%)であった。

中国向けの低迷が続くことに加え、先行きについては金融引き締めの影響で景気減速が見込まれる欧米向けも回復ペースが鈍化する公算が大きく、輸出は当面弱めの動きが続くことが予想される。
 
 

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斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2023年09月20日「経済・金融フラッシュ」)

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