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「東京都心部Aクラスビル市場」の現況と見通し(2023年9月時点)
金融研究部 主任研究員 吉田 資
新型コロナウィルス感染拡大への対応で、東京では「在宅勤務」が急速に普及した。都内企業のテレワーク実施率をみると、2022年までは緊急事態宣言・まん延防止等重点措置の発令期間(2021年1~3月、4~6月、7~9月、2022年1~2月)は60%台、それ以外の期間は50%台で推移していた。しかし、2023年に入るとさらに低下し2023年7月は45%となった(図表-15)。また、パーソル総合研究所「テレワークに関する調査」(2023年7月実施)においても、東京都のテレワーク実施率は前年比▲6%低下の39%となっている。新型コロナウィルスの5類感染症移行等に伴い、テレワーク(在宅勤務)実施率は低下傾向にあると言える。
こうしたなか、オフィスの見直しに着手する企業が増えている。月刊総務「オフィスについての調査」(2023年3月発表)によれば、「過去3年間でオフィスの見直しを行った」との回答は59%、「見直しを検討している」との回答が25%を占めた。「オフィスの見直し」の実施内容について、「レイアウトの変更(74%)」との回答が最も多く、次いで、「専有面積縮小(35%)」、「拠点の集約(21%)」、「コワーキングスペースやレンタルオフィスの契約(21%)」との回答が上位であった(図表-18)。「在宅勤務」を取り入れた柔軟な働き方が定着したことで、オフィス拠点集約・統合や賃貸面積の一部解約、自社オフィスからサードプレイスオフィス利用への変更等を実施する企業が増えている模様である。
8 オフィスと在宅での勤務割合
コロナ禍で「在宅勤務」が普及し、オフィスに出社するワーカー数が流動的となるなか、フリーアドレスを導入する動きが広がっている。みずほリサーチ&テクノロジーとアスマークの共同調査9によれば、「直近1ヵ月に実践した働き方」について、「フリーアドレスの出社勤務」との回答が52%を占め、「固定席の出社勤務」(36%)を上回った。オフィスでの勤務においても、従業員が自由に席を選択できる多様な働き方が広がっている。
ザイマックス不動産総合研究所が、東京23区に所在する企業を対象に行った調査10によれば、出社1人あたりの座席(中央値)は、2021年の1.85 席から2022年の1.67席へ減少した。また、「今後の意向」については1.18席と更に縮小している。在宅勤務の普及に伴い出社人数が減少したことで、フリーアドレス等を導入して、座席数の見直し(削減)を行う企業は増えている模様だ。
フリーアドレスは、フレキシブルな働き方に即したオフィスの利用形態である。今後もフリーアドレスの割合を高め、スペース利用の効率化を進める企業は増加すると考えられる。
9 「ワークプレイスの自立的な選択と効果に関する最新データ」(2023年3月時点)
固定席の出社勤務にとどまらない、フリーアドレスをはじめとした多様な働き方を実施する有職者が調査対象。
10 ザイマックス不動産総合研究所「コロナ禍で変わるオフィス面積の捉え方(2022年)」2023年3月14日
コロナ禍以前の「働き方改革」を契機に高まった、従業員満足度の向上や優秀な人材確保などを目的とするオフィス環境整備が継続している。特に、コロナ禍以後、感染症拡大防止や施設利用者の健康に配慮した対応が求められるなか、従業員の「Well-being」に配慮したワークプレイスの構築が求められている。
ザイマックス不動産総合研究所「大都市圏オフィス需要調査2023春」によれば、「メインオフィスを設置する物件にあるとよい要件」として、「ビルの清掃衛生・維持管理状態が良い」(58%)や「自然光が入る」(36%)「ビル内・周辺のアメニティの充実」(31%)が上位に位置している(図表-19)。企業の社会的責任や従業員満足度の向上、人材確保の観点から「Well-being」に配慮したオフィス環境整備が今後も継続すると考えられる。
こうした状況下で、オフィスの役割は、「従業員がコミュニケーションを図り共創する場」と再認識されている。月刊総務「オフィスについての調査」(2023年3月発表)によれば、「これからのオフィスで重視する機能」として、「コミュニケーションスペース」(76%)との回答が最も多く、次いで「Web会議用スペース」(59%)が多かった。「在宅勤務」を取り入れた働き方が定着するなか、オープンなコミュニケーションスペースや、web会議用スペースを整備する企業が増えている。
以上を鑑みると、企業は「Well-being」への配慮や従業員間のコミュニケーション促進を重視し、今後もオフィス環境の整備に積極的に取り組むことが想定される。
3. 東京都心部Aクラスビル市場の見通し
三幸エステートの調査によれば、2023年は、「住友不動産東京三田ガーデンタワー」や「麻布台ヒルズ森JPタワー」、「虎ノ門ヒルズステーションタワー」、「SHIBUYAタワー」等、港区を中心に大規模ビルの竣工が相次ぎ、新規供給面積は前年の約3倍となる約19万坪が見込まれている。
2024年は約7万坪に一旦落ち着くものの、翌2025年は「高輪ゲートウェイ」や「T-2 Project」、「芝浦プロジェクトS棟」等の大規模開発が予定されるなか、新規供給面積は再び約20万坪に達する見通しである。また、2026年以降も10万坪を超える新規供給が続く見込みである(図表-21)。
東京都の就業者数は、情報通信業等を中心に増加し、オフィスワーカーの割合の高い非製造業では人手不足感が強いことから、東京都心部の「オフィスワーカー数」が大幅に減少する懸念は小さい。また、情報通信業や金融業・保険業等では、事業所の開業率が廃業率を大幅に上回っている。今後も、従業員にとって快適なオフィス環境を整備する取組みが継続し、ミーティングスペースや、web会議用スペースを充実させる企業の増加が期待される。
一方、拠点集約や賃貸面積の一部解約、サードプレイスオフィス利用への変更等、オフィス戦略の見直しが継続すると考えられる。また、フリーアドレスの導入が広がるなか、スペース利用の効率化が進むことが予想される。
こうしたなか、都心5区では、多くの大規模開発が進行中である。2024年は、新規供給が一旦落ち着くものの、2025年は約20万坪の大量供給が予定されており、2026年以降も10万坪を超える新規供給が続く見通しである。
以上を鑑みると、東京都心部Aクラスビルの空室率は、2024年にやや改善した後、6%前後で推移することが予想される(図表-22)。また、成約賃料は、現時点(2023年第2四半期)と同水準となる2万6千円近辺で推移すると予測する(図表-23)。
(ご注意)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2023年09月28日「不動産投資レポート」)
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- 【職歴】
2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
2018年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)
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