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「東京都心部Aクラスビル市場」の現況と見通し(2023年9月時点)
金融研究部 主任研究員 吉田 資
1. はじめに
1 本稿ではAクラスビルとして三幸エステートの定義を用いる。三幸エステートでは、エリア(都心5区主要オフィス地区とその他オフィス集積地域)から延床面積(1万坪以上)、基準階床面積(300坪以上)、築年数(15年以内)および設備などのガイドラインを満たすビルからAクラスビルを選定している。また、基準階床面積が200坪以上でAクラスビル以外のビルなどからガイドラインに従いBクラスビルを、同100坪以上200坪未満のビルからCクラスビルを設定している。詳細は三幸エステート「オフィスレントデータ2021」を参照のこと。なお、オフィスレント・インデックスは月坪当りの共益費を除く成約賃料。
2. 東京都心Aクラスオフィス市場の現況
賃料と空室率の関係を表した「賃料サイクル3」をみると、東京オフィス市場は2020年第3四半期以降、「空室率上昇・賃料下落」の局面が継続している(図表-5)。
2 三幸エステートとニッセイ基礎研究所が共同で開発した成約賃料に基づくオフィスマーケット指標。
3 賃料サイクルとは、縦軸に賃料、横軸に空室率をプロットした循環図。通常、(1)空室率低下・賃料上昇→(2)空室率上昇・賃料上昇→(3)空室率上昇・賃料下落→(4)空室率低下・賃料下落、と時計周りに動く。
三鬼商事によれば、東京ビジネス地区(2023年8月時点)で「賃貸可能面積」が最も大きいエリアは、「港区(32.2%)」で、次いで「千代田区(29.3%)」、「中央区(17.9%)」、「新宿区(12.5%)」、「渋谷区(8.2%)」の順となっている(図表-6)。
「賃貸可能面積」は、「千代田区」(前年同月比▲4.1万坪)、「中央区」(同▲1.4万坪)、「渋谷区」(同▲0.2万坪)で減少する一方、「港区」(同+12.0万坪)と「新宿区」(同+1.3万坪)で増加し、合計+7.6万坪となった。これに対して、テナントによる「賃貸面積」は、「港区」(同+8.0万坪)と「新宿区」(同+1.6万坪)で増加し、合計+7.8万坪となった(図表-7)。この結果、空室面積は、東京ビジネス地区全体で▲0.2万坪の減少となった。
以下では、(1)「オフィスワーカー数の動向」、(2)「事業所の開業率と廃業率の動向」、(3)「在宅勤務の状況」、(4)「フリーアドレス4の導入状況」、(5)「オフィス環境整備の方針」について概観し、今後のオフィス需要への影響を考察する。
4 従業員が固定した自分の座席を持たず、業務内容に合わせて就労する席を自由に選択するオフィス形式。
5 従業員数が「不足気味」と回答した割合から「過剰気味」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど雇用環境の悪化を示す。
国や地域における経済活動の状況を測る指標の一つに、開業率と廃業率が挙げられる。事業所の開業率と廃業率の差(開業率-廃業率)は、オフィス床の需要を表す指標と考えられる。「開業率-廃業率」の値が拡大した地域は、事業所を開設する需要が高まる一方、「開業率-廃業率」の値が縮小した地域は、事務所開設の需要が後退すると捉えられる。
総務省統計局「経済センサス‐活動調査」をもとに算出した値によれば、都心5区の開業率6(2016年~2021年の年平均)は9.1%(全国平均4.7%)、廃業率7は8.0%(同5.5%)となり、「開業率-廃業率」は+1.1%(同▲0.8%)となった(図表-11)。「開業率-廃業率」の全国平均は、廃業率が開業率を上回りマイナスとなった一方で、都心5区ではプラスを維持しており、底堅いオフィス床需要が確認できる。区別に「開業率-廃業率」を確認すると、千代田区(+3.0%)が最も大きく、次いで渋谷区(2.1%)が大きい。一方、中央区(▲1.1%)はマイナスとなった。
政府は「スタートアップ育成5か年計画」を2022年11月に策定し、創業支援に乗り出している。今後、創業支援の取組みが効果を発揮し、オフィス床需要を下支えすることが期待される。
6 新設事業所数(2016年~2021年の年平均)÷期首(2016年)の事業所数
7 廃業事業所数(2016年~2021年の年平均)÷期首(2016年)の事業所数
(2023年09月28日「不動産投資レポート」)
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03-3512-1861
- 【職歴】
2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
2018年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)
吉田 資のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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