2023年09月26日

金融アドバイザーへの潜在ニーズが高い米国生保市場-低いオンラインによる保険加入ニーズ-金融アドバイザーを経由しての保険加入は、満足度が大きく上昇-

保険研究部 上席研究員 兼 気候変動リサーチセンター 気候変動調査部長 有村 寛

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1――はじめに

生保・年金のマーケティングに関する代表的な調査・教育機関であるリムラは、世界12市場の成人消費者25歳から55歳を対象にオンラインで調査した結果を公表しており1、その中で相談できる金融アドバイザーの有無、信頼度等に関する各国の状況について、2023年2月8日付保険・年金フォーカス「コロナ禍を経て世界では金融アドバイザーが果たす役割が増大-日本とは大きく異なる各国の状況-」において紹介した。

ここでは、世界最大の保険マーケットを抱える米国の状況について、その後の調査により追加で入手できた情報等も加えて整理し、紹介したい。
 
1 LIMRA「Global Consumer Pulse 2022」2022年9月19日。当調査は、2022年の初頭に、世界12の市場の25~55歳の成人消費者を対象に、オンラインで行われたものである。12市場ならびに各市場における回答者数はつぎの通り。中国 2562、インド2577、マレーシア1563、タイ1581、香港1263、台湾1554、シンガポール1261、韓国1271、日本2567、フランス1562、イギリス1584、ブラジル1560。

2――米国における金融アドバイザーの活用状況、ニーズ

2――米国における金融アドバイザーの活用状況、ニーズ

米国では、相談できる金融アドバイザー2がいる人の割合は2022年で42%と、リムラが調査対象とした各国の中でも、さほど高いほうではない(図表1)。
【図表1】相談できる金融アドバイザーを持つ消費者(2022年)
一方、オンラインでの加入を希望する人の割合は各国に比べても著しく低い(図表2)。
【図表2】生保に加入するとした場合のインターネット利用方法(2022年)
また、米国生命保険協会(ACLI)等が45歳-65歳の被用者1003名に対して行った調査によれば(図表3)、「人々は、自分のニーズに合った商品やサービスを提供する様々なタイプの金融アドバイザーを活用・相談する選択肢を持つべきである。」との意見に対し、91%が「そう思う」うち、60%が「強くそう思う」と回答しており、金融アドバイザーに対する潜在的ニーズは高いものと推察される3
【図表3】金融アドバイザーに対するニーズ(米国)
 
2 LIMRA「Global Consumer Pulse 2022」によれば、金融アドバイザー(financial advisor)とは、保険や投資、貯蓄の相談をする人を指す。なお、MORNING CONSULT,ACLI「RETIREMENT PLANNING」(MAY 2023)等、一部ではFinancial Professionalsとしているものもあるが、ここでは併せて金融アドバイザーと記すこととする。
3 また、2022年12月26日付保険毎日新聞「MDRT 日米の消費者意識調査 記者説明会 保険市場の需要動向探る ファイナンシャル・アドバイザーの役割説明」では、同年11月29日に行われたオンライン記者説明会において、MDRTMDRT米国本部副会長のグレゴリー・ガニェ氏による「金融知識の浅い人はもちろん、投資にある程度の知識を持つ人々の間でも、フ ァイナンシャル・アドバイザーの存在は欠かせないことが分かる」との発言が掲載されている。

3――金融アドバイザー対する満足度は高い

3――金融アドバイザー対する満足度は高い

図表はないが、リムラによれば、金融アドバイザー通して保険加入した人達の8割は、「相談してとてもよかった」、としており、また、相談できる金融アドバイザーがいる世帯のうち、77%は、「自分の金融アドバイザーを他人に薦める可能性が非常に高い」と回答する等4、金融アドバイザーに対する満足度は高い。

また、Northwestern Mutualが実施した調査によると(図表4)、金融アドバイザーを活用・相談している人は、そうでない人に比べ、「長期的な経済的安定を得ることができている」(28ポイント高)、「予期しない事態への準備ができている」(31%ポイント高)など、さまざまな分野で安心感が大幅に高いことが示されている。
【図表4】金融アドバイザーの有無による安心感の差
なお、保険に加入しない理由のトップは「保険料が高すぎる」となっているが(図表5)、リムラによれば、金融アドバイザーに相談した人は、保険料が高すぎることを理由に保険加入しない人の割合が大幅に減少するという5
【図表5】米国消費者が保険に加入しない(or増額しない)理由
 
4 LIMRA「Financial Professionals and the Individual Life Insurance Purchase」(2023年4月5日)。
5 LIMRA「Financial Professionals and the Individual Life Insurance Purchase」(2023年4月5日)によれば、保険に加入(または増額)しなかった理由として「保険料が高すぎる」ことをあげた人の割合は、ウェブサイトより見積もりを入手した人が44%だったことに対して、金融アドバイザーから入手した人は8%だったとのことである。

4――おわりに

4――おわりに

米国では、金融アドバイザーがいる人の割合は、各国に比べると特に高い訳ではないが、これまで述べてきとおり、オンラインでの保険加入ニーズも低く、金融アドバイザーに対する潜在ニーズは高いことが推察され、実際、金融アドバイザーに対する満足度も高い状況にある。

特に、金融アドバイザーに相談した人は、そうでない人と比較して、保険に加入または増額しなかった理由として、保険料が高いと回答することが大幅に減少していることは、保険に対する理解が進んだ結果、とも考えられ、非常に興味深い。

米国生命保険市場は、保険ギャップが大きく、保険に対する潜在ニーズも高いと考えられる6中で、消費者は、金融アドバイザーとの対面での会話を通じて、彼らを信頼して保険に加入するもので、保険は人から勧められなければ加入しない旨、ウォール・ストリート・ジャーナルも報じてい7

世界最大の保険マーケットを抱える米国の動向については引き続き、注視していきたい。
 
6 米国消費者の生保ニーズギャップについては、小著「米国消費者の生保加入動向」『保険・年金フォーカス』(2023年3月28日)において、リムラの推計によれば「約4200万人が1年以内に保険に加入する意図がある」ことを紹介している。
7 2023年5月8日付保険毎日新聞「海外トピックス 米国 金利引上げで好機到来 生命保険ビジネスはどうなるか 個人向け市場では相互保険会社が伸長」では、同年4月18日付のウォール・ストリート・ジャーナル記事を紹介しており、そこでは、「彼ら(=代理店)はキッチンで主婦たちと親しく話ができるため、消費者が信頼して保険を買うようになるのだ。保険という商品は、人から勧められなければ買わないものだ。」とされている。
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保険研究部   上席研究員 兼 気候変動リサーチセンター 気候変動調査部長

有村 寛 (ありむら ひろし)

研究・専門分野
保険商品・制度

経歴
  • 【職歴】
    1989年 日本生命入社
    1990年 ニッセイ基礎研究所 総合研究部
    1995年以降、日本生命にて商品開発部、法人営業企画部(商品開発担当)、米国日本生命(出向)、企業保険数理室、ジャパン・アフィニティ・マーケティング(出向)、企業年金G等を経て、2021年 ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月より現職

(2023年09月26日「保険・年金フォーカス」)

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