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気候変動とダニ媒介感染症-極端な気象は、感染症にどのような変化をもたらすのか?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
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1――はじめに
気候変動は、人間の生命や健康にも、さまざまな形で影響を与える。気候変動に起因した風水災に伴う人身被害や、酷暑・猛暑のなかでの熱中症の発生は、気候変動との関連が比較的わかりやすい。もう1つ危惧されているのが、気候変動に伴う感染症の蔓延であろう。温暖化に伴い、感染症を媒介する生物の活動範囲が変化することが考えられる。蚊が媒介する熱帯性の感染症については、前回の稿1で見ていったので、今回は、ダニが媒介する感染症について見ていくこととしたい。
昨年、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)のWG2(第2作業部会)が公表した第6次評価報告書(以下、「IPCC報告書」と呼称)では、気候変動と感染症の関係について、これまでのさまざまな研究の結果がまとめられている。それらの研究内容をもとに、気候変動が感染症の変化を通じて、生命や健康に与える影響を見ていくこととしたい。
1 「気候変動と蚊媒介感染症-極端な気象は、感染症にどのような変化をもたらすのか?」篠原拓也(ニッセイ基礎研究所, 基礎研レター, 2023年9月12日)
2――ダニ媒介感染症
ダニには種類があり、大きくは家屋などに生息する“屋内塵性ダニ類”と、屋外にいるマダニ等に分かれる。屋内塵性ダニ類として、ヒョウヒダニ類、コナダニ類、ツメダニ類、イエダニが挙げられる。ヒョウヒダニはアレルギーの原因となる。コナダニが梅雨時などに大発生すると、それを捕食するツメダニの増加につながり、ツメダニがまれに人を刺すことがある。イエダニは、人を刺して吸血する。体長は、コナヒョウヒダニ、ケナガコナダニは0.3~0.4mm。フトツメダニは0.3~1mm。イエダニは0.6~1mmと小さく、肉眼では見づらい。2
これに対して、マダニは、吸血前は3mm程度だが、吸血すると10~20mmの大きさとなり、肉眼でもはっきりと見ることができる。マダニは、日本全国で自然環境が豊かな場所に多く生息し、市街地周辺でも畑やあぜ道などにいる。マダニは、感染症を媒介する。3
2 「ダニを知る」(アース製薬, 害虫駆除なんでも事典)を参考に、筆者作成。
3 「マダニにご注意! ~マダニQ&A~」(東京都健康安全研究センターHP) を参考に、筆者作成。
4 分類学上では、マダニは、節足動物門鋏角亜門クモ綱ダニ目マダニ亜目マダニ科に属するダニの総称。つつが虫は、ダニ目ツツガムシ科のダニの総称。
5 1944~45年に中央アジアのクリミア地方で野外作業中の旧ソ連軍兵士の間で、重篤な出血を伴う急性熱性疾患が発生した。このときに患者血液やダニからウイルスが分離され(クリミア出血熱ウイルス)、そのウイルスが1956年にアフリカのコンゴで分離されたウイルス(コンゴウイルス)と同一であることが明らかにされた。そのため、「クリミア・コンゴ出血熱ウイルス」の名前がつけられたという。(「感染症の話-クリミア・コンゴ出血熱」(国立感染症研究所, 感染症発生動向調査週報, 2002年第31週(7月29日~8月4日(通巻第4巻 第31号))をもとに、筆者作成)
6 SFTSは、Severe Fever with Thrombocytopenia Syndromeの略。
7 「マダニ感染、最多ペース 死亡例も - 草むらに生息、北日本に分布拡大 肌露出控えて」(日本経済新聞, 2023年9月5日)
ダニ媒介感染症への厚生労働省のホームページ記載されている、予防と処置について簡単に見ておこう。8
8 「ダニ媒介感染症」(厚生労働省HP)をもとに、筆者作成。
予防策として、マダニに咬まれないように注意することが挙げられる。具体的には、草むらや藪など、マダニが多く生息する場所に入る場合には、長袖・長ズボンを着用。シャツの裾はズボンの中に入れ、ズボンの裾は靴下や長靴の中に入れる。サンダル等の使用は避けて、足を完全に覆う靴を履く。帽子、手袋を着用し、首にはタオルを巻くなど、肌の露出を少なくすることが重要となる。
また、マダニを目視で確認するために、服は、明るい色のものがすすめられる。虫除け剤の中には服の上から用いるタイプがあり、補助的な効果があると言われている。屋外活動後は入浴して、マダニに刺されていないか確認する。特に、わきの下、足の付け根、手首、膝の裏、胸の下、頭部(髪の毛の中)などがポイントとなる。
(2) 処置
マダニは人や動物に取り付くと、皮膚にしっかりと口器を突き刺し、長時間(数日~10日間以上)吸血する。刺されたことに気がつかない場合も多いと言われる。
吸血中のマダニに気が付いた場合、無理に引き抜こうとするとマダニの一部が皮膚内に残って化膿したり、マダニの体液を逆流させてしまったりする恐れがある。皮膚科等の医療機関で処置(マダニの除去、洗浄など)を受けることがすすめられる。また、咬まれた後、数週間程度は発熱等の体調変化に注意し、症状が認められた場合は医療機関で診察を受けることが重要となる。
(2023年09月26日「基礎研レター」)

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
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