2023年09月13日

住宅ローンの固定金利利用率、アメリカが9割超に対して日本は1割未満にとどまる~日本では低金利が続いていたからなのか~

金融研究部 客員研究員 小林 正宏

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1.日米の住宅ローンの金利タイプ別利用状況

前号で、<アメリカでは住宅ローンは「30年固定」が一般的で、足元では変動金利の利用も若干増えているが、なお1割未満>である旨を書いたが、日本では状況が全く異なる。

住宅金融支援機構の調査によれば、日本では2022年10月から2023年3月に住宅ローンを利用した者のうち、全期間固定型を選択したのは9.3%に過ぎない1。同じ時期、アメリカでは91.4%が固定金利を選択しており、日米で真逆の様相を呈している(図表1)。

日本では長年、低金利の状況が続き、アメリカのように急激に上昇することを経験してこなかった。変動金利タイプの金利水準は優遇後でネット銀行では0.3%前後まで低下しており、主要行で見ても、全期間固定金利タイプの代表格である【フラット35】との金利差は1%を超えている(図表2)。優遇の実態は不明だが、各種統計から大半は優遇金利が適用されていると推測される。
図表1 日米の固定と変動の比率/図表2 日本の住宅ローン金利の推移
 
1 アメリカでは日本の固定期間選択型に相当する商品はHybrid ARM(Adjustable Rate Mortgage)と呼ばれ、変動金利型に分類される。このため、図表1では日本の固定期間選択型は変動金利に含めてカウントしている。

2.日本の固定金利と日米比較

2.日本の固定金利と日米比較

日本でもかつて住宅金融公庫の直接融資は日本の住宅ローン新規貸出額の3~4割程度を占めていた(図表3)。その高いシェアゆえに民業圧迫批判が巻き起こり、住宅金融公庫は2007年に廃止されたが、固定金利は必要ということで、住宅金融支援機構が設立され、市場機能を活用して【フラット35】等を提供している。住宅金融公庫の直接融資は財政投融資からの借入を原資に、一般会計から収支差補給金を受け、低利の融資を実現していた。一方、フラット35においては、民間金融機関が融資した住宅ローン債権を住宅金融支援機構が買い取り、証券化してMBS2(住宅ローン担保証券)を発行して市場から資金調達している。これはアメリカのファニーメイ等が実施している第二次市場機能を模した仕組みである。
図表3 公庫融資・フラット35のシェア(3月末)/図表4 固定金利の構成要素
図表5 住宅ローン金利と長期金利の差/図表6 日本の長期・超長期金利動向等
【フラット35】の金利構成要素は、MBSの利回りに、発行体(=住宅金融支援機構)の費用と、住宅ローンを融資しその後の期中の債権管理を実施する民間金融機関(=サービサー)の費用に分解される(図表4)。MBSの利回りは、無リスク資産である国債の利回りをベンチマークとし、固定金利の住宅ローンに特有の繰上償還のオプション相当のプレミアムが加算され、それに発行体の破綻リスクや当該債券の流動性リスク等を含めたOAS3と呼ばれる部分を市場参加者が評価して決定される。一方、機構MBSやファニーメイのMBSにおいては、原債権である住宅ローンに焦げ付きが生じても投資家に対する元利払いは発行体が保証している。このため、債務者の信用リスクを投資家に移転せずに、機構やファニーメイが負担しており、その費用も含め、発行体が一定のスプレッドを上乗せする。更に、サービサーも独自にフィーを設定し、それらを積み上げると住宅ローンの金利が仕上がる形となる。

日米の金利水準自体や住宅ローンの延滞率等が相当違うので単純には日米比較はできないが、固定金利タイプの住宅ローン金利と10年国債の利回りのスプレッドを確認すると、住宅金融支援機構が設立された2007年以降、日本のスプレッドはアメリカよりも低く推移している(図表5)。機構MBSの発行利回りと長期・超長期の国債の利回りを比較しても、概ね安定的に推移している(図表6)。なお、図表5で2000年以前に日本の数値がマイナスとなっているのは前述のとおり公庫時代に逆鞘で補給金を受け取っていたからである。また、アメリカで2008年と2020年にスプレッドが拡大したのは、リーマン・ショックやコロナ禍の中で「質への逃避」により国債の利回りが急低下した局面で、MBSの利回りはそれほど低下しなかったことが主な要因である。一方、足元の金利上昇局面においては、低金利時代に固定金利で借りた利用者が住宅ローンをそのまま保持した方が得なので繰上償還が減少し、MBSの加重平均年限が伸びることで、スプレッドが拡大するというテクニカルな理由が存在する。
 
2 Mortgage Backed Securities
3 Option Adjusted Spread(オプション調整後スプレッド)

3.利用者のリスク認識と規制

3.利用者のリスク認識と規制

2021年以降、アメリカでは変動金利タイプの利用が若干増えている。フレディマックの週次の統計では変動金利タイプの金利水準の集計が2022年で終了したので足元の状況は不明だが、2021年から2022年にかけて固定金利が変動金利と比較して相対的に高くなり(図表7)4、結果として変動の利用が僅かであっても増えたと考えられる(図表8)。ただし、固定と変動の金利差としては、現状では日米でさほど大きな差異はない。

アメリカでもリーマン・ショック前は変動金利の利用率が3割程度に達した時期もあったが、変動金利のリスクを十分に説明せずに金利上昇のリスクが顕在化して返済困難となる者が続出した。その後、当局が金融機関に対して金利変動リスクの説明義務を強化したこともあり、9割程度が固定金利タイプとなっている旨は前号でも触れた。アメリカではファニーメイ等の証券化に資金調達を依存するノンバンクのシェアが高く、それらは基本的に固定金利で融資することになる5が、商業銀行においても、固定金利で融資した方が対顧客説明義務の負担が軽減されることから敢えて変動金利を勧めないとも言われる。

日本でも、2004年に全国銀行協会は「住宅ローン利用者に対する金利変動リスク等に関する説明について」の申し合わせを踏まえ、金利変動型または一定期間固定金利型の住宅ローンについては、金利変動リスクについての十分な説明をすることとしており、現状、変動金利タイプを選択している利用者はそのような説明を受けて理解した上で、自己責任において変動金利タイプを選択しているということになる。
図表7 アメリカの固定と変動の金利の推移/図表8 アメリカの住宅ローン金利タイプ別利用率
図表9 FF実効金利とインフレ率/図表10 日本の住宅ローン選択行動
ただし、アメリカでは説明内容がより具体的に指示されている。変動金利でも上限金利(キャップ)が設定されている場合は、その上限金利に達した場合の返済額を試算することが求められる(米国の専門家に聞くとこのケースが多いようである)。日本ではキャップが設定されているケースはあまり聞かない。逆に、キャップがない場合は、1977年以降の金利変動を参照して15年分の返済額を試算しなければならない。当時はインフレが高進し、FRBのボルカー議長の下で強烈な金融引締めが実施され、FF実効金利は20%に迫る勢いであった(図表9)。日本でも図表2で見たように90年代に変動金利の住宅ローン金利が8.5%に達し、返済額には見直し後に25%増までの上限が設定されていたために金利支払い額が足りず、元本に加算される「元加」が問題とされた時期もあった(実際は未収利息の発生にとどまり、元加は適用されなかったとの話もある)。

しかし、アメリカほどは金利変動リスクの説明を細かく求められないが、日本でも金融機関は十分な説明をしているものと思われる。その上で、利用者の側からすると、ここまで長期に亘り固定と変動との金利差が広がると、ある程度のリスクは認識しつつも、当初の返済額が低く抑えられる変動金利タイプを選択することになるのであろう。住宅ローンを実際に利用した者では固定金利を選択した者は1割程度である一方、今後5年以内に住宅ローンを利用して住宅を取得する計画がある「利用予定者」に対する調査では、3割程度が固定金利を希望している(図表10)。言い換えれば、最初のうちは支払額が一定となる固定金利を選択した方が良いと思った人も、いざ物件を購入してローンを組む段になると、毎月の返済額が当面は数万円単位で違う固定金利は避けてしまう人が2割程度存在するということである。
 
4 日本と同じ毎年金利が更改されるタイプの変動金利のデータがないため、図表7ではデータの存在する「5/1 ARM」で代用している。
5 例えばFHFA(連邦住宅金融庁)によれば、ファニーメイの場合、連邦政府プログラムに依拠しない通常の(Conventional)証券化された個人向け住宅ローンの2022年末の残高3兆5,852億ドル余のうち、99%超の3兆5,548億ドル余が固定金利となっている。
6 Mortgage Bankers Association(全米抵当銀行協会)
7 Home Mortgage Disclosure Act(住宅ローン開示法)

(2023年09月13日「基礎研レポート」)

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金融研究部   客員研究員

小林 正宏 (こばやし まさひろ)

研究・専門分野
国内外の住宅・住宅金融市場

経歴
  • 【職歴】
     1988年 住宅金融公庫入社
     1996年 海外経済協力基金(OECF)出向(マニラ事務所に3年間駐在)
     1999年 国際協力銀行(JBIC)出向
     2002年 米国ファニーメイ特別研修派遣
     2022年 住宅金融支援機構 審議役
     2023年 6月 日本生命保険相互会社 顧問
          7月 ニッセイ基礎研究所 客員研究員(現職)

    【加入団体等】
    ・日本不動産学会 正会員
    ・資産評価政策学会 正会員
    ・早稲田大学大学院経営管理研究科 非常勤講師

    【著書等】
    ・サブプライム問題の正しい考え方(中央公論新社、2008年、共著)
    ・世界金融危機はなぜ起こったのか(東洋経済新報社、2008年、共著)
    ・通貨で読み解く世界経済(中央公論新社、2010年、共著)
    ・通貨の品格(中央公論新社、2012年)など

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