2023年09月07日

マンション価格は上昇継続。ホテル市況はコロナ禍前に近づく-不動産クォータリー・レビュー2023年第2四半期

基礎研REPORT(冊子版)9月号[vol.318]

金融研究部 准主任研究員 渡邊 布味子

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日本経済は、経済社会活動の正常化に伴い回復の動きが続いている。2023年4-6月期の実質GDPは3四半期連続のプラス成長となった。

住宅市場では、価格が上昇するなか、マンションの新規発売戸数や成約件数は減少傾向にある。東京オフィス市場では成約賃料の下落傾向が続く。東京23区のマンション賃料は全タイプが前年比プラスとなった。ホテル市場は2023年4-6月の延べ宿泊者数が2019年対比で▲4.6%の水準まで回復した。物流賃貸市場は、首都圏では新規供給の影響を受けて空室率が高止まりしている。2023年第2四半期の東証REIT指数は+4.3%上昇した。

1―経済動向と住宅市場

2023年4-6月期(1次速報)の実質GDPは前期比+1.5%(前期比年率+6.0%)と3四半期連続のプラス成長、外需が成長率を押し上げたほか、インバウンド需要の回復を主因としたサービスの増加が寄与した。

4-6月期の鉱工業生産指数は前期比+1.3%と3四半期ぶりの増産となった[図表1]。業種別では、供給制約緩和により自動車が高い伸び(前期比+5.9%)となったほか、鉄鋼(+1.9%)、非金属(+2.1%)、電子部品・デバイス(+2.8%)も堅調な動きとなった。
[図表1]鉱工業生産(前期比)
住宅市場では住宅価格が上昇するなか、住宅供給量は減少している。

4-6月の累計は、それぞれ新設住宅着工戸数が前年同期比▲4.7%、首都圏のマンション新規発売戸数が▲18.8%、首都圏の中古マンション成約件数が▲1.9%といずれも減少した。

また、5月の首都圏の中古マンション価格の過去1年間の上昇率は+4.6%となった[図表2]。
[図表2]不動研住宅価格指数(首都圏中古マンション)

2―地価動向

地価は住宅地、商業地ともに上昇基調が継続している。国土交通省の「地価LOOKレポート(2023年第1四半期)」によると、全国80地区のうち上昇が「73」、横ばいが「7」、下落が「0」となった[図表3]。同レポートでは、「住宅地では、マンション需要に引き続き堅調さが認められたことから上昇が継続。商業地では、人流の回復傾向を受け、店舗需要の回復が見られたことなどから上昇傾向が継続した」としている。

なお、野村不動産ソリューションズによると、首都圏の住宅地価格は12期四半期連続でプラスとなった。東京都心5区を中心に価格上昇が続いているが、周辺区では横ばい地点が増加しており、全般的に価格の上昇ペースは弱まりつつあるようだ。
[図表3]全国の地価上昇・下落地区の推移

3―不動産サブセクターの動向

1|オフィス
三鬼商事によると、2023年6月の東京都心5区の空室率は6.48%(前月比+0.32%)、平均募集賃料(月坪)は35カ月連続下落の19,838円(前月比▲0.2%)となった。他の主要都市をみると、建て替えによるオフィス床面積の減少などによって札幌の空室率が低位(2.18%)で推移する一方、横浜と福岡が新規供給の影響から6%台に上昇するなど都市間によって空室率の水準に差が生じている[図表4]。募集賃料は札幌・横浜・名古屋・福岡は前年比プラスとなっている。
[図表4]主要都市のオフィス空室率
また、成約賃料データに基づく「オフィスレント・インデックス(2023年第2四半期)」によると、東京都心部Aクラスビル賃料は25,655円(前期比▲6.6%)に下落し、空室率は5.9%(前期比+1.2%)に上昇した[図表5]。

新築ビルは依然としてテナント誘致に時間を要する傾向にあり、今後は2次空室の発生も懸念される。
[図表5]東京都心部Aクラスビルの空室率と成約賃料
2|賃貸マンション
2023年第1四半期の東京23区のマンション賃料は前年比でシングルタイプが+1.7%、コンパクトタイプが+1.1%、ファミリータイプが+5.0%と全ての住居タイプが前年比でプラスとなった[図表6]。

総務省によると、東京23区の転入超過数(2023年4-6月累計)は+4.7万人(2019年同期比▲10%)となった。年後半も転入超過のトレンドを維持できるかどうかが注目される。
[図表6]東京23区のマンション賃料
3|商業施設・ホテル・物流施設
商業セクターは、インバウンド消費が好調な百貨店を中心に売上が回復している。商業動態統計などによると、2023年4-6月の小売販売額(既存店、前年同期比)は百貨店が+7.5%、コンビニエンスストアが+4.5%、スーパーが+2.9%となった。

ホテル市場は、日本人の宿泊需要にやや頭打ち感がみられるものの、インバウンドの宿泊需要が順調な回復を示している。宿泊旅行統計調査によると、2023年4-6月累計の延べ宿泊者数は2019年対比で▲4.6%の水準まで回復し、このうち日本人が▲3.4%、外国人が▲9.4%となった[図表7]。
[図表7]延べ宿泊者数の推移(2019年同月比、202年1月~2023年6月)
物流賃貸市場は、CBREの調査によると、首都圏の大型マルチテナント型物流施設の空室率(6月末)は8.2%(前期比±0%)、近畿圏の空室率は3.2%(前期比▲1.4%)に低下した[図表8]。
[図表8]大型マルチテナント型物流施設の空室率

4―J -REIT(不動産投信)市場

2023年第2四半期の東証REIT指数(配当除き)は3月末比+4.3%となり、四半期ベースでは8期ぶりの上昇となった。セクター別では、主に住宅セクターが市場の上昇を牽引した[図表9]。
[図表9]東証REIT指数の推移()2022年12月末=100
6月末時点のバリュエーションは、16.9兆円に対して時価総額は15.7兆円でNAV倍率 は0.93倍、10年国債利回りに対するイールドスプレッドは3.7%となっている。

J-REITによる第2四半期の物件取得額は2,398億円(前年同期比+114.9%)、上期累計(1-6月)では6,072億円( 同+29%)となり、大きく落ち込んだ昨年から大幅に増加した。アセットタイプ別では、オフィスビル(35%)・物流施設(32%)・住宅(16%)・商業施設(10%)・ホテル(6%)・底地ほか(1%)となり、投資口価格の上昇を背景に物流施設を中心に大型物件の取得がみられた。

上期のJ-REIT市場では、金利上昇に対する警戒感から下値を探る展開が続いたものの、4月以降、植田日銀新総裁が現在の金融政策を当面維持するとの見方から上昇に転じ、昨年末の水準を概ね回復した。もっとも、海外資金の大量流入を受けてバブル崩壊後33年ぶりの高値更新に沸く株式市場に対しては大幅にアンダーパフォームする結果となった。
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金融研究部   准主任研究員

渡邊 布味子 (わたなべ ふみこ)

研究・専門分野
不動産市場、不動産投資

経歴
  • 【職歴】
     2000年 東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行
     2006年 総合不動産会社に入社
     2018年5月より現職
    ・不動産鑑定士
    ・宅地建物取引士
    ・不動産証券化協会認定マスター
    ・日本証券アナリスト協会検定会員

    ・2022年、2023年 兵庫県都市計画審議会専門委員

(2023年09月07日「基礎研マンスリー」)

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