2023年09月05日

人生100年時代のシングル高齢者の不安と備え~未婚女性はポジティブで備えも進み、未婚男性はネガティブで備え不足

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子

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3――長い老後資金に関する不安と備え

ここからは、長い老後に向けたお金の不安と備えについてみていきたい。まず、老後の生活資金に対する不安の有無を分析したものが図表6である。全体的に、「とても不安」と「どちらかといえば不安」を合わせた不安層が、「あまり不安ではない」と「不安ではない」を合わせた非不安層を、やや上回る結果となっており、お金の不安は、多くの高齢者に共通していることが分かる。

性・配偶関係別にみると、とりわけ大きな差は見られないものの、「離別・死別男性」は「とても不安」が唯一2割を超え、他の属性よりもやや大きい。筆者のレポート「シングル高齢者の増加とその経済状況~未婚男性と離別女性が最も厳しい」で見たように、「離別・死別男性」は、資産額が100万円未満の低資産層が「未婚男性」に次いで多い約3割に上っており、経済的な支えの無さを悲観しているとみられる。一方、低資産層が4割、かつ年金収入0円層が1割で、ともに最大だった「未婚男性」は、生活資金への不安については、他の属性とあまり差がなく、将来見通しにおいては楽観的な傾向があるようだ。
図表6  性・配偶関係別にみた高齢者の老後の生活資金の不安
次に、実際の備えの状況を分析したものが図表7である。まず、最も一般的な「預貯金」を見ると、男性は各配偶関係の5~7割、女性は各6~8割が備えており、女性の方が堅実さが伺える。最も割合が大きいのは「未婚女性」の8割強、最も小さいのは「未婚男性」の5割弱である。「未婚女性」について他の資産の状況をみると、3割弱がNISA(小型投資非課税制度)も行っており、積極的に生活資金を蓄えている。自身が希望する長寿に向けて、着々と準備を進めている様子が伺える。一方、未婚男性の過半数は預貯金がない。

次に、図表7の下から2番目の「準備していない」をみると、未婚男性では最大の4割弱に上った。また、男女で同じ配偶関係同士を比べると、いずれにおいても、準備していない割合は、男性が女性よりもやや大きかった。筆者のレポート「シングル高齢者の増加とその経済状況~未婚男性と離別女性が最も厳しい」で報告したように、男性は女性よりも現在や現役時代の収入が高いのだが、にもかかわらず、預貯金をしていない人が女性より多い。従って、収入不足だけが蓄え不足の要因とは言えず、将来を見据えた計画的な備えが苦手なようである。
図表7 高齢者が老後の生活資金の備えとして行っていること

4――病気やケガへの不安と備え

4――病気やケガへの不安と備え

ここからは、長寿に伴う病気やケガの不安についてみていきたい(図表8)。いずれの属性でも、「とても不安」と「どちらかと言えば不安」を合わせた不安層が6~7割を占めており、老後の病気やケガへの経済的不安は、性・配偶関係に関係なく、広く共通していることが分かった。不安層が最大だったのは「未婚男性」で、唯一、7割を超えた。「とても不安」に限ると、「離別・死別男性」、「未婚女性」、「離別・死別女性」では、いずれも2割を超えて多かった。
図表8 性・配偶関係別にみた高齢者の病気・ケガへの経済的不安
実際の、病気やケガへの備えの状況をみると、いずれの属性でも、預貯金と生命保険を行っている人が5~7割に上り、資産の中でトップ2だった(図表9)。生活資金への備え同様に、「未婚女性」は預貯金をしている人が7割を超え、すべての属性の中でトップだった。逆に、「準備していない」が多いのは、「未婚男性」(約3割)、「離別・死別男性」(約2割)、「離別・死別女性」(約2割)だった。

上述の不安と合わせてみると、未婚女性は、預貯金の備えをしている人が多いにも関わらず、病気やケガへの経済的不安を強く感じている人が多かった。未婚女性は、堅実に生活し、計画的な備えもある割には、不安を感じやすいと言えそうだ。
図表9 高齢者が病気・ケガの経済的不安に備えて行っていること

5――終わりに

5――終わりに

本稿までの一連の分析から、増加するシングル高齢者の姿が浮かび上がってきた。最も特徴的だったのは、未婚女性である。毎日よく歩き、客観的健康状態をよく保ち、長生きすることに意欲的で、経済的な備えも進んでいる。「人生100年時代」の「ポジティブ高齢者」の最前線にいるとも言えるだろう。

長生きすることに対しては、従来は、孫やひ孫に囲まれている高齢者の方が、希望が強いと予想する人も多かったかもしれないが、分析結果は、家族の状況で決まる訳ではないことを示した。むしろ最近では、高齢者の生きがいは、子や孫の成長とは限らず、旅行や娯楽など、個人のライフスタイルに応じて多様化してきているということかもしれない。いわば、家族に囲まれて生活することだけが長生きへの希望につながる訳ではなく、シングルであっても、気心の知れた仲間を見つけて(兄弟姉妹ということもあるかもしれない)、楽しみを見つけ、生きがいを持っている人が、長い老後へのポジティブさを獲得するのではないだろうか。高齢者市場に携わる企業は、そのような高齢者側の意識やライフスタイルの変化に応えて、多様なサービスを開発、提供することが期待されていると思われる。

一方で、そのようにポジティブな未婚女性であっても、主観的健康観がやや悲観的であることは気がかりだ。一言で言えば「心配しやすい」とも言えるが、主観的健康観は、「今日は調子が良い」と自覚できることであり、QOLにつながるため、高い方が望ましい。有配偶の方が、男女いずれも主観的健康観が高いことを鑑みると、「何かあっても、近くに頼れる人がいる」という安心感がある方が、食欲や睡眠といった生活リズムを整えることにつながり、プラス効果を及ぼしているようにも見える。日々、心身の衰えを自覚している高齢者にとっては、健康に気をつけて生活している人であっても、いざという時の安心材料、頼れる人やネットワークを求めているのかもしれない。

未婚女性とは逆のベクトルで特徴的だったのは、未婚男性である。経済的な基盤が弱く、社会参加の程度も低く、長生きにも後ろ向きで、健康状態も悪い。年金受給額0円の層が1割を超えるのに、預貯金がない人も過半数に上る。その割に、老後の生活資金への不安はさほど大きくない。将来見通しが楽観的で、身近に迫る経済的リスクを正しく評価できていない人も多いのかもしれない。今後、貧困に陥ったり、心身機能が低下したりするリスクがあるが、同居家族や、付き合いのある親族がいない人も2割を超えることから、行政によるアプローチが必要だと考えられる。

次稿では、認知機能が低下した際の財産管理の問題について、配偶関係別に分析したい。
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生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子 (ぼう みおこ)

研究・専門分野
中高年女性の雇用と暮らし、高齢者の移動サービス、ジェロントロジー

経歴
  • 【職歴】
     2002年 読売新聞大阪本社入社
     2017年 ニッセイ基礎研究所入社

    【委員活動】
     2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
     2023年度  日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員

(2023年09月05日「基礎研レポート」)

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