2023年08月31日

世界保険市場2033年までの見通し-2033年生保収入保険料はインド世界第3位、日本は第5位に-

保険研究部 上席研究員 兼 気候変動リサーチセンター 気候変動調査部長 有村 寛

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1――はじめに

ドイツ最大の保険グループであるアリアンツは、2033年までの世界保険市場見通しについて、5月17日付で公表した1。同社は毎年、この時期に世界各国の10年後の保険市場見通しを公表しており、一昨年(2021年5月)は、2021年からの10年間は、世界の保険市場は「黄金の10年間」と位置付けていたが、2022年に入ってからのロシアのウクライナ侵攻、世界的なインフレの進行等を受け、政治・経済における不確実性が高まっている。そういった中、同社は今後の保険市場についてどう予想しているのか、同社が公表したデータを用いて、見ていきたい。
 
1 Allianz Global Insurance Report2023 Anchor in turbulent times(2023年5月17日)(以下、Allianz Global Insurance Report2023)。

2――2022年の世界保険市場の状況

2――2022年の世界保険市場の状況

【図表1】収入保険料増加率の推移(全世界) Allianz Global Insurance Report(2021,2022,2023)によれば、2022年の世界の保険料収入の増加率は、前年比4.9%であり、生損保別では、生保2.4%、損保8.7%となった(図表1)2。生保、損保ともに増加したが、2022年の全世界のインフレ率が8.7%3であることを考えれば、生保は実質的には伸びておらず、停滞しているといえよう。

過去2年と比較してみると、2020年は、主に新型コロナウイルスの影響により、合計保険料では、対前年減少したが、2021年には回復した。それ以降も好調が続くことが予想されたが、ロシアのウクライナ侵攻を機に状況は一変した。インフレによる家計消費の圧迫等に伴い、2022年の生保の対前年増加率は前年より減少、生損保合計の増加率も2021年より若干減少することとなった。
 
なお、図表はないが、2021年度は、米国(生保8.8%、損保9.7%)が堅調だった一方で、アジア(生保0.9%、損保1.1%)、中国(生保▲1.7%、損保▲1.7%)は低かったところ、2022年度は、アジア(生保3.6%、損保8.4%)、中国(生保3.9%、損保6.6%)ともに回復している。
(図表2)4は、2022年収入保険料における生損保別の地域別構成比を示したものであるが、生保と損保では、地域別の構成比も大きく異なっている。生保に占めるアジアの占率は高く、中国、日本を含めたアジア合計で36.3%に達している。

一方、損保は、北米が半分近くを占めており圧倒的である。アジア合計は22.3%で、初めて西欧(22.0%)を上回ったが5、全体に占める割合は、生保(36.3%)に比べると小さい。
【図表2】(生損別)保険料地域別構成比(2022年)
 
2 2022年の合計の数値(増加率)は、医療保険を含んだものとなっている。(2020年、2021年の数値は医療保険は含まない。)なお、Allianz Global Insurance Report2023に掲載されているデータより、筆者が集計したところによれば、2022年の全世界ベースでの収入保険料合計は、生命保険2兆6,210億ユーロ、損害保険1兆8,082億ユーロ、医療保険1兆1,288億ユーロとなる。なお、同レポートでは、巻末に掲載している59か国の合計をもって「world」としており、当レポートでもそれにならい、当59か国の合計値を「全世界」と表記している。
3 IFMのデータ(2023年8月9日時点)によれば、全世界のインフレ率は、2020年3.2%、2021年4.7%、2022年8.7%であった。
4 Allianz Insurance Report2023掲載データ(59か国、生・損保別)により、筆者にて集計。なお、当レポートでは「アジア」と記載しているものは、中国、日本含めたアジア合計値を記載しているが、(図表2)、(図表4)では地域別構成比で合計100%とする必要があるため、中国、日本を除く数値を「アジア(中国、日本を除く)」として記載している。
5 Allianz Insurance Report2022掲載データにより、筆者が集計したところによれば、2021年の損保の保険料収入は、西欧3,943億ユーロ、アジア3,797億ユーロだった。

3――2023年-2033年における世界保険市場の見通し

3――2023年-2033年における世界保険市場の見通し

(図表3)は、2023年から2033年の間における収入保険料平均増加率の見通しである。全世界では、この間の平均増加率は生保4.7%、損保5.0%となる中、アジアは、生保6.4%、損保7.2%と、世界を牽引することが予想されている。中でも、中国は生保7.1%、損保8.2%、さらにインドは、生保12.7%、損保13.2%と、大幅な増加が続くことが予想されている。なお、2023年5月18日付Asia Insurance Reviewでも、Allianz Insurance Report2023が取り上げられており、「アジアは世界の生命保険の成長エンジンであり続ける」と紹介されている6

また、2年前に公表されたAllianz Insurance Report(2021)では、2021年からの10年間は、パンデミックを契機としたリスク認識の高まり、持続可能性への対応、新興市場におけるさらなる保険の普及により、年平均5%以上の発展を予測、「黄金の10年間」とされていたが、その後の、ロシアによる「ウクライナ侵攻」それに伴うインフレ等により、生保の見通しは低下している。

(過去における全世界の保険料増加率見通しは、2021年-2031年生保5.7%、損保4.2%[2021年5月]、2022年-2032年生保4.9%、損保4.6%[2022年5月]、2023年-2033年生保4.7%、損保5.0%[今回]となっている。)
【図表3】2023-2033年収入保険料平均増加率(見通し)
(図表4)は、2033年における収入保険料の予想である。

生損保とも引き続き、米国が世界でトップ、中国は第2位となっている。生保では、第2位の中国との差は大きいものの、インドが大きく浮上し第3位、続いて英国が第4位となることが予想されている(2022年はそれぞれインド第9位、英国第4位)。日本は、英国に次いで第5位(2022年は米国、中国に次いで第3位)とされている。
【図表4】2033年収入保険料(見通し)
(図表5)は、2033年収入保険料見通しに基づく、生損保別の地域別構成比を示したものである。

高い増加率の結果、生損保とも、(図表2)で示した2022年の状況と比較し、アジアの占率が大きく増加しており、生保は43.1%(2022年36.3%)、損保は28.2%(2022年22.3%)となっている。特に生保は、43.1%と、アジアの収入保険料だけで、世界の半分近くを占めることとなる。
【図表5】(生損別)保険料地域別構成比(2033年)
 
6 Asia Insurance Review「Asia: Region predicted to see annual growth of 7.5% in life business over the next decade」(2023年5月18日)。

4――おわりに

4――おわりに

以上、Allianz Global Insurance Report(2023)に掲載されているデータ基づき、2022年の世界保険市場の状況ならびに、2033年の保険市場見通しについて、紹介してきた。

中でも、中国を抜いて人口世界第1位になった他、2022年の新車販売は日本を抜いて世界第3位、同年のGDPも世界第5位と、ここのところ躍進著しいインドが、生保マーケットにおいて2033年に世界第3位まで浮上してくるとされている7点や、その一方で日本は、インドのみならず、英国にも抜かれ、世界第5位になることが予想されている点は、インパクトがあり、注目される。

また、コロナ前は、中国は収入保険料において2030年頃には米国を凌駕して世界一になることが予測されていたが、昨年度のAllianz Global Insurance Report(2022)では、コロナ禍を経てその時期は2050年頃になるだろう、とされており、今後どうなっていくのか。

アジアを中心に、世界保険市場はダイナミックに動いており、動向については今後とも引き続き、注視していきたい。
 
7 Swiss Re Institute「India’s insurance market: poised for rapid growth」(2023年1月4日)では、インドは2032年の生保収入保険料で世界第5位になると予測されており、同レポートの概要については、小著「急成長を遂げるインド保険市場-2032年には生保収入保険料世界第5位に-」『保険・年金フォーカス』(2023年4月18日)でも紹介している。また、Fitch Solutions Companyが各国別に作成している「Insurance Report」では、インドの生保収入保険料は、2027年まで年平均8.7%で増加することが予測されており、筆者が国別に確認したところ、2027年の予測値では世界第11位であった。

(2023年08月31日「基礎研レポート」)

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保険研究部   上席研究員 兼 気候変動リサーチセンター 気候変動調査部長

有村 寛 (ありむら ひろし)

研究・専門分野
保険商品・制度

経歴
  • 【職歴】
    1989年 日本生命入社
    1990年 ニッセイ基礎研究所 総合研究部
    1995年以降、日本生命にて商品開発部、法人営業企画部(商品開発担当)、米国日本生命(出向)、企業保険数理室、ジャパン・アフィニティ・マーケティング(出向)、企業年金G等を経て、2021年 ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月より現職

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