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働く男性の自覚症状(健康問題)-就労男性は「ストレスを感じる」が、自覚症状、仕事へ最も影響する症状ともに高い割合に-

生活研究部 研究員・ジェロントロジー推進室・ヘルスケアリサーチセンター 兼任 乾 愛
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1――はじめに
前稿では1、弊社の調査を用いて、働く女性の自覚症状(健康問題)に焦点を当てて結果を整理したところ、有症状者の中では「慢性的な肩こり」を自覚する割合が最も高く、仕事へ影響する症状としては「ストレスを感じる」という精神的症状が最も高い割合を占めることが明らかになった。
本稿では、弊社の調査結果を用いて、働く男性の自覚症状(健康問題)に関する実態を整理する。
1 乾 愛 基礎研レポート「働く女性の自覚症状(健康問題)」(2023年8月29日)
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=75925?site=nli
2――働く男性の自覚症状
まずは、2023年の回答データ5,747件のうち、専業主夫や学生がいないことを確認した上で、調査時点において、何らかの形態で就労中である男性3,458人を抽出し、基本属性を図表1へ整理した。
今回分析対象となった3,458人の就労中の男性は、平均年齢42.24歳(SD:10.97)、最年少が18歳、最年長は64歳であった。仕事の業種別では、正社員・正職員(一般)が2,358人(68.2%)と最多で、次に正社員・正職員(管理職以上)が554人(16.0%)、続いて契約社員(フルタイムで期間を定めて雇用される者)が203人(5.9%)であった。婚姻状況では、未婚が1,531人(44.6%)、既婚(事実婚含む)が1,757人(50.8%)、既婚(離別)が129人(3.7%)、既婚(死別)が31人(0.9%)と、既婚は、事実婚や離別・死別を問わずに合計すると、1,917人(55.4d%)であった。最終学歴別では、大学卒が1,805人(52.2%)と最多で、次に高等学校卒が785人(22.7%)、続いて専門学校卒が373人(10.8%)であった。個人収入別では、300万円-700万円未満が1,711人(49.5%)と最多で、次に700-1,000万円未満が561人(16.2%)、300万未満が480人(13.9%)であった。
次に、働く男性3,458人に対し、直近3カ月間で感じた自身の身体の不調に関する自覚症状(健康問題)について調査した結果を図表2へ示した。また、この自覚症状に関する設問項目は、厚生労働省国民生活基礎調査の内容を参考に作成されたものである。尚、多重回答のため、回答件数は6,983件である。
働く男性3,458人のうち、特に自覚した健康問題はないと回答した「特になし」が1,570人(22.5%,ケース割合45.4%)と最も多く、次に「ストレスを感じる」が625人(9.0%,ケース割合18.0%)、続いて「花粉症/アレルギー鼻炎」が607人(8.7%,ケース割合17.6%)という結果が明らかとなった。
就労男性のうち、自覚症状は特にないと回答した割合が最も高いのは、就労女性の自覚症状と同様の傾向を示すが、何らかの症状を呈する有症状者のうち、女性では第2位を占めていた「ストレスを感じる」という精神的な症状が、男性の自覚症状(健康問題)では最も高い割合を占めることが明らかとなった。ケースの割合でみると、分析対象者の18%、実に2割近くがストレスを自覚している実態が明らかとなった。
次いで、何らかの有症状を呈する女性のうち第3位の症状であった花粉症が、男性では第2位に位置する自覚症状であることも明らかとなった。
続いて、上記の設問で、現在身体の不良について感じていないと回答した1,570人を除外し、現在自覚症状を有している男性1,888人を対象に、仕事へ最も影響を与えた自覚症状(健康問題)について調査した結果を図表3へ示した。
直近3か月で身体の不調を自覚する者の中では、「仕事に影響はしていない」と回答する者が543人(15.7%)と最も多く、次に「ストレスを感じる」と回答した者が246人(7.1%)、続いて「花粉症/アレルギー性鼻炎」と回答した者が192人(5.6%)という結果であった。
この結果は、上述の働く男性の自覚症状(健康問題)の症状順位とも合致しており、働く女性の有症状者の中での仕事へ最も影響を与える症状順位とも合致する。男女とも仕事へ影響を及ぼすのは、身体的な症状よりも精神的なストレス症状であるということが明らかとなった。
3――就労男性の自覚症状と留意点
本調査において、就労中の男性の自覚症状(健康問題)を有する者の中で、「ストレスを感じる」が占める割合が最も高い結果が明らかとなった。
前稿でも解説した通り1、この「ストレスを感じる」という精神症状は、なんらかの外部からの刺激(ストレッサー)によって、身体的心理的に生じる反応のことを示す。人間の身体では、ストレスが生じると、それを解消しようとする防御反応が働き、ストレッサーをうまく制御できた場合には「適用」という様態をとり、うまく制御ができなかった場合には、「不適応」を引き起こし、心身に様々な影響が現れる。精神面に限ると、不安や抑うつ症状、錯乱状態などの反応性精神障害や、急性ストレス障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)などがこれに当たる。今回の調査では、このストレスを感じるに至る原因は特定されていないものの、何らかの外的刺激によりストレス反応を生じた結果、自覚症状として認知されている状態であると言える。
また、一般的に、男性よりも女性の方がストレスを感じやすいとされている。実際に、今回の調査結果においても、就労女性の「ストレスを感じる」ケースの割合は25.5%と、実に4人に1人が自覚する症状であるのに対し、就労男性の「ストレスを感じる」ケースの割合は18.0%と、2割近くが自覚する症状であると判明しており、単純比較にはなるが男性よりも女性の方がストレスを感じる割合が高いことが分かる。これは、女性の方が家事・育児・介護時間が長いことや細かいタスクが多いこと、コミュニティーの広さゆえに接するストレスの種類が多いことや、女性ホルモンの変動による影響を受けやすいこと等が原因と考えられている為である。
一方で、男性は女性と比べて相対的にストレスを感じる者の割合が少ないものの、ストレスコーピング(対処行動)2において逃避・回避型の特徴が認められることが報告されており、その行動特性が自己評価の低さや社会的適応の悪さと関連することが指摘されている。3つまり、男性はストレスを感じる場面は女性と比べて少ないものの、一度ストレスを感じるとうまく対処行動をとれないのが特徴的であると示唆されているのである。
また、2023年3月に警察庁より公表されたデータでは4、2022年度中の男性の自殺死亡率は24.3で、女性の11.1と比較し、実に2.1倍も高い実態が示されている。男性の自殺死亡率が高い理由は、有名なところで、ジョイナーの自殺の対人関係理論5にて説明されることが多く、「負担感の知覚」、「所属感の減弱」の高まりに「自殺潜在能力」が加わると致死性の自殺行為におよび、その決行率が男性の方が高いとされている為である。ストレスを感じている男性は、特に留意が必要であり、適切なストレスコーピングができているかについても見直す必要があろう。
2 ストレスコーピングとは、心理的ストレス状態で生じる外的及び内的欲求をマネジメントしようとする個人
の認知的・行動学的努力を(Coping)と呼び、個人がストレス状態をマネジメントするために用いる実際の
特異的な行動もしくは認知的操作をコーピング行動という。(Folkman & Lazarus, 1984)
3 小川俊樹(1997)「コーピング行動性差の検討―性役割の観点から―」Tsukuba Psychological Research
1997, 19, 79-90.
4 警察庁生活安全局生活安全企画課(2023)「令和4年中におかえる自殺の状況」(令和5年3月14日)
https://www.npa.go.jp/safetylife/seianki/jisatsu/R05/R4jisatsunojoukyou.pdf
5 Thomas E. Joiner(2005) “Why people die by suicide” Harvard University Press,
Cambridge, MA, 2005.
(2023年08月31日「基礎研レポート」)
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03-3512-1847
- 【職歴】
2012年 東大阪市入庁(保健師)
2018年 大阪市立大学大学院 看護学研究科 公衆衛生看護学専攻 前期博士課程修了(看護学修士)
2019年 ニッセイ基礎研究所 入社
・大阪市立大学(現:大阪公立大学)研究員(2019年~)
・東京医科歯科大学(現:東京科学大学)非常勤講師(2023年~)
・文京区子ども子育て会議委員(2024年~)
【資格】
看護師・保健師・養護教諭一種・第一種衛生管理者
【加入団体等】
日本公衆衛生学会・日本公衆衛生看護学会・日本疫学会
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