2023年08月29日

男性の育休取得の現状-「産後パパ育休」の2022年は17.13%、今後の課題は代替要員の確保や質の向上

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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3事業所規模別の状況~大規模ほど男性の育休取得率・上昇幅も共に大きく、小規模では人手不足感
事業所規模別に見ると、男性の育休取得率は規模が大きいほど高く、2022年では30人未満では11.15%にとどまるが、500人以上で25.36%を占める(図表6)。男性の育休取得の進む大企業傘下の事業所が取得率を押し上げている様子がうかがえる。
図表6 事業所規模別に見た育児休業取得率(民間企業) 一方、女性では100人以上の事業所では9割を超える一方、30人未満では7割を下回り、男性と比べて育休取得が進んでいるだけに事業所規模による差が大きい。

2021年と2022年を比べると、男性の育休取得率は30人以上の事業所では上昇しており、規模が大きいほど上昇幅は大きい(30~99人:同13.08%→同17.43%で+4.36%pt 、100~499人:同14.70%→同21.92%で+7.22%pt、500人以上:2021年17.00%→2022年25.36%で+8.36%pt)。一方、30人未満の事業所では僅かながら低下している(同12.39%→同11.15%で▲1.24%pt)。

この背景には、次節にも示すが、育休取得者の代替要員の確保などに課題があるようだ。日本商工会議所および東京商工会議所「多様な人材の活躍に関する調査」(2021年9月)によると、中小企業における男性の育休取得促進に関する課題で最も多いのは「人員に余裕がなく、既存社員による代替が困難」(56.7%)で過半数を占め、次いで「専門業務や属人的な業務が多く、対応できる代替要員がいない」(38.2%)、「採用難で代替要員が確保できない」(32.1%)と続く。

女性については、100人以上の事業所では既に育休取得が浸透しているために(取得率9割以上)、2022年では30~99人の中規模事業所での伸びが目立つ(2021年79.30%→2022年84.56で+5.26%pt)。また、女性でも男性と同様、30人未満の事業所(同79.90%→同66.99で▲12.91%pt)では取得率が低下している。

3――育休取得者の代替方法

3――育休取得者の代替方法~補充なし8割、大規模事業所では日頃から人手に充足感、小規模に課題

前述の通り、小規模事業所では育休取得者の代替要員の確保に課題があるようだ。厚生労働省「令和4年度雇用均等基本調査」にて育休取得者の代替方法を見ると、全産業で約8割を占めて圧倒的に多いのは「代替要員の補充を行わず、同じ部門の他の社員で対応した(以下、同僚が対応)」(79.9%)である(図表6)。一方、「派遣労働者やアルバイトなどを代替要員として雇用した(以下、代替要員を雇用)」(15.0%)や「事業所内の他の部門又は他の事業所から人員を異動させた(以下、人事異動で対応)」(14.6%)といった組織外部からの代替要員の補充は2割に満たない(図表7)。
図表7 育児休業取得者がいた際の代替方法(民間企業、2021年)(複数選択、%)
産業別に見ても、全ての産業で圧倒的に多いのは「同僚が対応」であり、特に「鉱業,採石業,砂利採取業」(100.0%、全体より+20.1%pt)や「情報通信業」(99.2%、同+19.3%pt)、「運輸業,郵便業」・「不動産業,物品賃貸業」(どちらも88.4%、同+8.5%pt)、「学術研究,専門・技術サービス業」(87.9%、同+8.0%pt)、「製造業」(87.4%、同+7.5%pt)、「卸売業,小売業」(87.0%、同+7.1%pt)で多い(全体を+5%以上、上回る)。

なお、必ずしも、男性の育休取得率の高い産業ほど外部から代替要員を補充できているということではなく、組織における人手の充足状況や雇用形態の違いの影響が大きいようだ。

例えば、育休取得率が比較的高い「情報通信業」では、前述の通り、「同僚が対応」がほぼ100%を占めるが、これは正規雇用者が多く7、雇用が安定的に確保できているために、現在のところ、代替要員の補充の必要性が高くないという状況も考えられる。同様に、育休取得率が首位の「金融業,保険業」では「人事異動で対応」(30.0%、全体より+15.4%pt)が多いが、同様に正規雇用者が多く8、社内全体で見れば人手に比較的余裕があるという可能性がある。一方、育休取得率が低い「宿泊業,飲食サービス業」では「代替要員を雇用」(20.6%、同+11.0%pt)が多いが、前述の通り、非正規雇用者が多く、雇用が安定的に確保できていないために、新たに雇う必要があるとも考えられる。

事業所規模別に見ると、規模が大きい方が「同僚が対応」や「人事異動で対応」が多い傾向があり、500人以上では「代替要員を雇用」(37.2%)も約4割を占めて多い。つまり、大規模事業所では、従来から人手に比較的余裕があるために、現在のところ、代替要員の補充の必要性が高くなく、さらに、経営体力があるために新たに雇うことも可能であるという様子がうかがえる。

なお、500人以上と30人未満を比べると、「同僚が対応」(500人以上が30人未満より+11.9%pt)も「人事異動で対応」(同+26.1%pt)も「代替要員を雇用」(同+24.2%pt)も、いずれも500人以上が大幅に上回っていることから、小規模事業所では社員の休業によって、業務、あるいは事業自体を縮小せざるを得ない状況もあるのかもしれない。
 
7 総務省「労働力調査(2022年)」によると、非農林業従事者の役員を除く雇用者で正規雇用者の割合は、全体では男性 
77.9%、女性46.6%、「情報通信業」では男性89.6%、女性74.2%。
8 脚注7と同様、「金融業,保険業」の正規雇用者の割合は男性89.1%、女性71.8%。

4――おわりに

4――おわりに~今後の課題は代替要員の確保や質の向上、既に人手不足の中小企業には具体的支援

本稿では、政府統計を用いて、民間企業の男性の育休取得状況を捉えたところ、「産後パパ育休」が施行された2022年の育休取得率は17.13%で過去最高であった。

産業別に見ると、16業種中13業種で男性の育休取得率は上昇しており、2021年に引き続き、「金融業,保険業」や「情報通信業」、「学術研究,専門・技術サービス業」のほか、新たに「医療,福祉」や「生活関連サービス業,娯楽業」も上位にあがっていた。一方、男性の育休取得率が低いのは「卸売業,小売業」や「宿泊業,飲食サービス業」であり、従来から非正規雇用者が多く、正規雇用者と比べて育休取得環境が整っていないことなどが影響している可能性がある。

また、事業所規模別には、30人以上の事業所では、いずれも男性の育休取得率は前年より上昇しており、大規模であるほど取得率は高く、上昇幅も大きくなっていた。一方、30人未満の小規模事業所の男性の育休取得率は1割程度で低く、しかも、2022年の取得率は僅かながら低下していた。なお、育休取得者の代替方法を見ると、大規模事業所や正規雇用者の多い産業では同僚や人事異動による対応が多く、日頃から雇用が安定的に確保されており、人手に余力がある一方、小規模事業所や非正規雇用者の多い産業では人手不足も育休取得の障壁となっている様子がうかがえた。

政府は「第5次男女共同参画基本計画」にて、2025年に男性の育休取得率30%との目標を掲げている。この目標達成に向けて、昨年秋に「産後パパ育休」が創設され、育児・介護休業法が改正されることで制度環境が整えられた中では、今後は育休取得者の代替要員の確保が一層、大きな課題となるだろう。既に人手不足感のある中小企業に対しては行政による具体的な支援が必要であり、例えば、社員が育休を取得した際の助成金の支給、少人数体制における働き方改革や育休取得に向けた人員計画の策定支援などがあげられる。

一方、大企業では現状、既存社員が業務を代替するケースが多いようだが、業務負担の増した社員に対する適切な評価が求められるとともに、今後は男性の育休取得率が更に上昇し、取得期間が長期化することを前提とした採用などの人員計画の策定も必要である。

なお、本稿では育休取得期間には触れていないが(2022年の調査項目に無いため)、男性の育休取得期間を延ばし、育休の質を高めることも課題である。前稿(2021年の調査項目には有り)にて、育休取得期間について男女を比べたところ、女性は10カ月以上が約8割を占める一方、男性は2週間未満が過半数を占めていた(うち約半数は5日未満)。また、男性の育休取得率が高い産業でも、必ずしも育休取得期間が長いわけではなく、取得率首位の「金融業,保険業」では取得期間5日未満が約7割、2週間未満が9割を超えていた(2021年)。育休取得期間は必ずしも長ければ良いというわけではないが、現在のところ、男性の育休は年末年始や夏季休暇と同程度の期間に集中しており、男女の育休の質には隔たりがある様子が見てとれる。前述の通り、育休取得者の代替方法の大半は同僚の対応によるものであった背景には、現状の男性の育休が有給休暇の範囲を超えない程度であることも影響しているのだろう。今後、大企業での取り組みを進めるためには、先駆けて男性の育休取得が促進されている国家公務員男性(2021年の男性の育休取得率34.0%、うち約3割が1か月以上9)の雇用管理上の課題やベストプラクティスの共有が有意義である。

男性の育休取得の浸透に向けては、政府や大企業などの影響力のある組織が中心となって障壁となる要因を丁寧に取り除きながら、制度の運用を工夫していく、そして、社会全体の価値観を変えていくという息の長い取り組みが求められる。
 
9 内閣官房「国家公務員の育児休業等の取得状況のフォローアップ及び男性国家公務員の育児に伴う休暇・休業の 1 か月以上取得促進に係るフォローアップについて」(2022/12/6)
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

(2023年08月29日「基礎研レポート」)

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