2023年08月29日

シングル高齢者の住宅と生活~未婚女性の6割は1日60分以上歩くアクティブ層、未婚男性と離別・死別男女の1割弱は殆ど歩かない不活発層

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子

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4――シングル高齢者の家族、つき合いのある親族

次に、シングル高齢者の交流の状況を探るために、同居家族と、同居でなくてもつき合いのある親族の範囲について分析した(図表3)。その結果、全体として「兄弟・姉妹」を挙げた人が多かった(図表3のそれぞれ下から三つ目)。配偶関係別に見ると、特に「未婚」でその割合が多かった。未婚男性では約8割、未婚女性では9割を超え、配偶者や子、孫がいない中で、血縁関係のある兄弟・姉妹との結びつきが強い傾向があることが分かった。この傾向は、3でみた「未婚男女の各2割が兄弟姉妹と同居」という結果とも符合する。

また、注目すべきはグラフいちばん下の選択肢「家族やつき合いのある親族はいない」という、親族間の交流の無い層である。未婚男性のうち2割以上が選択していた。3でも述べたように、他者との関わりが少ないと、孤立・孤独、閉じこもりへのリスクが高まる。一方、女性では「家族やつき合いのある親族はいない」はいずれの配偶関係でもゼロか5%未満だった。女性の方が、男性に比べて親族との交流が盛んであることを示唆している。
図表3 配偶関係別にみたシングル高齢者の家族とつき合いのある親族

5――シングル高齢者の歩行習慣

5――シングル高齢者の歩行習慣~社会参加の状況~

最後に、シングル高齢者の社会参加の程度を探るために、「歩行習慣」について、性・配偶関係別に分析した(図表4)。まず1日の歩行習慣が「60分から90分未満」と「90分以上」を合わせたアクティブ層について見ると、未婚女性が最も多い約6割と最も多い。次に多いのが「配偶者あり」の女性(約5割)、「配偶者あり」の男性(同)となっている。高齢未婚女性にアクティブ層が多い理由については、本稿の分析では明らかにできない。前稿でみた通り、就業率は、例えば60歳代後半の未婚女性は約2割で、他の性・配偶関係よりも特に高い訳でもなく、仕事の有無とは直接関係がなさそうである。この点は、今後の筆者の課題としたい。

次に、「ほとんど歩かない」という不活発層に注目したい。1日の中でほとんど歩かないなら、散歩などの運動習慣がないだけではなく、仕事や友人との交流など、社会参加の機会が殆ど無いと考えられる。

まず男性についてみると、「ほとんど歩かない」は「未婚」と「離別・死別」でそれぞれ1割弱存在した。女性の場合、「未婚」ではわずかだったが、「離別・死別」では1割弱となっていた。つまり、シングル男性と、未婚女性の1割近くは、ほとんど運動も社会参加もしていない不活発な生活をしていると見られる。
図表4 配偶関係別にみたシングル高齢者の歩行習慣

6――終わりに

6――終わりに

本稿でみてきたシングル高齢者の生活をまとめると、まず住宅については、賃貸住宅に住んでいる割合が、有配偶高齢者に比べて大きい。未婚男性だと約4割に上り、未婚女性では約2割だった。賃貸だと、収入が減った老後も賃貸料が発生し続けるため、長く、家計の重い負担になる可能性がある。

また、未婚と離別・死別の女性では、両親など家族名義の戸建てに住んでいる人も、それぞれ2割近くに上った。このような場合、現在は低費用で住宅を確保できていても、今後、名義人の死亡などライフイベントが発生すると、相続の問題等で、将来的に住み続けられるかどうかという問題に直面する可能性がある。シングルの住宅問題については、今後も動向を注視する必要があるだろう。

家族構成については、シングルは当然ながら独居が最多で、未婚だと7~8割、離別・死別だと5~6割だった。未婚では、男女とも約2割が兄弟姉妹と同居していたほか、1割弱は親と同居していた。同居家族とつき合いのある親族の範囲についても、未婚は兄弟・姉妹とつき合いがある割合が大きく、配偶者や子、孫といった家族がいない代わりに、血縁者である兄弟・姉妹との結びつきが深いことが分かった。今後、高齢者市場では、友人だけでなく、兄弟・姉妹との交流関係を考慮することが一つの鍵になるのかもしれない。

シングル高齢者の社会参加の程度を測る歩行習慣について見てみると、未婚女性では、1日60分以上というアクティブ層が約6割に達することが分かった。高齢未婚女性の行動範囲や支出行動については、今後の研究課題としたい。また、有配偶の女性や男性でも、約5割がアクティブ層である。有配偶の場合は、夫婦で外出しているケースも多いかもしれない。

一方、シングル高齢者の中で、他人との交流関係が薄く、不活発な層の存在も浮かび上がってきた。未婚男性では約2割が「家族やつき合いのある親族はいない」という状態だった。また、未婚と離別・死別の男性、離別・死別の女性では、歩行習慣についても「ほとんど歩かない」が1割弱存在した。つまり、未婚男性と、離別・死別の男女には、孤立・孤独や閉じこもりのリスクが相対的に高い可能性がある。筆者の既出レポートでも説明してきたように、高齢者の孤立・孤独や閉じこもりは、うつや認知機能低下、身体機能低下、死亡率上昇などにつながる恐れがあるため、注意が必要だ。介護予防の観点からも、特にシングルの高齢者は、意識的に地域に出て交流し、社会参加することが重要だろう。

次稿では、シングル高齢者たちの老後への意識と不安、備えについて分析する。
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生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子 (ぼう みおこ)

研究・専門分野
中高年女性の雇用と暮らし、高齢者の移動サービス、ジェロントロジー

経歴
  • 【職歴】
     2002年 読売新聞大阪本社入社
     2017年 ニッセイ基礎研究所入社

    【委員活動】
     2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
     2023年度  日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員

(2023年08月29日「基礎研レポート」)

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