2023年08月17日

英国雇用関連統計(23年7月)-実質賃金伸び率がプラスに回帰

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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1.結果の概要:失業率は4.2%まで上昇

8月15日、英国国家統計局(ONS)は雇用関連統計を公表し、結果は以下の通りとなった。
 

【7月】
失業保険申請件数1前月(154.28万件)から2.91万件増の157.19万件となった(図表1)。
申請件数の雇用者数に対する割合は4.0%となり、前月(同3.9%)から上昇した。
給与所得者数2前月(3013.30万人)から9.7万人増の3023.02万人となった。
増減数は前月(+4.7万人)から増加し、市場予想3(▲1.2万人)を下回った。

【6月(23年4-6月の3か月平均)】
失業率は4.2%で前月(4.0%)から上昇、市場予想(4.0%)を上回った(図表1)。
就業者は3292.9万人で3か月前の3299.5万人から6.6万人減少した。
増減数は前月(+10.2万人)からマイナスに転じ、市場予想(+9.0万人)も下回った。
週平均賃金は、前年同期比8.2%で前月(7.2%)から上昇、市場予想(7.4%)も上回った(図表2)。

(図表1)英国の失業保険申請件数、失業率/(図表2)賃金・労働時間の推移
 
1 求職者手当(JSA:Jobseekerʼs Allowance)、国民保険給付(National Insurance credits)を受けている者に加えて、主に失業理由でユニバーサルクレジット(UC)を受給している者の推計数の合算。なお、UCはJSAより幅広い求職手当てであり、失業者数を示す統計としては過大評価している可能性がある。このため、ONSは失業保険等申請件数について公式統計とはしておらず実験統計という位置付けで公表している。ただし、公表日の前月のデータを入手できるため、速報性の高さという利点がある。
2 歳入関税庁(HRMC)の源泉徴収情報を利用した統計。直近データは約85%のデータから推計(22年7月から推計方法変更)。
3 bloomberg集計の中央値。以下の予想値も同様。

2.結果の詳細:賃金上昇圧力は依然として強く、実質賃金伸び率がプラスに回帰

まず、7月のデータとして公表されている求人数および給与所得者数を確認すると、求人数は23年5-7月の平均で103.6万件となり22年3-5月平均(130.2万件)をピークに減少傾向が続いており(図表3)、産業別には、最近は飲食・居住、医療、専門サービスといったサービス業を中心に減少が目立っている。単月求人数も7月に102.3万件となり、減少傾向にある4

給与所得者データでは、7月の給与所得者数(速報値)が前月差で+9.7万人となり大幅に増加した。また6月の給与所得者数も+4.7万人となり、前月公表された速報値ではマイナスだったが、プラスに修正された(図表4)。7月の給与額(中央値)は前年同月比7.8%で6月(8.4%)から減速している。
(図表3)求人数の変化(要因分解)/(図表4)給与取得者データの推移
6月までのデータ(労働力調査)では、失業率が4.2%と失業率は21年9月以来となる水準まで上昇した。就業者が予想に反して減少し、失業者と非労働力人口がともに増加した。非労働力人口の増加によって、労働参加率も頭打ちとなった(4-6月期は63.6%、コロナ禍直前ピークは64.4%)。
(図表5)名目賃金の推移/(図表6)英国の労働争議件数と労働損失日数
労働時間は、31.8時間(前年同期差±0.0時間)、フルタイム労働者で36.6時間(同+0.2時間)となった(前掲図表2)。週当たり総労働時間は、2-4月期に一時的にコロナ禍前ピーク(19年8-10月)を上回ったが、2か月連続で就業者数の減少したこともあり、コロナ禍前比▲0.9%まで低下した。賃金は、名目賃金が23年4-6月の前年同期比で8.2%、実質賃金は0.5%となり、いずれも大幅に上昇、実質賃金は22年3月ぶりとなる前年比プラスに浮上した(前掲図表2)。ボーナスを除く定期賃金伸び率は前年同期比7.8%で市場予想(7.4%)を上回り、データ公表以来最も高い伸び率となった(図表5)。実質で見た定期賃金伸び率も前年同期比0.1%とプラスとなった。

処遇改善を求めたストライキは、6月は件数ベースで298件、労働損失日数で16.0万日となった(図表6)。件数・損失日数ともに大幅に減少した5月並みだが、過去と比べるとまだ水準は高い。
 
4 3か月平均のデータは季節調整値だが、単月データは未季節調整値のため季節性が除去されていないため留意が必要。
 
 

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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2002年 東京工業大学入学(理学部)
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2023年08月17日「経済・金融フラッシュ」)

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